ココロノコトウ
私は心に住んでいた。
心の中は海に囲まれた孤島であったが充実していた。
泣くと、雨が降り、さみしい思いをすれば乾いた風が吹く。
また、嬉しい思いをすれば晴れ晴れとした空になり、
興奮すると日差しが暑くなる。
外の世界で何かあると心の中でも何かが起こった。
海は知識そのものだった。
新しい発見をもとめて私はよく海に飛び込んだ。
海は偉大で潜るたびに素晴らしい景色を私に見せてくれた。
島に生い茂る植物は私の感受性やひらめきだった。
美しい花や気に入ったものがあると、家に持ち帰り飾っていた。
家は小さなものだった。一人で住んでいたので広さは気にしなかった。
誰が建てたのかはわからないが、壊れやすくちょっとした雨や風で揺れることが多かった。
日々の生活はとても楽しかった。
暑い日には海に潜り、素晴らしい景色を見て、
晴れた日には島の花々を鑑賞し採集する。
家に持ち帰ってそれを飾り、今日一日を振りかえり
その日を終える。
そんな生活に満足し、不安もなかった。
ある日、激しい雨が降り、とても強い風が吹いた。
家は大きく揺れ、家鳴りがした。
私は行けなかった海を窓から眺めていた。
無残にも草花が散り、風にさらわれてゆく。
それでも海は穏やかだった。
私はその日何もせず、眠りについた。
次の日の朝、私は海に向かった。
雨は降っていなかったが空は灰色の雲に覆われ、
風は少し強かった。