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サイシュ ノ ココロエ

いろいろわかりやすい展開で。

「あ~あ・・・ここもだめかぁ・・・」


 意気消沈して少女はつぶやく。

 目の前に広がるのは草原。 そのごく一部だけがぽっかりと土肌を見せている。 そう。 あまりにも不自然に。

 その場所は最初の街から脱出した初心者が最初に辿り着く2番目の街のほど近くの草原。 そのはずれ、もうちょっと歩けば森、という位置。 ようやく駆け出し商人の装備を身につけられるようになったばかりの彼女にとってはほんの少し背伸びのマップである。

 この世界で彼女は薬草の類を採取して必要な人に売る、という生活をしている。 初めてのVRMMO、友人に誘われて『商人、製薬系のスキル持ち』を担当することになって登録したはいいけれど、キャラクター登録の際に初期ステータスを振る、というところで『ステータス』が意味することがよくわからないまま適当に振って登録してしまった。 ガイドは熟読したが、ゲーム初心者にはぴんと来なかったのだ。 その結果、戦闘行為にはまったく向かない『ゴミステータス(友人の弁)』になってしまい、ある程度戦えるようになるまでは薬草採取でもしてレベル上げて、と放り出されてしまった。 聞けば、先行して始めていた友人は初心者集団とはいえ、戦闘系のギルドに所属しており、ステータス的に足手まといにしかならない彼女の面倒はみられないとのことだった。


「はぁ・・・」


 ため息をついて座り込む。

 ある程度『育った』ら一緒に行動しよう、と言われ、とにかくできることでレベル上げを、と薬草採取に励んでいたのだが。


「なんで行ける範囲の薬草がなくなってるかな・・・」


 そこに生えていた植物を根こそぎ抜いていったとしか見えない一角を見つめる。

 一生懸命探してやっと見つけたいくつかのいわゆる初期狩場マップ内薬草群生地がここ数日、どこもこんな感じなのだ。 薬草に限らず、何か生えてくる気配もない地面に深いため息。 彼女にはこれしか経験値を得る手段がないというのに、これではいつになったら戦えるくらいになれるのか。 こうしている間にも友人はどんどん強くなっていて、引き離されるばかりだというのに。

 暗くなっていく思考を頭を振って追いやり、ないものは仕方ない、と立ち上がる。 その時だった。


「あーっ! もう、なんてことしてんのよっ!」


 突然怒鳴りつけられ、立ち上がりかけた肩を押さえつけられてぺたん、と座り込む。 何が起こったのかわからず、声の方向を見上げると、そこには怒った表情の女性プレイヤーがいた。


「え・・・?」

「そこに正座っ!」


 いったい自分が何をしたのかわからず、彼女は女性の怒りのままの言葉に従ってしまう。 知らずになにかやらかしてしまったのか、と軽くパニック状態だ。

 女性はそんな様子には構わず、地面に正座した彼女の前に腰に手をあてて仁王立ち、という姿勢でまくしたてる。


「いい? 薬草ってちゃんと後のことを考えながら採取しないとなくなっちゃうのよ! こんな風に根こそぎ取っちゃったら回復しないじゃないの! 最初の頃は採取の経験値もバカにならないけど、ほかの人のことも考えなさいよ! こんな自分本位なやり方してたら誰も相手にしてくれなくなるんだから! これだから素人さんはっ!」


 勢いに押されて返事もできない。 だが、女性が彼女をどう思っているかはわかった。 この丸坊主状態は彼女がやったと思っているのだ。

 違う、と言いたかった。

 そんなこと、していない、と。

 グリーン・フロンティアというこの世界では一般的なゲームと違って自然状態も現実に即している、と説明されている。 発生周期こそゲーム感覚の時間だろうが、自然破壊すればその回復は難しい、というのは世界観のガイドにちゃんと書いてあった。 ゲーム特有のステータス構成はわからなくても、現実にも起こりうる現象が起こる、というのは理解している。 それに、友人に放り出されて途方に暮れているノービスの時に薬草採取場所で出会った同じノービスさんから採取の仕方を教えてもらっている。 もっとベテランさんからの知識、と教えてもらったその方法なら取りつくすなんてことはしない。 ちゃんと後のことも、他にもいっぱいいるだろう自分と同レベルの人が来てもだいじょうぶなように考えられた方法だったから。 だから、最初から採取は気をつけて、細心の注意を払ってやってきたのだ。

 しかも彼女はここには数日振りにきたところだ。 彼女にとってここは背伸びマップ。 十二分な準備をしなければ来られる場所ではない。 そしてその準備のためにはある程度はお金稼ぎをしないとならない。 彼女のレベル、ステータス、スキルではそれを稼ぎ出すのにも数日かかるのだ。

 だから女性のお説教は彼女にとって身に覚えのないことで罵倒されているようにしか思えず、でもそのマシンガンのような勢いに負けて言い返すこともできず。 じわり、と涙がにじんできた。 装備から見て彼女よりも友人よりもかなり上位レベルとは思うけれど、見ず知らずの人にやってもいないことでなんでこんなに責められなければならないのか、と。


「だいたいね、そんな初級レベルでなんで一人でうろうろしてるのっ! それくらいの頃は誰かに助けてもらうか同レベルとパーティー組んでレベル上げするのが普通なの! そりゃ一人で採取してたら経験値は独り占めだけど、そんなやり方は・・・」

「違いますっ! 私、独り占めなんてしてないっ!」


 怒涛の責めにパニックがキレる、という方向に突っ走り、彼女は怒鳴り返していた。


 いきなり現れて頭っから決め付けて話を聞くことすらしないで。 好きで一人で採取してるわけじゃない。 ステータスがゴミだから助けられないって友人に言われたから。 レベルが上がってある程度足手まといにならなくなるまで採取でもしてたら、と言われたから。 それでも根こそぎなんてしたらどうなるか、ガイドで知ってたから、偶然出会ったプレイヤーさんから教えてもらった通りに気をつけて採取してたのに。 初めの街の草原もだめで、やっとモンスター避けの結界やポーションが揃ったから久しぶりにここまで来たところなのに。

 それなのに、なんで見ず知らずのあなたに責められなきゃならないの?


 息をつく間も惜しんで言い返した頃にはぼろぼろと涙がこぼれる。 もう、わかっている。 友人といっしょにゲームを楽しめる日なんて来ないこと。 ゲーマーな友人はちょっと前に始めていて、その分始めたばかりの彼女よりすでにいる仲間と遊んだほうが楽しいから、彼女を体よく一人にしたんだろうこと。 ゲーム自体初心者の彼女にかまっているのなんて鬱陶しいだけだろうこと。 だから、助けようともせずに放置されたのだろうこと。 このやり方じゃどんどん引き離されてしまう、こと。

 それでも。

 それでも未知の世界で遊んでみたかったのだ。 友人と遊べなくても新しいトモダチが出来るかもしれない。 いっしょに冒険していける人がいるかもしれない。 だからルールは守ってきたのに、なんでこんないやな思いをしなくちゃならないんだろう。


「そ・・・そんな言い逃れしたって・・・!」


 泣き出した彼女に若干引き気味に、それでもまだ責める姿勢を変えようとせず糾弾続行の女性。 けれどそこに新たな介入があった。


「その方じゃないですよー、マナー違反で根こそぎしたのー」


 女性のあまりにあまりな言葉にもう耐えられない、と思った時、ゆるい雰囲気の声がいきなり横合いからかかる。 そののんびりした声が女性の続く言葉を止めた。


「だいじょうぶですかー? 正座なんてしなくていいですよ?」


 ひょい、と横にしゃがみこんで頭を撫でてくるのは彼女と大差ない年齢に見えるノービスの少女。 その状況に一瞬言葉を途切れさせた女性が声を上げる。


「ちょっと! 私は不心得者に常識を説教してるのよ! 邪魔し・・・」

「だから、違うですよ。 あなたの勘違い」


 ノービスな少女は攻撃的な女性の声にもまったく臆することなくその言葉を遮る。 穏やかな口調、声なのにそれはテンションマックスの女性さえ口をつぐむ何かがあった。


「ここがこんなになってるのは一週間前から。 とっくに掲示板で問題になっててベテランさんたちがいろいろやってます」


 ご存知なかったんですねー、と彼女の涙をどこからか出したハンカチで押さえながらながら続ける。

 ここだけじゃなくって初期狩場どころか中級狩場まで軒並みやられてるそうですよ、と。


「これだけ大規模、複数の場所がやられてるってことは困ったちゃんの組織的犯行、って言われててー。 最前線組が粛清に乗り出すって大騒ぎになってますー」


 けっこう物騒な内容が柔らかな口調で語られる。 女性が口を開いては閉じて、を繰り返しているが、その少女の言葉が絶妙なタイミングでそれを封じる。


「それに人を責めるのはそれなりの根拠と証拠が揃ってから。 当たり前ですよね?」


 その言葉でノービス少女が初めて女性を真正面から見据える。 そして彼女もノービス少女を見やって。 やっと、気がついた。

 とっても平凡などこにでもいそうな顔立ち。 時折緑っぽく見える黒髪は右肩のあたりで茶色のボンボンでまとめられている。


 この子、初日に採取方法を教えてくれたノービスさんだ。


 その子がなんでここにいるんだろう、とぼんやり見上げる。


「それなりに中堅さんともあろう方が、たまたま乱獲跡にいたから犯人だって決めつけるんですか? ちゃんと見ればこの方じゃないってわかると思うですよ?」


 女性に向かった少女の雰囲気が若干変わっているように見える。 ほんわかしているのは変わっていないのに・・・なんだろう、この反論を許さない空気は。


「初心者さんにいろいろ教えて差し上げるのはよいことかと思うですが。 行きすぎた正義感と謂れのないお説教はただの暴力です」


 柔らかな口調ながらきっぱりと言い切った少女はそのまま女性を見上げ、彼女をかばうように立ちはだかる。 女性が初めて視線を彷徨わせた。


「え・・・あ・・・だ、だって! 誰だってこの状況見ればそう思うでしょうっ? だから私は間違ったやり方を正そうとっ!」

「理由も状況も聞かず、きちんと見て確認することもせず、一方的に思い込んで責めるのが、ですか?」


 それでも何か言い出した女性。 少女がそれを遮って止める。


「こういう時、まずするのは本当にそんなことをしたのかどうかを確認すること。 初期装備だから、知らない可能性だってあるでしょうし、そうしたら理由を説明してどうするのがいいか、教えること。 それってベテランさんがあちこちで言ってますよね?」


 それに、と少女が続ける。

 もし本当にそんなマナー違反したんだとしても。 揚げ足取りみたいにその方の今の状況を非難して未来のプレイまで否定して、追い詰めるのは人としてのマナー違反でしょう、と。


「一人なのにはいろんな理由がありますもん。 なかなかいっしょに遊ぶ仲間、みつけられない方だっています。 最近は先行組に追いつこうとばかりして、ステータスやスキルばっかり重視して、戦えないとゴミ呼ばわりする初心者さんが増えましたからねー。 それの犠牲者の可能性だってあるですよ?」


 まず話し合って状況を確認することを怠って一方的に相手を攻め立てる。 自分だけが正しい、なんてそれこそあなたのほうがずっと独りよがり。


 柔らかい口調なのに容赦のない、言葉。


「だったら! 違うって否定すればいいじゃないっ!」

「頭ごなしに怒鳴られれば誰だって萎縮します。 証拠も根拠もないのに威嚇するなんて最低のマナー。 ましてや、自分よりも先輩にあたる方に言われたら知らないうちに何やっちゃったんだろうってパニック起こすものだと思いますよ?」


 だいたい、否定してる言葉を頭っから言い逃れって言ってるのが聞こえてましたよ、と少女が言うのに女性が反論しようとしては言葉が出てこないのか赤くなったり青くなったりしている。 それに少女が肩をすくめて、しゃがみこむ。


「あなたが根こそぎなんてしてないの、見ればわかります。 こんな地面がぼこぼこになるような採取したら装備は泥だらけ、手だって草の汁ででろでろなっちゃいますもんね」


 そう言って、汚れていない手を取ってぽんぽん、と撫でるようにする。


「公式掲示板、見てみるといいですよ。 犯人、特定されたそうですから。 しばらくしたら最前線の生産者さんたちの正しいお説教タイムだと思うですよ」


 わかっててやったんなら犯人さんたち、生産者系ギルドから締め出されるかもですねー、とふわふわ笑う少女。 NPC売りじゃないポーションや装備、売ってもらえなかったり直してもらえなくなったりするかもー、と言っている内容のエグさに表情と口調がまったく合っていない。


「ありが・・と・・・でも・・・ここが私の行ける一番上のマップなのに・・・どうしよう・・・」


 少女の言う通り、こんなにいやな思いはしたけれど、真犯人が正しく罰を受けるなら多少は鬱憤も晴れる。 けれど、たとえ犯人がわかっても、濡れ衣が晴れても彼女の行けるマップで採取ができなくなったことには変わりない。 これではどこにも行けなくなっただけなのだ。

 それに少女がぽて、と首を傾げるのと、新たな乱入者登場が同時だった。


「みつけたっ! おま、また勝手に突っ走って! 誰かに迷惑かけて・・・あぁぁ・・・やっちまった後かっ!」


 ものすごい勢いで街の方角から走ってきたのは騎士とみえる装備の青年と魔術師風装備の青年。 見直してみると女性は拳闘士風。


「やっちまった後ってっ! 私は非常識な賊をいさめようと・・・!」

「最後まで話を聞いてから行けっ! 特定されてもうベテラン組からの説教タイムに入ってるんだから現場に犯人いるわけねーだろがっ!」


 あっけに取られて目の前で展開される状況に見入る。 では何か、この女性は中途半端な情報に正義心を刺激されて突っ走ってきて、人を罵倒したおしたというのか。 衷心、とかやることの自己満足で無関係な相手を傷つけるってなんという本末転倒。


「君たち、ごめん! このバカが何か失礼なことを・・・」

「商人さんを問答無用で犯人扱いして聞き捨てできないくらい苛烈に責めて、話を聞いてくださいませんでしたねー」


 私は通りすがっただけですがー、と言うノービスな少女は見かけと口調と雰囲気によらず手厳しい性格らしい。 彷徨う視線の端っこで無言だった魔術師の青年が手の杖でがこっと女性の頭をはたき、痛みのあまりつんのめって頭を抱えて涙目になるのににっこりと一言。


「説教3時間コース決定」

「ご・・・ごめんなさいー! それはいやですー!」

「あやまるのは僕にじゃないでしょ。 そこの商人さんに思い込みと考えなしで不要な攻撃して傷つけた代償は大きいよ」


 あ、もっと鬼がいる・・・


 すでに先ほどまでの怒りも絶望もどこかに行ってしまって呆然と現実逃避してしまう。

 そんな彼女に騎士の青年がその場でぷち土下座なポーズで謝罪する。


「うちの暴走バカがご迷惑をおかけしましたっ! お詫びに何かさせてくださいっ!」


 ・・・なんだろう、このせーしゅんな流れは・・・


 彼女とて現実ではハイスクール所属。 だけどこんなどこのラノベ?、な展開はそうそう起こらない。


「あー。 ではぜひとも狩りの壁して差し上げてくださいなー。 採取でレベル上げ、がんばってらっしゃる方ですからー」


 もうなにをどう答えていいやら、の彼女に代わって横から少女がのほほん、と申し出る。


「え・・・? い、いえ、そんなご迷惑かけるわけにはっ! 足手まといにしかならないゴミで・・・!」


 つい、口走ってしまう。 途端に騎士と向こうで拳闘士の女性を説教していた魔術師がこちらを凝視する。

 ・・・いたたまれない。

 また、あの呆れたようなバカにしたような目で見られるのだろうか。


「あー。 育成しにくいステか! よし、まかせとけ!」


 けれど、走って逃げたい気分の彼女に騎士はそんな様子をまったく見せずに明るく宣言する。 びっくりして彷徨わせていた視線を合わせると、にっと笑顔を向けられた。 反射的に逸らした視線の先で魔術師の青年もうんうん、と穏やかに頷いている。 片腕で拳闘士を軽々と締め上げているのがそぐわない。


「たぶん、運とか器用さとかに振ってるんだろ? 最初はたいへんだけど、後になるとすごい効いてくるからさ」


 何を、言われているんだろう?

 何が、後になるときいてくる、の?


 そんな疑問だけがぐるぐるする。 それにまだ撫でてくれていた少女が笑って言った。


「運や器用さ、実は後になるほど伸ばしにくくなるんですよ。 特に力とか素早さを先行させちゃうとなんでか、同じだけ上げるのに倍の経験値が必要になるんですね」


 だから先に上げきっちゃうほうがほんとはあとあと超強くなれるんです、と少女が笑う。 でもその分、初期の育成がものすごくたいへんなので、なかなかやれる人がいない、と。


「へぇ・・・よく知ってるね」


 魔術師の青年が女性をまだまだ締めあげながら問いかけるのに少女がこてん、と首を傾げる。 公式でも公開されてる情報ですよね、と。 でも、彼女は知らない情報だった。 この少女、ノービスなのにいろいろちゃんと調べているんだな、と見直してしまう。


「んじゃ、俺この商人さんの手伝いしてくるわ。 そのバカまかせた」

「はい、まかされました」

「んぐうぅ・・・」


 少しばかりの現実逃避をしているうちに話がまとまっていて。 騎士の青年が笑いかけてくれる。


「どれくらい時間ある? 1時間くらいいけるなら始原の森でウサギ叩いてみようか」

「え・・えと・・・?」


 急展開に頭がついていかない。 それにやっと撫でていた手を離した少女がぽんぽん、と背中を叩いてくれる。


「いってらっしゃいませな。 この騎士さんでしたら初心者さん育成のお手伝いではトップクラスの方で、教官っていう二つ名持ちさんですから」

「ぎゃー、なにそれ! なんでそんな裏評価知ってるの!」


 比喩でなく全身総毛立ちました、な表情としぐさで騎士が叫ぶのに少女がきゃらっと笑う。 ゆーめーじんですものー、と明らかにひらがな発音で。


「で、君はいいのかな、ノービスくん?」


 ぎぶぎぶ、というように両手をばたばたさせる拳闘士を難なく締め上げたまま、魔術師が尋ねる。 彼女もそれが気になっていた。

 自分は確かに戦えない。 それでももう商人装備を身につけられるくらいには育っている。 けれど目の前の少女はまだノービス装備なのだ。 もしかしなくても自分よりもこの少女の方が助けが必要なのではないか。


「う? あー、私はだいじょうぶですー。 やらないと、なことありますし」


 ありがとうございます、とにこにこする少女に魔術師が肩をすくめて(もちろん拳闘士は締め上げたままで)応える。


「そう? それじゃ助けられることあったらいつでも声かけて? 僕は・・・」


 さら、と名乗る魔術師に続いて騎士も名乗って。 慌てて彼女も名乗る。 そういえば採取方法を教えてもらった時はテンパっていて自己紹介すらしていなかった。


「はーい、ありがとーです。 私、レヴォネですー」


 それじゃがんばってくださいねー、とひらひらっと手を振る少女に見送られて彼女は戸惑いつつも騎士の青年と初めてのパーティーでの狩りに出かけたのだった。



 そして。

 騎士の青年に誘われて彼女が彼らのギルドに入るのはその日のこと。 彼女を怒鳴りつけた拳闘士もきちんと自分の非を認めて謝ってくれ、単に熱過ぎるだけで悪い人ではない、とわかったから。 苦手に感じるのを克服するのはちょっと時間がかかったけれど。

 さらに彼女が初期に振りすぎた器用さを生かして高い調合成功率を誇る薬師として名を馳せるようになるのはもう少し後。

 けれど、結局彼女は気づかなかった。

 自分より弱いはずのノービスな少女が結界もモンスター避けも使わず、無傷であの場所にいたことに。



                              ☆



「さて、っと。 やりますかー」


 商人たちを見送ってその姿が見えなくなったところでノービスな少女がうーん、と伸びをしてから肩のボンボンを撫でる。 薄茶のボンボンがほどけてつぶらな黒い瞳が少女を見上げる。


「ここまで荒れてるとー。 ・・・中級でいけますかー、ヤマネちゃん?」


 少女の手にはさっきまでここにいた騎士クラスでもほぼ全快するであろう中級ポーション。 見せられたボンボンがきゅぅっとかわいく鳴く。 それににこっと笑って頷いた少女がポーションの栓を抜いて、きれいな動作で中身を地肌の見える荒れ地に広く撒く。 空中にひろがった液体がきらきらと光って、地面に着く前にその光がはじける。 さらに細かく散った液体は荒れ果てた地に吸い込まれるように消えていった。


「んー・・・これで土、ご機嫌直してくれるでしょぉか?」


 謎な言葉を呟いて少女は肩のボンボンを撫で、ほてほてと街の方向に戻っていく。

 犯人は捕まったものの、荒らされきって再生まで一ヶ月はかかるだろう、と言われていた各地の薬草群生地。 そのうち、初期狩場の一角だけが一週間で青々と新しい葉を茂らせるほどに回復していたのに、分析組と呼ばれるプレイヤーたちが理由解明に俄然活動し始めるのはすぐの、こと。

某MMOを始めた時。

なぜそういう天然記念物なステータスにするかーっ!と言われたのは懐かしい想い出(笑) いや、その節はいろいろと助けていただいてありがとうございました(誰に言っている・・・)

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