第4話 リエル、アーツを学ぶ
第4話 闘術
リエルが魔眼を開眼してから、一ヶ月が経った。
あれからアンセルムとの特訓や、魔物との戦闘で実際に使ってみて分かったことがある。
リエルの魔眼は瞳で捉えた物の情報を知る能力だった。対象としては人、物、魔物、魔法と様々に至る。
もう一つ変わったことがある。リエルがいつの間にか知らない魔法を覚え、使えるようになっていたということだ。
リエルがクロードにそのことを話したら、魔導書の中にはその内容を直接本人の記憶に焼き付けるタイプがあるらしい。恐らくはリエルの手にした魔導書は知識継承型の魔導書だったのだろうとのこと。
しかし、魔眼のようなスキルの継承まで出来るのは聞いたことがないそうだ。
因みに現在、白銀の書セファーロギアスはただ、魔法を記しただけの本になって、リエルの机の引き出しの中にある。ぶっちゃけて言えば、知識は全て最初の時にリエルの頭の中に継承されてしまったため、読む必要がなくなったのだ。
閑話休題。
さて魔眼の件から、しばらく経って漸く魔法の訓練の再開を許可されたリエルは本日もいつもの如く、魔法を鍛える予定だったが、そこにアンセルムが待ったをかけた。なんでも今日は魔法以外の修業をするらしい。
「ではお嬢様、今日は魔法以外の戦闘についてお教えしましょう。」
「うん、で、何をするの?」
「ではまず、魔法を私に向かって撃って見て下さい。」
「わかった!うーんと…じゃあこれで!光よ、敵を滅せよ、レイ!」
リエルは覚えた光属性初級魔法「レイ」を使用する。
これは光を収束させ敵を撃つ単純な魔法だ。だが、発動スピードが速く、威力も安定している為、初心者でも使いやすい。
「中々やりますな。ですが!」
だが、リエルの魔術はアンセルムの生み出した水の壁に簡単に防御される。
「 爺や、流石だね。」
「ほっほっ……この程度ならお嬢様ならすぐできるようになりましょう!さて、次はこちらの番です。ふっ!」
その瞬間、リエルの前からアンセルムが姿を消す。
「!?」
突然のことに驚き、慌ててアンセルムを探す。
(背後!?)
そして突如後ろに気配が現れるのを感じるが、
カチリ
後ろから突然、剣先を当てられるリエル。
「チェックですな。ホッホッホ。」
「……爺や……今何したの?全然わからなかった…」
リエルは驚愕した。何せ普段自分の世話をしている執事がまさかこんなに強いとは知らなかったのだ。
実はこの執事アンセルムも吸血鬼ではないが、魔族だ。何故、このような化け物がこんなところで執事なんてやっているのかは今は割愛。
「くくく。今のが、お嬢様の弱点ですよ。確かに魔法は強力です。が、それは中距離から遠距離においての話。魔法だけに頼っていては必ず限界が来ます。近づかれた瞬間、死亡など三流もいいところ。一流魔導士はこの『闘術』を使いこなします。」
「あーつ?」
「そうです。これよりお嬢様にはこの闘術を覚えて頂きます。」
さてアンセルムの言う「闘術」とは?
魔力を使うという点では魔術と変わらない。違うのはその使う方向性だ。
魔法は魔力によって体外の魔素に命令を行い、現象を引き起こすのに対し、闘術は体内の魔素に働きかけ、身体強化や、属性付与を行う術なのだ。
簡潔に言うと、魔法は魔力を放出、闘術は内に留めるといったところか。
強者は必ずと言っていいほどこの二つを身につけ、戦闘に織り込んで来る。
それらを聞かされたリエルは目をキラキラさせて、言う。
「か、カッコイイ!!ねぇ、ねぇ、爺や!私もそれ、覚えたい!」
「よろしい。では修行を始めましょうかな。」
そうして闘術の修行が始まった。
あの後アンセルムはどこからか巨大な岩を持ってきって屋敷の中庭にそれを置いた。
「爺や、この岩で何するの?」
「よくぞ聞いてくれました。今から、お嬢様にこの岩を砕いてもらいます。もちろん、闘術を使って。」
「え?………でも爺や、」
「む?なんですかな、お嬢様?」
「こんなの素手でも割れるよ?」
ボカン!!!
リエルが殴るとその巨大な岩は一発で二つに割れた。
「………………」
アンセルムは忘れていた。いくら少女とはいえリエルは吸血鬼なのだ。生まれつき持った肉体ポテンシャルはまさに化け物だと言うことを。
「ふむ。では次はこれを砂にして下さい。」
そう言ってまたどこからか、巨大な岩を取り出すアンセルム。
何らかの魔法なのだろうか?疑問に思うリエルだが、とりあえず置いておくことにする。
「ねぇ、爺や?意味がよくわからない。」
「岩を砕く」と何が違うのかリエルにはわからなかったみたいだ。
「ちょっと見てて下さいね、お嬢様。まず、闘術を使わずに殴ってみます、ふんっ!!」
ドカン!!
(注意!こいつら普通に割るとか言っているが、一般人にはできないので、常識だとは思わないで欲しい。)
今回もリエルと同様に岩が二つに割れた。
「で、次は闘術を使って見ますね。」
アンセルムはそう言って再び三つ目の岩を取り出し、今度は魔力を腕に纏わせて殴る!
ズドォオオオオン!!
その光景にリエルは目を剥く。
殴られた岩が文字通り、粉砕である。砂になったのだ。
「これが攻撃系闘術、『爆拳』です。腕に纏った魔力を衝突時に破壊する対象に送り込むことで、敵を内側から破壊する事が出来るのです。」
「す、凄い!」
「次はお嬢様がやってみて下さい。」
「うん!」
この後、アンセルムは知ることになる。リエルの途轍もない才能を。
なんとアンセルムの魔力の使い方を魔眼でみたリエルは二、三回やってみただけで、岩を容易く砂に変えたのだ。
「うん、やり方は大体わかった!」
今リエルは砂の上に立っていた。無論それは元々岩だったものだ。
「よし、これならいけるかも!」
「お嬢様?何を…」
そんなことを言ってリエルは突然姿を消す。
「なっ!?」
がし!!
いきなり後ろから振り下ろされた拳を掴むアンセルムは絶句する。
「うーん。爺やにはやっぱり効かないか~」
「これは……」
移動系闘術「縮地」
先ほどアンセルムがリエルに先ほど見せた闘術だ。魔力で強化した脚力で一瞬で敵との距離を詰める移動術。因みに見ただけで真似できるものではないと言っておこう。
(先程私が見せた術をこうもあっさりと………何とも恐ろしい。お嬢様の戦闘センスはもしかすると旦那様をも上回っているかも知れないですな。)
鍛え甲斐のある主人、リエルの成長に対し、アンセルムの期待はどんどんと膨らんでいくのであった。
魔導師→魔導士に変更しました。