第3話 リエルの魔眼
「な、何々、何なの!?」
リエルは焦っていた。突如手に取った魔導書が、勝手に開き始めたのだ。
パラララララララララララ!!!
次々とめくられていたページは途中で見たりと止まり、そのページに描かれた魔法陣が本から飛び出す。
「え?」
その魔法陣が完成した瞬間、リエルの目に、それは飛び込んできた。
「痛ぁあああああああああい!!??」
リエルの右目に激痛が走る!
「痛い痛い、痛いよぉおおおおおお!!」
そして書斎の外から、バタバタと聞こえてくる足音。
「リエル!どうした!?」
「リエルちゃん!?」
「お嬢様!?」
娘の悲鳴と、途轍もない魔力を感知したクロード、アリア、アンセルムが書斎に入ってきた。
三人はそれからリエルの所に駆け寄ってきて、何かを言っていた。
しかし、残念ながら何を言っているのかは痛みでよく分からなかった。
そして直後、リエルの意識はブラックアウトする。
それからリエルが目を覚ましたのは半日後のことだった。
すでに日は沈み、夜の帳が下りていた。
「う、うー~~。ここ、どこ?」
「リエルちゃん!?」
ベッドで目を覚ました瞬間、いきなりすぐそばから声が聞こえるものだから、リエルはギョッと驚く。
「母様?」
アリアはリエルにいきなり抱きついててきた。
「よかったぁあ、よかったぁ~、本当に心配したんだから~~~」
「???」
いきなりのことでよく分からないが、それから、リエルが目を覚ましたことを聞いたクロードとアンセルムもやって来て、事情を知らされる。
「倒れてたの、私?」
「そうよ。ママ、本当に心臓が飛び出るかと思ったわ。」
「全くだ。……着いた時にはこの本と一緒に倒れていてな。右目から血を流していたんだぞ?」
クロードも今回のことに関してはかなり取り乱したようだ。
「本、......本、…………あーーーー!!」
そしてクロードの言葉で思い出す。自分がこうなった理由を。
「父様、その本!!」
「む?これがどうかしたのか?」
「うん……あのね、それを触るとね、急に本が開いて、目に何かが飛び込んできたの!!」
「大丈夫なのか、それは!?」
それを聞いてクロードは再び、慌ただしくなる。
「あなた、少し落ち着いて。」
「お嬢様、少し、右眼を見せてもらってもよろしいですかな?」
「うん。」
クロードとは逆にアンセルムは落ち着いていた。
こう見えてアンセルムは医療にも詳しいのだ。
そしてリエルの右眼を覗いたアンセルムは驚愕する。
「これは!?」
「どうした、アンセルム?」
「旦那様、奥様、これを見て下さい。」
アンセルムにそう言われ、リエルの目を見たクロードとアリアはそこにあるものに言葉を失う。
リエルの右の瞳には今までなかった六芒星が刻まれていた。
魔眼。
その目で捉えたものに魔法的干渉を行うことができる、特殊な目のことだ。その能力には様々なものがあり、先天的に持って生まれてくるものがほとんどだと言われている。
しかし、稀に後天的に魔眼を得るものもいるのだ。
今回のリエルは後者に当たる。
「父様?母様?爺や?……どうしたの?」
よくわかっていないリエルは可愛らしくキョトンと首を傾けていた。
「リエル?………右眼に何か違和感はないか?」
と尋ねたのはクロード。
「ん?そう言えば、何か変な力を感じるの!」
使い方も感覚的にだが、理解したリエルは早速、使ってみた。
「こう……かな?」
するとリエルの右眼が紫から金色へと変わる。
その光景に見守っていた三人は息を飲む。
「「「!!!」」」
「金色の魔眼………………凄いわ、リエルちゃん!今日から魔眼持ちね!」
先ほどまで心配しまくりだったアリアは突如娘に目覚めたスキルに喜んでいる様だった。逆にクロードは微妙な顔をしていた。
「た、確かに魔眼はレアだが、どんな能力か分らない。まだ、安心はできない。」
クロードの言うことももっともだった。
魔力を使用せず発動する特殊能力を「スキル」と呼び、その保持者を「スキルホルダー」と総称する。また魔眼の様にさらに稀少なスキル保持者を「レアホルダー」という。
魔力を消費しないスキルはその代わりに何らかのペナルティーを持つ場合がある。それは回数制限だったり、有効範囲の広さだったり、様々だ。このペナルティーはレアなスキルほど高くなる傾向にある。中には強力すぎて命を消耗する危険なものもあるのだ。
クロードの気持ちを察してアンセルムがリエルに尋ねてみる。
「お嬢様、その魔眼を使っているとき、何か変わった事はありませんか?」
「何かね、色んなことが分かるよ!」
「色々………ですか?どういった風にですか?」
アンセルムはリエルにさらに尋ねる。
「うん、あそこの花の名前についてとか、そこの机の材料とか!」
「ふむ、どうやらお嬢様のその魔眼は、情報系の魔眼みたいですね。」
「そうなの?」
「そ、その他には何もないか?体が怠いとか、魔力を取られるとか?」
そう尋ねるのはクロードである。こっちは相変わらず心配そうで落ち着かない。
「うん!!」
それを聞いてクロードとアンセルムはアイコンタクトを取る。
どうやら、リエルの魔眼は対価を必要としないみたいなので、一先ず安心する一同だった。
「取り敢えず、もう少し、様子見して見なければ分らんな。」
とクロード。
「ええ、注意しておきましょう。」
アンセルムもそれに同意する。
「まぁ、何はともあれ、私はリエルちゃんが無事ならそれでいいわよ。」
アリアがリエルを抱きしめながら言う。
「母様、苦しい~」
「そうだな。」
「で、ございますね。」
こうして、屋敷中を震撼させた事件は一旦幕を閉じることになる。