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安心感、ゲットだぜ!

“いちろくと”。


3月某日、ある恋愛ゲームが発売される。

恋愛ゲームの名前は“いちろくと”……名前の由来はゲームを進めていく内に分かるらしい。


世間では、この“いちろくと”の発売が騒がれていた。


巷で人気があり実力ある絵師を選抜した為、イラストやスチルが綺麗。若手から大御所まで幅広い人気のある声優陣の使用。動作や音楽などのシステム面も高評価を得ている面々を集め作られた。

気になる所をしっかり掴んでいる事から、発売前にも関わらず人気が高まっていた。


また、このゲームのシステムには特徴があり、それも人目を引くきっかけにもなった。

キャッチコピーは“一粒で、2・3度美味しい恋愛学園シミュレーションゲーム”。



「で?」

「で、ってちょっと……興味無さそうに言わなくてもいいじゃない」



ランドリーのベンチに座って、お互いにジュースを口にする。


まさかこんな所で会えるなんて。


栞奈がトリップしたことを説明すると、瑞貴は興味無さそうに返事をした。


トリップ。

陽翔と話が噛みあわないし知らない場所に立っていて、栞奈から夢小説の話を永遠と聞かされていたことから、何となくその気はしていた(因みに聞かされていたのは中学生の時で後の栞奈曰く“黒歴史”と語る)。


だがここで何故いきなりゲーム、しかも(向こうの世界で)明日発売の恋愛ゲームの話をし始めたのか。



「お前トリップして頭可笑しくなった?」

「失礼な!瑞貴、この建物見たことあるでしょ!?」

「……っ、あー!!」

「しーっ、静かに。起きるわバカ」



大きな声を出す瑞貴に栞奈がピシッとチョップを下す。瑞貴は栞奈の持っている“ある物”に指を差して驚いた。


ある物……“自分ではない自分”がコンビニで買っていたのはゲームだった。

いやいやコンビニでゲーム買うなんてと栞奈は思ったが、そんな事はどうでもいい、そのゲームに栞奈は見覚えがある。

やろうと思って予約しておいた恋愛ゲーム、タイトルは“いちろくと”。まさかこんな所でこのゲームと出会えるなんて。



「こ、こここコレってマジ?マジな話?」

「大マジよ」



大きく動揺している瑞貴に、栞奈が大きく頷く。瑞貴の視線は、栞奈が持っている説明書に描かれた建物だ。


どこか洋風な雰囲気を醸し出している建物、実は学校である。

この建物に見覚えがある、自分がこちらの世界に行った時に初めに目についた建物だからだ。あまり自分の住んでいる場所では見られない、まるで貴族が住んでいそうな大豪邸を忘れる筈がない。



「私立 藤巴[ふじどもえ]学院……私達は此処に居るのよ」



“いちろくと”のゲームの舞台である場所に、ね。



「……え?」

「私達は、ゲームの世界にトリップしたのよ」

「ええええええええ!?」

「うるっさい瑞貴」

「いだっ!」



栞奈が持っている説明書で瑞貴の頭を叩く。


細胞が減る?そんなの後回しだ。元々瑞貴は(色んな意味で)馬鹿なんだ、細胞が100個死んだところで変わらないでしょ。


栞奈はようやく落ち着いた瑞貴を見て溜息を吐いた。



「私も最初気付かなかったけど、コンビニの袋に入っているゲーム[コレ]を見て分かったの。梢もいたから、全然違和感ないと思ったけど、あの梢がトリップを知らないなんて有り得ないし」

「梢もいんのかよ!?こっちにゃ陽翔もいるぞ」

「陽翔も?……でもどっか違くなかった?」

「……あー、確かに」



コッチに来てからの陽翔を思い出す。陽翔はどちらかと言えば自分と似たような感じで、一言で言えばテンション高い奴だった。

だがあの時会った陽翔は違った。言葉を淡々と喋らないし、気怠そうに話すなんて有り得ない。


顎に手を添えて瑞貴は渋々頷いた。



「そーかい、俺達がトリップねぇ……」

「でも良かった、同じ境遇の人が身近にいるなんて心強いわ」

「そーだな。俺ぼっちだったら混乱してた。栞奈がいてくれて助かった」

「私もその台詞バットで丸ごと返すわね」



2人は小さく笑った。


トリップなんて体験できるものではない。事故死なんて無理、神様に会うなんて到底無理、画面が光って吸い込まれるなんてことも無い。

コンビニ抜けたら乙女ゲームの世界でした。

パイ投げられたら乙女ゲームの世界でした。

そんなトリップの仕方が可笑しくて、2人はまた笑った。


本当の自分を知っている人がお互い近くにいる、安心感が大きい。



「よし、これでOK。これから頼むわ」

「おうよ」



何かあったらすぐに連絡取れるようにと、LINEのIDやTwitter、メアドも全部交換をしておく。情報の共有が簡単になった時代だ、使えるものは有効活用していきたい。SNSが使えるか心配だったが、その心配はいらないようだ。この世界にもインターネットがあり、繋げられる。ただ、向こうの世界の友達とは繋がれない。繋がることが出来るのはこっちの世界の住人のみ。



「私から1つお願いしてもいい?」

「お願い?」

「コレの事なんだけど……」

「“いちろくと”?それがどうした?」



栞奈は再び袋から“いちろくと”を取り出す。パッケージを開けると、UMD(PSPの光ディスクの事)が2枚顔を出す。片方には“ローズver.”、もう片方には“リリーver.”と書かれている。



「瑞貴、恋愛ゲームの経験は?」

「多少あるっちゃあるけど……つーか、栞奈が押し付けたんだろ中学の時に」

「はいはい黒歴史なんで忘れてください。んで、これ、片方やってくれない?」



栞奈は“ローズver.”と薔薇の花が描かれたUMDを渡した。

瑞貴はゲームが好きで、よくモンスターを狩ったり塊をまとめたりしている。PSPを持っているのを栞奈は知っていた。ピアノ・ブラックのPSPは瑞貴愛用のPSP。

それに対して栞奈も恋愛ゲームをPSPでよくやっている。ストラップがついたミスティック・シルバーのPSPも、栞奈愛用の携帯ゲーム機だ。



「片方って……説明プリーズ。訳分からん。何でやんなきゃいけねーの」

「“いちろくと”ってゲームはね、男主人公と女主人公がいてね、それぞれカセットが違うの」

「ふーん。俺が渡された方は男主人公って訳か」



栞奈が持っている方は“リリーver.”、つまり女主人公の方である。



「そう。で、私達は4月の始業式を明日迎えるの。“いちろくと”のゲームは此処から始まるわ」

「ほうほう」

「主人公はどちらも2年生。私達も明日から2年生」

「……同い年?」

「うん。“いちろくと”は主人公が藤巴学院で2年生を過ごす1年間を物語にしてる。これを先にやっておけばこの先何があるか分かるってことよ。私の推測だけど、多分この1年間を乗り切れば元の世界に帰られるわ。先を見越した方が自分達に災難が降りかからずに過ごせるし動きやすいでしょ?」

「おおっ、そーだな。確かにそうだ!」

「あと、死ななくて済むしね」

「しっ……!?は?おい、死ぬってどういうことだよ。災難って……」



瑞貴が眉間に皺を寄せた。


死ぬ?恋愛ゲームで死ぬ?トリップして本当に頭がイカれちまったか?


そう考えていると栞奈は瑞貴に読んでとばかりに説明書を渡した。操作説明などは飛ばしておいて、あらすじを読む。



「……対象者は異能持ちィ!?え、何コレ危ないシーンばっかりなの!?」



あらすじを読んだ後に、描かれてある登場人物という名の恋愛対象者を見る。


……8人って多くね?


様々な登場人物の美麗イラストを見る。流石、巷で有名な絵師が描いたイラストだ、眩しい。

男主人公の方には、藤巴学園の生徒副会長やら3年生の先輩もいれば、同い年もいるし後輩もいる。

女主人公もまた然り。生徒会長を筆頭に、8人の面々が載っていた。

とどのつまり、“いちろくと”のゲームを買えば2人の主人公で16人との恋愛を楽しめるという事だ。


まあ、まずそれは置いておいて、説明文を見ると、能力はゲームをやっていくうちに分かる仕様となっているらしい。面倒くさいなと思いつつ、これが逆にやりたいと思わせるんだろうなと瑞貴は説明書をマジマジと見る。



「だろうね。流血シーンあるみたいだし。主人公は可哀想な事に、その危ないものに関わっちゃうの。多分死なないだろうけど」

「羨ましいな主人公補正」

「……それだけじゃないの。同じ学年だけじゃ済まされなかったみたい」



そう言った栞奈。瑞貴はだんだんと栞奈の話を聞いて苦い顔をし始めた。


い、嫌な予感がする……!



「も、もしかして同じクラスってパターン?」

「察し いいね。でもそれだけじゃないの」

「まだあんのかよ!?」



だから一々声が大きい!

栞奈が口に手を当てて静かにするよう言う。



「今日ね、こっちの梢が言ってたの。私達のクラスに転校生が2人も来るんだって、って」

「例の主人公達ね。双子?」

「多分。で、ここからが問題よ。絶対大声あげちゃダメ、絶対よ。押すなよ?的なモンじゃないから」

「お、おう」



瑞貴は念入りに言われて口元を塞いだ。栞奈は真剣な顔で瑞貴を見る。嫌な予感と同時に衝撃が大きそうだ。瑞貴は身構えた。



「……この2人の主人公たち、私達の幼馴染……らしいわ」



一瞬頭が白黒になって、栞奈の言葉を復唱する。色んな言葉が浮かんでは消え浮かんでは消え、最終的にある一言に辿り着いた。



「に、逃げられねぇぇぇ!!」

「口元塞いだ意味は!?」



瑞貴の頭の中で何があったかは次の話にて。


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