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同じ境遇みたいだね

ココは一体どこなんだ。


コンビニの前で立ち尽くす栞奈と、部室の前で立ち尽くす瑞貴。場所は違えど、2人は同じことを思っていた。バッと後ろを振り返っても、先程自分達がいた場所とは変わりない。変わったのは……目の前の建物だ。コンビニの前には体育館が、部室の前にはサッカーグラウンドが広がっていた筈なのに、今場所は違えど2人の前には共通の建物がそびえ立っていた。


そして空が暗くなっていることから、時間帯は夜だという事がわかる。罰ゲームをやっていた時は、3年生を送る会をやっていた時は、昼頃だったというのに。



「これって、トリップなの……?」



ポツリと呟く栞奈。コンビニの罰ゲームを終えたら、梢を相手にバスケでコテンパンにして、それから新作の乙女ゲームを楽しもうと思っていたのに……計画が総崩れだ。何故、何故今になってトリップなんて。



「栞奈!」

「え!?こっ、梢!?」

「もー、コンビニ行くって言って中々帰ってこないから心配したよー」

「……梢もトリップしたの?」

「え?トリップ?何の事?」



栞奈は震える指で梢を指さしたが、梢は首を傾げるだけだ。


梢も栞奈も似たような趣味を持っていて、夢小説の存在を教えて貰ったのは梢のお陰である。しかも、一番最初に教えて貰ったジャンルは“異世界トリップ”。だから梢が知らないというのは有り得ない。


じゃあなんで梢がこんな所に……そんな栞奈の疑問を持ったのを梢は知らない顔をして栞奈の手を取る。



「早く寮に戻ろ?」

「りょ、寮!?」

「そうだよ。何言ってんの栞奈?まるで知らない世界に放置プレイされたみたいな顔しちゃってさ」

「(まさしくソレなんですけどぉぉぉ!!)」



まさしくソレですよ、私は知らない世界にほっぽり出されたんですよ梢さん!貴方が楽しそうに喋っていた異世界トリップですよ!!


事実を叫べずに、梢に手を引っ張られるまま栞奈は梢が言っている寮とやらへ向かう。頭が全くついて行かずに寮の2階まで階段を上がり、梢は思い切り扉を開けた。



「栞奈、コンビニで何買ったの?……ちょ、栞奈?」

「凄い……」

「栞奈ぁー?」



感嘆の声を漏らし固まった栞奈の顔に、梢は手を振ってみるが栞奈の意識は遥か彼方。外見からして高級ビジネスホテルかと錯覚させるほどだが、中身も高級ビジネスホテルレベルだ。


私の知ってる寮と違う。


栞奈は寮の豪華さや広さに呆気にとられた。扉を開けた先にあるのは、家で言う居間やリビングの様な空間。そこから派生して個人個人の部屋がある。この空間必要なの?という疑問は置いといて、個人個人の部屋を覗いてみると……。



「まんまじゃん……!?」



元の世界に会った栞奈の部屋が、そっくりそのまま移動したように栞奈の部屋が丁寧に再現されていた。


完成度たけーなオイ。


再現度が高すぎて口が引きつりそうだ。どうやら現在は栞奈と梢の2人でルームシェアをしているらしい。……本当にトリップしてきたみたいだ。夢か現実か、それを確かめるためにベタだが頬を抓って見る。



「痛い」

「ちょ、栞奈さん!?一体どうしたの!?」

「梢、私は物凄く感動している」

「今日の栞奈可笑しいよ!?寝た方が良いって、明日始業式だしさ!」



そう言われて、栞奈は梢から自分の部屋に強制移動させられた。お言葉に甘えてベッドに横たわって、枕に顔を埋めた。


あの梢は梢であってそうでない……私の知っている梢とはどこかが違う。


グルグルと悩みや疑問が回っていて気持ち悪い。


突然のトリップ、どこか違う友達、栞奈は現実ではないように感じる現実にいるのだ。可笑しいと呼ばれていた“栞奈”は、この世界ではどんな人柄だったのだろう。多分、私と名前が一緒で容姿も一緒の私がこの世界にいるのだろう。



「(そう言えば、この世界の私はコンビニで何を買ったんだろう)」



興味本位で、机の上に放り投げていたコンビニ袋を漁る。それにしてもこの寮で良かった、と栞奈は思った。これで寝ている部屋も一緒だったら、と考えると怖い部分がある。自分の休める場所、自分が自分でいられる場所がない可能性もあったからだ。



「え?」



ある物を取った時、栞奈は驚いて落としてしまった。


これ、明日発売の……?




***



一方、栞奈が梢から手を引っ張られて寮に戻っている最中瑞貴は。



「ホワッツ?」



サッカー部の部室の前で呆然と立ち尽くしていた。え?え?と辺りを見回してみたが、知らない世界は知らない世界のまま変わらなかった。叫んだところで何も変わらないだろう。


どちらかと言えば“ガンガン行こうぜ”タイプの瑞貴は、せっかくだし……とそこら辺を歩いてみることに。大きな、まるで漫画の世界にあるような建物が連なっている。



「なーんか見覚えあんだよな……どこだったかな」



今までの記憶をひねり出して思い出そうとするが、あと一歩のところで出てこない。なんとも歯がゆい気持ちになる。


あの時俺は、先輩にパイをぶん投げて、陽翔が俺にパイ投げしたんだよな。陽翔の奴、マジでパイ投げしやがったな……。


まだ顔面にパイの甘い香りが残っている気になる。顔に手をやってもクリームの欠片は付かなかった。でもあの時の感覚は確かに投げつけられた感覚、嘘でも夢でもない。パイ投げして視界が暗転したと思いきや知らない場所に立ってましたー、なんて奇妙な話だ。



「瑞貴ー」

「おう、陽翔か……って、陽翔ぉ!?」

「?」



ちょ、おまっ何でいんの!?


噂をすれば何とやら、なのか後ろの陽翔から声を掛けられた。ぼっちになっていた瑞貴にとっては絶妙なタイミングである。震える指で陽翔を指さす瑞貴に、陽翔はクエスチョンマークを浮かべながらも瑞貴に歩み寄った。



「部室に忘れ物したーって言うから付いて行ったんだけど、忘れ物とやらはあったのか?」

「……忘れ物ぉ?」

「は?お前何しに部室行ったの?」



話がかみ合わない気がする。仕方なく瑞貴は陽翔に話を合わせるために、部室のドアを開けた。部室は瑞貴が知っている部室と変わらなかった。


じゃあ場所が移動した?それと忘れ物って何さ?



「あー、忘れ物ね、忘れ物……あはは」

「その笑い方キモい」

「ひでぇ!!」



苦笑いをする瑞貴を陽翔は一蹴する。



「(忘れ物?忘れたって部室に何を忘れるんだ?)」



頭を回らせる。


陽翔はいるし、部室は変わんねーし……ってそんなことは後回しだ。


まずは自分が忘れ物をしそうなものを考えてみるが、それらしいものは出てこない。部室を漁る瑞貴に、そーいや、と陽翔が眉間に皺を寄せて言った。



「PSP忘れたって言ってた気がするけど」

「それだー!!(ナイス陽翔!!)」



それなら有り得るかも、と自分のロッカーを開けた。陽翔が言った通り、瑞貴のロッカーには瑞貴の黒いPSPが入っていた。この際、部室にPSPを持って行った覚えはないとか考えない。今はこの状況をどうにかこうにかして切りぬければ……瑞貴は思う。



「悪ぃ」

「ったく、戻るぞー」



小さく頭を小突かれ、陽翔は歩き始めた。


……戻るって、どこに?


呆然とした瑞貴の髪の毛が風で揺れた。




***



それから数時間後。殆どの生徒が寝静まる中、寮の自動販売機の横にあるベンチで、瑞貴は盛大な溜息を吐いた。手には自販で買ったスポーツドリンク。自分のベッドで寛ぐのもいいが、ここは何か飲みたいとランドリー付近にある自販を求めて自力で辿り着いた。


頭が付いていかねェ、瑞貴はまたも溜息を吐く。


場所が分からず先に行く陽翔を追いかければ、自分の知らない寮に着く。陽翔とルームシェアしていることを知り、その部屋は豪華すぎて逆に怖くなってきた。そして自分の部屋は、自分の部屋と同じものが同じ位置にあって、怖いどころか引き攣った笑いしか出てこなかった。



「(ここは何処なんだ?)」



何度思ったのだろう。ランドリーは時間帯的に使わない者が多く、電気が消されていた。自販の明かりと自分のスマホの明かりが暗い部屋に目立つ。


スマホを見れば、日付は3月31日の日曜日。明日は4月1日を迎えることになるのだが、明らかに可笑しい。3年生を送る会をしていたのは、3月中旬に入る16日だ。



「(俺の知らない間に時間が過ぎたのか?)」



んなバカな。パイ投げされて知らない場所に立っていた、その間に2週間が過ぎていたとでも?


馬鹿馬鹿しい、誰も居ないランドリースペースに瑞貴の舌打ちが響く。


すると、隣の自販からガコンと音がして瑞貴は反射的に顔を上げた。こんな夜中に誰か起きてんのかよ……その人物を見ようとするが暗くてよく顔が見えない。



「ねえ」

「何?」

「隣いい?」

「別に、いいけど」



瑞貴はベンチの脇に寄った。声からして女子みたいだ。自分のスマホの明かりで、隣に座った女子の顔が露わになる。



「……お前さ、もしかして……栞奈か?」

「何で私の名前知って……って、瑞貴!?」

「マジで?」



ようやく、幼馴染の2人が顔合わせすることになる。



「「何でココに!?」」



台詞が被るのも御愛嬌だ。

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