第八夜 兄の苦悩 (兄目線)
国益優先、冷静沈着がモットーの俺、アキラは、実の妹達…特に末妹のワカバには日々頭を悩ませていた。
「アルトって?」
「…ワカバと一緒にいた男だ。」
簡単に開閉出来る扉は、上の妹、チヒロに術を施すよう命じていた。
そのため、ワカバは実質今この部屋に軟禁されている。
そもそも、ワカバがこの世に生を宿した時から、俺にとって非常に悩める存在だった。
ワカバが産まれたばかりの頃、母上は体調を崩し、父上も近隣諸国との外交に佳境を迎えていた時だった。
この城も今ほど立派では無く、産まれてしばらくは俺とチヒロがワカバの面倒を見ていた。
よく泣き、よく笑う赤子は、華やかで誰からも愛される花そのものだ。
周りから甘やかされて育ったため、気がついたらチヒロ同様我が家の悩ましい種へと変貌していった…。
「お前が何を思っているかわからんが、お前をここから出す訳にはいかない。」
「それは、お父様からのご命令だから?」
「違う。魔王様の御意志だからだ。」
「…なんで、魔王様?」
ワカバが疑問に思うのも仕方ない。
俺だって…わからないのだから…。
「とにかく、今日一日はここから出ることを禁ずる。
これは皇太子としての命令だ。」
そう扉の前で告げると、向こう側から扉を一発殴る音が聞こえた。俺はチヒロに後を任せ、足早にその場を去った。
こうしてる間にも勇者一行は着実にこの城に来ている。
勇者『アレックス』。
初代勇者『マルクス』の血を直系で引くまさしくサラブレッド。
アレックスの父親はこの世界の中心である中央王国を影で操る強大な権力者だ。
魔王討伐の任が成功したあかつきには、勇者も彼の後を継ぐだろう。
愚かな男だ。
自分がこれから行うことの意味も、この先に待つ辛く苦しい泥のような未来を受け止める覚悟も、魔王と勇者の対立の因果も、勇者は何も知らない。いや、知らされていない。
ただ純粋に『勇者』という籠の中で育った彼にとって全ての原因は、我々の言い訳にしか過ぎないだろう。
全てを知らないというのは、時に残酷で、時に希望でもあるのだ。