第六夜 魔王登場
滝の様に流れる黒い髪。
雪のように白い肌。
切れ長の鋭い目。
なにより、いつまでも老けない永遠の若さ。
人間の敵である魔王様がそこにいた。
「…この…親不孝者―ッ!!」
「はうっ!!?」
魔王様はそれまでの威厳に満ち溢れた態度を一気に崩した。
「今朝、アーくんからワカちゃんが行方不明って聞いて、す~~~っごく心配したんだからね!!もう、勝手にお城出ちゃダメです!!めっ!!」
「…アーくんって?」
「ウチのお兄ちゃん。」
「ワカちゃんは?」
「…アタシの愛称。」
(あー、やっぱこれでこそ魔王様だ。)
これが他大陸が最も恐れる魔王様の正体。
本当の魔王様はとても心優しく、一族を愛し、虐げられた歴史を持つこんな私達にも優しげに手を差し伸べる。
小さな子供が大好きで、お父様といい勝負なくらい子煩悩。
よくこの大陸に来ては、大陸各地にある集落に顔を出してる。
この国が他国と関わりが無くとも国が回ってるのは、一重にこのような魔界との交流があったからだ。
「まったく…それと、男の子と一晩明かすなんて…聞いてないよ!一体どこの馬の骨…。」
「?どうしたの?魔王様…?」
魔王様はいきなりお説教を止めた。
いつもなら1時間はお説教が止まらないのに…。
「ワカちゃん…。」
先ほどとは全く正反対の声。
低く、唸るように声を振り絞った魔王様は、とても恐ろしく見えた。
「彼は…一体?」
「…ただの吟遊詩人よ、魔王様。」
「そう。」と短く反応すると、その瞳はまるで復讐に燃えるかのようにアルトを捕らえた。
「…ごめんね、ワカちゃん。」
そう言うと、魔王様はアルトの見る目の前で、首筋にキスを落とした。
(な、な…に?)
「少しの間だから…。」
その淋しげな声は、まるで懺悔のようにも聴こえた。
まぶたはとたんに重くなり、力が抜け、私は気を失った。
「ワカバッ!!」
「おっと、ワカバに近づくな、下賤。」
「勘違いするなよ、人間。貴様を生かすつもりは無い。お前には2・3聴きたいことがあるまでだ。」
「な…なにを?」
「…ついて来い、人間…いや、忌々しきレーガルシアの血を引く者よ。」