第四夜 第一王子
「いい年して何朝からイチャイチャしてるんですか?父上、母上。」
会議室から顔を出したのは、王にそっくりな猫目の青年。
青年は大きくため息をつくと、ゆっくりと二人に近づいた。
「おお、アキラか。すまんな。今会議室に入るところだった。」
「いえ、毎度毎度ワカバがいなくなる度にこうでは、私のほうが心筋梗塞で死にますんで。」
「…お前、結婚してから益々母さんに似てきた?」
「良いことじゃないですか、王様?」
「あ…はい。」
ノアール国第一王子兼皇太子アキラ。
始祖リョウガの遺伝子をそのまま受け継いだような容姿を持つ彼は、この国の時期国王。
母親であるコノハ譲りの交渉術と冷徹さは、民を希望へと導く象徴そのものである。
だが、同時に下にいる妹二人によるトラブルによく巻き込まれる、不幸体質も持ち合わせている。
彼は2年ほど前にノゾムのイトコにあたる『セーラ』と結婚した。
今年の春には待望の第一子を儲けた。
「そういえば、セーラちゃん達はどうだい?変わりないかな?」
「はい。妻も産後の経過も良好です。」
「親子なんだから、そんなかしこまらなくても~☆」
「…父上はもう少し緊張感をもってください。」
「そういえば…そろそろ、かな?」
「はい…なんでこんな時期に…。」
会議室に着席した三人は、先ほどまでの空気を一新させた。
同様に、長テーブルに座る他の大臣や秘書官もその表情は緊張に満ち溢れてる。
「…勇者か。」
王様モードに切り替わったノゾムは、コノハに貰った資料を手に眉間にシワを寄せる。
「魔王様はなんと?」
「それが今朝から連絡が取れず…。」
「まあ、あの方なら心配すること無いでしょう。なにせ…あの方は我々の源流なのだから。」
コノハの言うとおり誰も魔王を心配する素振りは見せなかった。
事実、以前一ヶ月ぐらい砂漠で遭難したが、無傷で帰って来れたのだから。
「この場にいる者もわかってるように、我々の役目はあくまで魔界までの『案内人』と『中継地』だ。
敬うべき魔王様を殺める役目を持つ彼らに反感を持つのもわかる。
だが、今ここで行動を起こしても事態は悪化する一方だろう。
我々は事を穏便に運ぶまでだ。」
黒の民の誰もは自らを庇護し唯一愛してくれる魔王にとてつもない信仰と信頼をよせる。
黒髪黒目を持つ魔子。
突如として現れたその容姿は一種の先祖返りだという説が有力だ。
人間に嫁いだ魔王一族の娘「トーカ」を通して遺伝子が働き駆けられたと専門家は言う。
故に、偉大なる父である魔王は、黒の民にとって守るべき尊い存在、生まれてきた存在意義なのだ。
「…国境警備隊には引き続き厳戒体制でいるように、そう通達してくれ。」
「御意。」
「それと、ワカバは…。」
「父上、姫は私に一任させて頂きたい。」
「…あまり手荒な真似は良してくれ…。」
「いえ、姫には一度お灸を据えなくてはなりません。」
「いや…君らがまた暴れると復興予算がまた…。」
「王のポケットマネーで支払うから思う存分暴れなさい、アキラ。」
「えっ!?」
「かしこまりました、母上。」
「コ…コノハちゃん?」
「では、本日の朝礼会議はこれにて閉めます。皆、持ち場に戻ってください。」
「え、無視?
…パパ悲しい。」