第三夜 国王と宰相
そのころ、城では恐れてた事が起きてしまった…。
「ワカバが行方不明だとおおおおおおおおおおお!?」
綺羅びやかな内装には似つかない程の大声が城中に響き渡る。
「いったい、これで何度目なんだ…。」
「今年に入って10回目です、王様。」
「…なんだよ…ワカバ…そんなにお父さんが嫌いなのか…?」
「王様、落ち込んでないで朝の会議にご出席願います。」
「やっぱり前回のお説教が少し厳しかったのかな…それとも、おやつ3日抜きが辛かったのかな…?」
「今朝の報告書によると、東の大陸の南側で民主化を求める暴動が過激化。このまま東南
は独立する勢いです。」
「もしや、このまま家出なんてこと!!」
「また、これにより、他大陸に避難・移民する人数が激増。いずれ我が国にもその波が来るで…。」
「やはり衛兵だけでは心もとないから私も探しに…。」
「あなたっ!!」
パシッ
宰相兼王妃は持っていた書類の束で王の頭に喝を入れると、そのまま何食わぬ顔で会議室に王を引きずって行った・・・。
「・・・今のは?」
偶然その現場を見ていたメイドは隣の先輩メイドに聞いた。
彼女が戸惑うのも無理は無い。
普段王が民の前に見せてる姿とはあまりのもギャップがあるからだ。
「ああ、ここでの王様はアレがデフォよ。」
「え、そうなんですか?…では、あの凛々しく悠然として構える姿は一体?」
「あれは、ワカバ様やご長女のチヒロ様が演説や晩餐会の前に目一杯甘えたり、褒めたりしたら、ああやって一気に自身を取り戻すのよ。だから、普段はあんな感じの娘命優しいお父さんなの。」
ノアール国第二代国王ノゾムとその妻であり宰相のコノハ。
人民から愛される、素晴らしき王のノゾムは、この国の建国の祖であるリョウガとカエデの最初の子供。
その容姿は見た目はリョウガのように凛々しく逞しいが、中身は先程の様に心優しい愛情に溢れた人間だ。王族と民を分け隔てなく愛し、未だ他国で虐げられてる同族を助けるため、日々職務に励んでる。
最近では、各地で独立運動や紛争が激化してきたことにより生じた難民を王自ら受け入れ体制を整え、未だ未開の森などに土地や物資を提供出来るよう、鎖国中のこの国を維新しようとしている。
そんな彼を支える右腕は、王妃コノハ。
彼女は産まれはこの大陸ではなく、北の大陸の出身だ。
貧しい寒村で『魔子』として産まれて直ぐ、奴隷商人に売られた彼女は、子供の頃、当時まだ皇太子だったノゾムに助けられ、以来彼の隣で時を過ごしてきた。
いつの日か、彼に恩返しがしたくて頑張ってきた彼女は、気がつけば恋に堕ちていた。
民を思い、家族を思い、夫を思い、この地に根ざす彼女は、冷静沈着かつ超現実主義者。
交渉に強く、他国からは『氷の女王』と恐れられ、最も敵に回したくない人物である。
「なんだよ~、お前は自分の子が心配じゃないのか!?」
「…そりゃ心配ですよ。あの子は末っ子として産まれたせいか、皆が甘やかしすぎて…好奇心旺盛で…いつもいつも心配かけて…挙句の果てに海の向こうに行きたいだなんて…。」
「…ん?」
「人の話は全く聞かないし、アグレッシブすぎてこの前なんかボロボロで帰って来たし、小さい頃転んで出来た頭の傷はまだ少し残ってるし、このままお嫁に行けないなんてこと…。」
「わ、わかったわかった。お前が一番心配してるのはわかった。俺も少し冷静じゃなかったよ…。大丈夫。あの子は誰よりも勇敢で正義感が強い。…それに、俺とお前の子じゃないか。ちゃんと帰ってくるよ。」
「…はい、ノゾム様。」
…なお、実は王よりも子煩悩なのはこの国の人間以外誰も知らない。
「…朝からお熱いですね、先輩。」
「そうね…。」
「「リア充は幸せに爆発しろ」」