プロローグ むかしむかしのとあるお話。
むかしむかしのとあるお話。
あるところに一人の魔王様がいました。
魔王様は地位もお金も権力もあるのに、いつもひとりぼっちでした。
そんなある日、一人の美しい女性が言いました。
「可哀想な魔王様。私がそばにいてさしあげます。」
「同情なんかいらない。帰れ。」
「同情なんかじゃありません。私はあなたに惚れたのです。」
「嘘の言葉なんぞ必要ない。消えろ。」
「では、これから証明してさしあげましょう。」
「どうやって?」
「私が一生あなたのそばにいます。」
「お前は人間だ。直ぐに死んでしまう。」
「いいえ。もし私が死んでもあなたはひとりぼっちじゃありません。
私が腹を痛めて産む子ども達があなたのそばにいます。」
「…そなたの子か。それはそれは、面白い人間だろうな。」
「はい。」
こうして女性を花嫁として迎え入れた魔王様は、女性が死んだ後も寂しくありませんでした。
なぜなら、彼女との間に産まれた子ども達がそばにいてくれたからです。
…時は流れ、魔王様の一族が繁栄した頃。
一族の一人である『トーカ』は、人間の男性と恋に堕ちました。
トーカは彼を深く愛し、地上にある彼の元に嫁ぎにいきました。
その際、魔王様は彼女の為に、人間と同じ時間が流れるよう彼女の寿命を縮めました。
更に時間が進み、魔王様がひとりぼっちじゃなくなってから六百年。
地上では相次いで黒髪黒目の赤ん坊が産まました。
地上の他の人間は魔王様を憎んでいます。
なぜなら地上の人間は、女性が魔王の元に嫁いだのは魔王が女性をたぶらかしたから。
だから女性は人間側を裏切ったと勘違いしていました。
魔王様の特徴である黒髪黒目の人間は誰一人として存在しません。
産まれてきた子達は。『魔子』と呼ばれました。
人々は産まれてきた子を殺そうとはしませんでした。
なぜなら、人の命を殺めることは大罪。
神の教えが書かれている聖書『エイラの書』にも、『人を殺めたものには必ず罰が訪れる。』
と、書かれてます。
そこで親たちは、親子の縁は産まれたその瞬間から切り離し、奴隷として売り、人間以下のモノとして扱われました。
そんな中、彼らを救うべく、一人の少年が立ち上がりました。
彼の名は『リョウガ』。聡明で優しい少年です。
彼の元に沢山の仲間が出来ました。
その中の一人『カエデ』は、異世界からやってきたと言われてます。
彼女は敵味方から『戦乙女』と呼ばれ、我々の奴隷解放のもう一人の主人公と呼ばれます。
敵対する民族・国・宗教の全てから独立し、新大陸へとたどり着いた頃には、二人の間に淡い恋心が生まれていました。
新大陸の独占権を獲得しこの国を建国した二人は、夫婦となりいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
これが、この国に伝わる建国の物語。
この国に産まれた子ども達は皆、幼い頃からこの話を聞き、育ってきた。
少年は戦士達に憧れ、少女は恋に心奪われる。
可愛く美しい人間の血を引く魔王の子供達よ。
そなた達の運命に幸あれ…。