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誰にも言えない事件簿【空き巣】

作者: 湧水蓮太郎

ある日、僕は空き巣被害にあった。

盗られたものは親友の宝物。


でも、それは・・・

※多量の下ネタを含みます。ご注意ください。




家に帰ると、部屋が荒らされていた。




タンスの引き出しが開け放たれ、洋服が散乱し、会社の企画書やらトイレットペーパーやらがやたらめったらに散らばっている。



窓からはカーテンひらひら冬の北風。





「チクショウ!窓から侵入しやがったのか!!」





僕は途方に暮れてしまった。



警察に被害届けを出すべきだろうか。



と、思ったが、まずは貴重品が盗られているかどうかを確認しなければ…。




通帳。ある。



財布。ある。



パソコン。ある。



テレビ。ある。



実印。ある。



免許証。ある。





なんだ、全部あるじゃないか。




いや、ない。


ひとつだけないものがあった。












電動バイブがなかった。

(※お昼時に読まれた皆様、大変申し訳ありません)






親友のTが、彼女に使おうと目論み、購入し、実家暮らしの彼が一人暮らしの僕に預けていたのである。




もう一度、言う。





電動バイブ(商品名「ラブスプーン」)がなかった。





僕は焦った。これはマズイ。




親友に殺害される。



てゆうかマジで購入の仕方が分からないし、買うことなんて絶対にイヤだ。



テンパった僕は、とりあえず、2階の大家さんの元へ駆け込むこととした。




「すいません!!部屋が空き巣にはいら・・・!!!!」






「○×△!!マドラスボンベイカルカッタ!!!」



「カレーザケンナハショムニカ!!!」



「スラムドッグミリオネア!!!」



「シンオオクボノチカアイドル!!!!!」



インド人の大家と、韓国人の住人が大ゲンカをしていた。

※なんていったかよくわからないので、とりあえず上記のコトバをチョイスした。



それはそれはもうハンパなく怒号が飛び交っていたので、僕は大家に泣きつくのをあきらめた。



なんで、こんなときにインド人が大家で隣人が韓国人の多国籍アパートを選んでしまったのか、と深く後悔をし、不覚にも涙がでた。




だって、家賃がものすごく安かったから。



とりあえず僕は部屋に戻り、大家にはきっと何を言っても言語問題的に伝えるのは難しそうだし、Tにとっての貴重品は失ったかも知れないが、僕にとっての貴重品は何も失っていないのだし、とりあえず放置をすることにした。




「まったく、今日はなんで、こんなにも家を散らかして出勤してしまったのかな。まいったまいった」



と、何事もなかったかのごとく、平静を装う。





部屋に戻って、後片付けをした。



トイレットペーパーが異様に乱れ散っていたので、掃除機でも吸い取りずらく、ものすごくめんどくさかった。



トイレの扉を開けると、ウ○コがあった。



文字どおり臭かった。



犯人の置き土産に違いなかったが、




「まいったまいった、僕は慌ててトイレを流すのも忘れてしまったのか。今日は大事な大事な全体会議だったものな」




と、つぶやきながら、また涙が零れ落ちた。













2週間後の休日。







早朝から、





ドンドンドンドン!!


ドンドンドンドンドン!!!




とドアをけたたましく叩く音が聞こえる。





「すいませーん!!!」




なにやら中年のおっさんの野太いヴォイスが聞こえるが、休日の素敵モーニングのはじまりに、おっさんの顔などみたくないので、とりあえず無視をした。



ドンドンドンドン!!


ドンドンドンドンドン!!!


ドンドンドンドン!!


ドンドンドンドンドン!!!



「すいませーん!!!!!!!」




ええい、しつこい。




やかましいので、出ることにした。





「なんですか、もー!!!」



ドアをあけると、おっさんもといポリスメン。




「警察です。」



「は???」



「警察です。」



「あの、僕なにかしましたか??」



「君さ、2週間前に空き巣に入られたでしょ」



「え!? ま、まぁそうかもしれないですね・・・」



「そうかもしれない、じゃなくてさ、そうだよね。君の家は空き巣に入られたよね」



「はぁ・・・」



「まぁ、いいよ。少し協力して貰いたいんだよ。実は犯人が滝野川で捕まってね。君の家を含めて、1日で5件も空き巣に入っている」



「は、そうですか・・・犯人が・・・」



「でさ、君の家は何をとられたの???」



「え!?い、いや、特には何も・・・」



「ウソつくんじゃないよ!!!あんまり、警視庁をナめるんじゃないよ」



「(そんな乱暴な・・・)いや本当に、なにも・・・」



「だからね。ウソはいけない。ウソをつくと君が捕まることだってあるんだよ」



「なにか、とれらたっけなぁ~。うーん・・・」





・・・。






バイブを取られただなんて絶対に言えない。



万が一、万が一にでも、だ。



バイブを所持(僕のものでもないのに)していたことが、会社は親、はては友人にバレたとする。







ジ・エンド、である。








きっとよほどの変態でもない限り、一般の日本国民は思うだろう。




「バイブってなぁにかしら」




と。



そして、このネット社会の手軽さで、簡単に検索してしまうだろう。



‘オトナのオモチャ’



といったキーワードを。




親はきっと、こう思う。



「レンタロウも大人になったのねえ」



友人はきっと、こう思う。



「ワキミズは、ホントに彼女思いのナイスガイ&タフガイだな」



会社の上司はきっと、こう思う。



「あいつはやっぱり探究心が違うな。企画の仕事は天職だ」



おじいちゃんはきっと、こう思う。



「これは肩こりにええのう。レンタロウはやっぱり優しいのう」




と。












そんなわけが、ないでしょうが。







そもそも、



彼女もいない、僕が、だ。



ひとりで、バイブ(商品名「ラブスプーン」)など、いったい、どのようなシチュエーションで、はたまたどんな体位で、そして、どんな顔をして使用するというのか。




絶対に認めてはならない。



僕は押し黙った。




「あのねぇ、もう証拠品はあるんだからさ、君の口から聞きたいんだよ、盗られたものを、さ。」



「・・・・・・・・。」




「ホントに何も盗られてないの??」



「・・・・・・・・。」




「まぁ、いいか。これ、これを見てよ。これ、君のだろ」





人生終わった。





と思いきや、なにやら見慣れたものが。





「ほらこれ、この音楽プレーヤーと、時計。君のだろうが」




「あ、ハイ・・・これは僕のです・・・。」




確かに僕のiPod nanoと、時計であった。



僕は普段音楽をスマホで聴いてしまうので、すっかり存在を忘れていた。

時計も、祖父の形見の大事な時計ではあったが、盤面ガラスが割れ、すっかり箪笥の肥しとなっていた。




「だからさ、2週間前に君は空き巣に入られ、物を盗まれた。間違いないね」




「ハイ」



「まったく、手間をかけないでよ。じゃあ来週また供述を取りにくるから、家にいてくれる?」




「はぁ・・・」






ともかく、僕は難を逃れたのだった。


しかし、めんどくさいことになった。



そもそもiPod nanoと、時計に関してはどこにあったかすら覚えていない。



バイブは、あんなにもハッキリクッキリと隠し場所を鮮明に覚えているのに。






ここで、僕にある疑念が生まれた。






あの、おっさんポリスメン、もしや、僕が返せと言えないのをいいことに、Tの家宝ラブスプーンを、個人的に押収しやがったのではないか、と。









・・・・・・・。












次の週。おっさんポリスメンはやってきた。




「じゃ、今日はよろしく」



「はぁ・・・」




「じゃ、はじめるから。まずはここにサインしてくれるかな」




「はぁ・・・」




なにやら部屋の見取り図を見せられ、サインをさせられる。




「えー、では、○月○日、午後○○時ごろ(推定)と。あのさ、君が部屋に戻ってきたとき、部屋の中はどうなっていた??」




「えっと、服が散らかっていました。資料やトイレットペーパーなんかも散乱していました」




「じゃ、やってくれる?」




「は??」



「だから、早くやってくれるかな」




「なにを? ですか??」



「なにをって君は。今日は現場検証に来てるんだろうが。はやくその状況を作ってよ」



「は・・・はぁ・・・」





僕は、タンスから洋服を引っ張りだし、床に適当に散らかした。



そして、トイレットペーパーを自ら引き千切り、ひらひらとあちこちに投げてまわった。




なんだこれ。






「だいたいこんな感じ??」



「まぁ・・・そうですかね(知るか!)」




「あのさ、あそこに雑誌が散らばっているけど、あれもあんな感じ??」



「あ、いえ、あれは、僕がただ汚くしているだけです」



「は?? じゃあ早く片付けてよ紛らわしいから」




だんだん腹が立ってきた。




そもそも僕は被害届けすら出す気はなかったじゃないか。




「えっと、じゃあ次は、被害状況の確認をするね」




「はぁ・・・」




「盗られたのはアップル社の音楽再生プレーヤーと時計の2点、間違いないね」




「(僕の物に関しては)間違いないです」



「アップル社の音楽再生プレーヤーはどこに置いてあったの。それから、どこで購入したものかな」



「ああ、iPod nanoですね。それがあまりよく覚えていないんです。普段使ってないもので。あとこれは会社の同僚に貰ったものです。」





「は? それは困るなぁ・・・。ま、いいか」





なにやらスラスラと書き出すポリスメン。



「じゃ、状況的には、ざっとこんな感じかな? 君は普段音楽に興味がない。そのため、あまり音楽を聞かない。そして、アップル社の音楽再生プレーヤーは、君の実のお父さんが、ビンゴ大会かなにかで当選したものを貰った、と」




「は!? いやいや、ぜんっぜん違うじゃないですか!!僕は音楽を人並みに聴きますし、会社の同僚から貰ったんですよ!!!しかもビンゴ大会か何かって!!」




「まぁ、そのあたりはあんまり大事じゃないから構わないでしょ。大体会社の同僚の供述まで取ると、まためんどくさいことになるよ? じゃ、これで。査定1万円の被害、と」




「はぁ・・・」




「じゃ、次はこの時計ね、これはどこで買ったの?」



「祖父から貰ったものです」



「あ、この時計ガラスが割れてんなぁ。めんどくさいなこりゃ。よし、こうしよう、君はマラソンをしていて、うっかり転んだらガラスが割れた。壊れた時計だから普段は使っていない。机の上に放置をしていた、と」




「いやいや、だから、おかしいじゃないですか!!!僕にマラソンの趣味はないですよ!!ガラスがいつ割れたかもはっきりはしませんし、机の上にはまず置きません」




「あのねぇ、君はホントに困ったもんだな。どこに置いたかも分からず、いつ壊れたかも分からないようなものを盗られた、じゃ、曖昧すぎて、被害があったかどうかも分からないんだよ。こっちの身にもなってくれよ」




「あのですね、お言葉ですけど、僕は被害届けも出していないし、(バイブのこと以外で)嘘をつくくらいなら、こんな現場検証もしたくないですね!!!もう帰ってくれませんか!!!」




「まぁ、いいからいいから。もう少しで終わるよ。とりあえず時計は被害査定30円、と。しめて1万30円の被害。これでいいよね??」




「こら!!!。と・け・い!!!失礼すぎるでしょ!!!!!!」




「君ね、ほんとにいい加減にしないと、大変なことになるよ。捜査に協力しないのは、場合によっては犯人隠微にもなる。犯人はすっかり供述しているんだ。早く君だって犯人の罪を確定させたいだろう。それとも犯人を庇う理由でもあるのかな?」




「・・・・・」




「さ、もういいよ。最後にここにサインしてくれる??」




僕は供述書を覗きこんだ。



そこには、



『私が、被害届けを出すのを怠ったため、このような事態となってしまいました』



と、書かれていた。



僕が、被害届けを出すのを‘怠ったため’だと???






僕は完全に怒り心頭に発した。




「ふざけんなよ、てめぇ!!!! 俺は被害届けなんて出す気さらさらなかったんだよ!!!!警察だかなんだか知らないが、いくらなんでも失礼すぎるだろうが!!!!俺は、バイブしか被害はなかったの!!!!それ以外はどうでもいいし、犯人が反省をして、バイブが帰ってくりゃそれでいいんだよ!!!!!だいたい、俺が申告できないのをいいことに、もしかしたらお前がバイブをパクったんじゃないかとすら疑ってるんだよ、この野郎!!!」




と、







心の中で叫んだ。






だって、そんなこと言えるはずがないもの。






僕は結局おとなしくサインをした。





そして、言い忘れていたことを思い出した。




「あの、すいません。実は、犯人は僕の部屋でウ○コをして去っていったようなんです。まるで置き土産といわんばかりに」





警察はニンマリしながら声を張り上げた。




「やっぱり、そうか!!!犯人の部屋から、多数の変態趣味のビデオが押収されたよ。君と同じくらいの若いアンチャンなんだけどな。性癖が飛び抜けて変わっていてな。マーキングのつもりなのか、空き巣に入った部屋でウ○コをするのが快感なんだそうだ。5件の被害現場は全てそうだ。浣腸のような変な棒も所持していたよ」






・・・・・・。







そうか、そういうことか。






すべて合点がいった。





ものすごく、変態的に、合点がいった。




バイブはきっと犯人が所持しているか、使用済で捨て去ったのだ。



ある意味、最大の凶器である。




Tが、




「電マは凶器なのさ」




とドヤ顔でつぶやいたことがあったが、本当に凶器であった。





というより、実際に犯人に遭遇していたら、僕は殺害されていたかも知れない。




きっとニュースでは、




「本日、東京都豊島区のアパートで、男性が、細長いマッサージ機のような鈍器で殴られ殺害・・・」




と報道されたのだろう。



そんな残念すぎる死に方は絶対にいやだ。




世の中、悪いヤツがいるものである。



犯人も捕まったことだし、早くTに報告をしなくては。











・・・。








・・・・・。













ここで、僕はハッとした。







親友Tとは、半年前に些細なことで大ゲンカをしたばかりである。



もう3ヶ月以上、口も聞いていないし、会ってもいない。




何だろう、この違和感は。







‘君と同じくらいの若いアンチャン’






犯人隠微。





被害届けを出すのを'怠ってしまった'ため。






・・・・・・・・。






盗られた物は'僕のiPod nanoと、時計'だけ。








預り物は、'既に持ち主の手元に帰っていた'としたら!!!





僕は背筋が寒くなった。




Tの携帯電話を鳴らした。




コールは響かず、静寂の向こうにひっそりと圏外のアナウンスが流れた。




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― 新着の感想 ―
[一言] …犯人T?ですか?? だとしたらなぜ普通に交渉して取り戻そうとしなかったのか… そして他四件でも「預け物」を盗み取り返しただけなのか… なぞと言えば謎な不思議ですね。
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