お兄ちゃんは魔王になりました。
3人兄弟の真ん中で育った私は、いつでもお兄ちゃんの尻ぬぐいをしてきた。兄が小学2年生の時から、くだらない理由によって不登校となり、私は毎日欠席届を職員室に持って行く羽目になった。
くだらない理由って何だと思う?
それはオンラインゲーム。所謂ネトゲ廃人というものだった。たまに外出したと思ったら、わけのわからない女の子を連れ込んでゲーム三昧。
お兄ちゃん曰く、「ネットの友達だ!!」と言うが、毎回のように違う女の子を連れているのだから、呆れてしまう。
きっと天性のタラシに違いない。こんな男、社会に野放したらとんでもない人間になりそうだったので、このまま引きこもってもらったほうが、世のため人のためになるのではないのかと真剣に考えたこともある。
それがまたお母さんが甘やかすから、助長するんだ。小学2年生なのに、お小遣いを月に50万って、度が過ぎるよね?確かに、我が家は、仕事をしなくても良いぐらいお金持ちではあるよ?元々は農家だったらしいんだけど、広大な土地を企業に貸しているから、お金は毎月のように入ってくる。
それがいけないんだと思う。
私も、もっと普通の家庭で育ちたかった。
そして10年が過ぎた。
お兄ちゃんは突如として、行方不明になりました。机の上には見たこともない不思議な封筒が残されており、お母さんと私が中身の文章を信じられない思いで読み終わると、ぼんやりと発光しだして消滅してしまいました。その光景を見たら信じるしかありません。
どうやらお兄ちゃんは、この世ではない場所に召喚されたようです。何で、よりによって、あんなお兄ちゃんを召喚したのでしょうか。
見る目が無いと思います。それとも、実は意外な才能でも持ち合わせていたのでしょうか。
「ど、ど、どうしよう……大丈夫なのかしら、あの子……」
とんでもない光景を見て、呆然としていたお母さんは、ようやく現実を認め始めたのか、発狂寸前です。いくらどうしようもない子でも、我が子には変わりなく、可愛かったのでしょう。家族のだれもが見放していたのに、お母さんだけはまめに世話していましたからね。
「万々歳よ!あんなお母さんに心配ばかりかけるお兄ちゃんは、居ないほうがいいってもんよ。安心して、お母さん!私がいるわ!!」
「……貴方がいて、本当に良かったわ」
こんな会話をしたのは、数か月前のこと。
今度は末っ子の、彩華が行方不明になりました。これには私も衝撃を受けました。お兄ちゃんはどうでも良かったけど、彩華は仲が良かったからです。真面目一辺倒の私とは違い、女友達とワイワイやるのが好きな性格で、とても明るい子でした。
そしてこの時も机の上に、あの不思議な封筒が置いてありました。どうやら、詳細については伏せられてはいましたが、とんでもない事件が発生して、その問題解決のためには彩華が必要だった、とのことです。
問題が解決したら、お嬢さんは絶対に戻しますと明記してありましたが、その異世界とやらに殴りこむ術はないので、その言葉を信用せざるを得ません。
そうして、さらに数カ月が過ぎました。
「なんで私まで召喚されなきゃいけないのよ!?」
どうやら3人兄弟の最後の1人、私まで召喚されてしまったようです。どうやら場所は武器庫のようです。見覚えの無い景色に、最初の内は驚きのあまり声も出せなかったけど、すぐに怒りで私の心は染まりました。
「お母さんが、心配するでしょう、馬鹿じゃないの、私を家に帰しなさい!!!!」
私を召喚したと告げた、美少年の首根っこを捕まえて、ガンガンと揺すぶる。こんな理不尽なことがあってたまるか!!家に戻せ!!
「お願いします!!酷いことを言っているとは理解しています!!!ですが、もう限界なのです!!!」
おおぅ、鼻水と涙で、いい男がグッチョグチョ。哀れに感じて、というか汚くて、手をパっと離した。
「それで、私と何の関係があるのよ!」
「先日、貴方の兄君と妹様を召喚させていただきました」
「そういえば、彩華は何処なの!?」
周囲を見渡すも、お兄ちゃんのゲーム序盤で見たような古びた剣やら弓やらが見えるだけで、他には何もない。というか高そうなものがまるでない。
これが手紙に書いてあった、王宮だというのだろうか。どう見ても、村の武器庫みたいな感じだが。
「その件については、申し訳ございません。しかし、どうしても、お2人が必要だったんです」
「で、なんで私まで召喚するのよ?」
「召喚した、貴方の兄君と妹君が、手に負えないのです」
「お兄ちゃんはともかく、彩華も?」
「兄君に、魔王を倒して頂いたところまでは、文句の言いようもなかったのです。それが、魔王を倒した直後、我が国の姫と駆け落ちして、魔王になってしまいました。若い女性を毎月100名要求し、国ではありとあらゆるものが強奪され、対応できる術がありません!!」
「…………」
「それで、他の世界からも勇者を召喚してみたのですが、貴方の兄君は人外な強さでして……そこで、同じ血縁関係にある妹君に何とかして頂こうと思って、召喚したところ、兄君の甘い誘惑に陥落して、魔王側についてしまいました!毎月要求されるのが女だけではなく、見目美しい少年や、宝石が追加されてしまったのです……私の愛する息子も、浚われてしまいました」
「……………………」
近くに置いてあった、トゲトゲ付きこん棒を担ぐ。何コレ、軽いじゃない。これで、お兄ちゃんの頭、どついてやったら、目も覚めるかしらね?
腹の奥底から力が湧いてくるような気がする。
「おお!?やって下さいますか!!??」
「身内の恥を、これ以上晒しておくものですか!」
こうして、私は勇者となりました。
待ってろ、お兄ちゃん。今までの鬱憤もあわせて晴らしてやろうじゃないの!!!!!




