立太子されるのは自分だと思っていた第一王子ですが、弟に現実を教えられました
出産時に亡くなる話が出て来ます。苦手な方はご注意ください。
王国に一年後に立太子の式が行われるという、噂が走った。
諸外国の大使館に通知が出され、王宮の衣装部屋が増員されて、それが現実だと明らかになっていく。
第一王子である私の元にも、衣装合わせの者たちが来た。
「これは地味ではないか?」
「……畏れながら、慰謝料のため予算が少のうございます」
「……そうか」
私は若い頃に、婚約者を断罪して追放したのだ。それが私の恋人による謀だと判明したため、元婚約者に対する慰謝料を払うこととなった。
元婚約者は他国の王族に嫁いだのだから、もう払わなくても……と思う。だが、元婚約者の実家をこれ以上怒らせるわけにはいかないと、父である国王に厳命されている。
それから一か月後。
「どういうことだ?」
年の離れた弟の執務室に、私は怒鳴り込んだ。
「立太子されるのが私だからです」
弟は顔を上げたが、手にはペンを持ったままだ。まるで、私の方が地位が低いかのようではないか。
「母を死なせた人殺しが、国の頂に立つ未来などありえない!」
母上は、弟を出産するときに亡くなった。
「それを言うなら、原因を作ったあなたも同様ですよ」
「なに?」
今までは神妙にうなだれて聞いていた弟が、兄である私に反論した。
「母上はもう出産に耐えられないと判断されたため、陛下の御子は長らくあなた一人でした。
ですが、あなたはまともに育たなかった。あなたに王位を継がせるわけには行かないと、母上は決死の覚悟で私を産んだのです」
「そ、そんな……」
そんなことは聞いていない!
「できそこないの息子を産み、育てた罪を贖う方法が、他にないと決断されたそうです。
あなたに新たな婚約者はいませんよね。側仕えの者も数ヶ月で交替し、信頼関係は築けない。私に子ができなかったら、出番があるかもしれません。というわけで、あなたには『念のための予備』という価値しかないのです」
「嘘だ……。今では、ちゃんと公務もやっているし……」
「ええ。祭典に顔を出し、挨拶の原稿を読んでいただいてとても助かっておりますよ。
私は物心ついたときから心の余裕がないので、どうしても相手に警戒心を抱かせてしまう。あなたの鷹揚な雰囲気は人に好かれやすく、相手を油断させることもあります。それがどうしても必要な場はありますから。
本当に羨ましいですよ。私も後先考えずに、青春を謳歌したかった」
私は言葉を失った。若き日の愚行が彼を誕生させ、彼から無邪気な日々を奪ったと?
そして、私は既に駒の一つでしかないのか……?
「ここで私を害しても、次の王太子はあなたではありません。おかしなことは企まないように」
弟が、私に釘を刺してくる。十数歳も年長者である、この私に。親子と言ってもおかしくない年の差の、私に――
「私の次は叔父上、更にそのご子息……あなたは王族ではありますが、継承権はかなり下の方です。あなたを生かしているのは、陛下の慈悲です」
弟はペンを置き、くすくすと笑い出した。
「ああ! これこそが『真実の愛』ではありませんか。
陛下は愚かな第一王子を育て、そのせいで最良のパートナーである王妃を失った。そんな悪評を甘んじて受け、あなたを王籍から外せという抗議の盾となっています。
そのせいでご自身の政治力、発言力が削られても尚、切り捨てずに『反省する機会を与えてやってほしい』とおっしゃっている」
「ち、父上を…………愚弄するな」
やっとひねり出せたのは、そんな拙い言葉だった。
「一人の父親としては見上げたものだと思いますが、一国の王の器ではありませんね。
そもそも、父親として愛情を持っていたなら、あなたの生育環境に関心を持ち、早期に矯正していたはず。彼は見通しが甘く、ただ情に溺れているだけです」
「自分の親になんてひどいことを――」
「ふむ。兄上も、彼を早々に国王という重圧から解放して差し上げた方よいとお考えなのですね?」
弟は顎に手を当て、首をかしげた。なにやら芝居じみた所作だ……。
「……そんなことは言っていない」
弟は嘲るように顎を上げて、口の端を歪ませた。
「あなたは『そう取られてもおかしくない発言』をしたのです。
外交では、些細な失言から揚げ足を取られるもの。国内の貴族たちも自分の利権を守るために、付けいる隙を狙っている。
あなたを重要な会議に出さない理由が、おわかりいただけましたか? 僕がその気になれば、兄上を排除することなど難しくないのですよ。
人前で兄上から言質を取るような策を、わざわざ弄することもなく」
遥か年下の弟は、すでに為政者の風格を纏っていた。
私がいくら反省をしても、失ったものが戻らないということだけは、わかった。
私が嫌味を言う度に彼の「人の上に立つ覚悟」を育んだとしたら、何とも皮肉なことだ。そう、完璧な反面教師として……。




