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トルバドーれ!  作者: 袴田八峰
第三幕「ヤダ!」

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7/11

二席


 【熱情】。


 思い起こせばポメロは一体何度この衝動に急き立てられたことか。

 そして、それを鎮める為に何度楽曲をひねり出したことか。


 いや、鎮めるのではなく、顕す──或いは乗り移らせるのかもしれません。


 形無き魂を、音声ある楽曲に。

 

 ここに来る前にポメロが作った楽曲のラインナップも、すべてそうです。

 熱情を看破し、昇華した結晶なのです。


 『ヤコウ引水』の元となった熱情とは【リスペクト】。


 ヤコウ氏の用水路を掘りぬくという執念、あるいは狂気に感化され。


 『麦刈るるぞ』の元となった熱情とは【発見の衝撃】。


 男たちの麦を刈る反復作業が一定のテンポを保っていることに気づき。


 『風車が回った日』の元となった熱情とは【感動】。


 塔全体を軋ませて、のっそりと回る重厚な風車の存在感に圧倒され。


 『村長最高』の元となった熱情とは【欲】と【感謝】。


 銀貨だ! すげえ! 太っ腹! 大金持ちだ! という俗な喜びを抱き。


 そして『おのぼりさん、北へ』の元となった熱情とは。


 意気揚々と故郷を後にしたはいいが、初めての一人旅への不安といつまでも距離が縮まらない焦りを覚えた自分が気に入らなくて、「ビビッてんなよポメロ、そんな弱気な自分なんて笑い飛ばしてしまえよ!」と嘯いた、【強がり】と【反発心】。


 その全ては感情の高まりに端を発し、連鎖して熱情が爆発した時に、創作衝動に掻き立てられて生まれた産物なのです。


 ポメロが熱情の正体を看破した時、そこに楽曲の種が産まれるのです。


「嫌だ、ギターのない生活なんて。

 嫌だ、震えて凍えたままなんて。

 嫌だ、エピタフに哀れまれるなんて。

 嫌だ、リノに頭を撫でられるなんて。

 嫌だ、嫌だ、ポメロという物語がここで完結するなんて!」


 ギターを鳴らす! かき鳴らす!


 フォルテ!

 

 フォルテッシモ!


 アパッショナート!

 

 それだ!

 

 熱情! 感情を激しく高ぶらせろ!


 ギターはまだパトスに追いついていない! 


「このままの自分でいるなんて絶対嫌だ!」


 ポメロは問う。熱情の名を。湧きあがるパトスの芯を。


 お前は誰だ!

 

 なんでそんなに荒れ狂う!?


 その名は「怒り」か?


 ――そんなものと見間違えるなと熱情は怒る!


 その名は「拒絶」か?


 ――近いけど遠い。もっとよく見ろと熱情は拒絶する!


「自己否定」?

「奮起」?

「復活の誓い」?


 難しく考えるな。


 余計な考えは、外れた答えは全部捨ててしまえ!


 アパッショナートにくべてしまえ!


 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!


 なんだかもう、とにかく嫌だ!


 リノもドリーもデッカもエレクトラもエピタフも!


 お前らみんな纏めて全部思考の邪魔だ!


 あっち行け!

 

 どっか行け!


 僕は熱情をとっ捕まえるのに手いっぱいで、君らのことに脳みそを割く余裕なんてないんだよ!


 アイツらなんてもう全部、アパッショナートにくべてしまえ!


 理屈抜きで嫌だ!


 ──暴れまわる熱情。


 感情抜きでヤダ!


 ──びくり、と跳ねあがった熱情。


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!


 ──転げまわる熱情。


 ……………………………………ん?


 何で今、一瞬熱情はびくついた?


 確かにこいつは今、嫌がってたよな?


 ──変わらずに暴れまわる熱情。


 あれ、元に戻った……

 さっきのびくつきって何に反応したんだ?


 ──変わらずに転げまわる熱情。


 くそっ、折角のとっかかりだと思ったのに!

 あー嫌だ嫌だ。


 ──変わらずに暴れまわる熱情。


 ホント嫌だすごいヤだ、喉元に引っかかったこの感じ!


 ──びくっ!


 あーもー、ヤダヤダヤダヤダ!


 ──びくびくびくっ!


 なんだよそれ。僕の癇癪に反応してるのか?


 嫌だ!


 ──変わらずに転げまわる熱情。


 ヤダ!


 ──びくっ!


 なんだよ、嫌だには反応しないでヤダにはするのは。

 どこが違うっていうんだ?


 嫌だもヤダも同じ感情だろ?


 ──熱情がたじろぐ気配がする。


 違う…… のか?

 ヤダ、がお前の正体なのか?


 だったら話は簡単だ。

 

 「嫌だ」という感情すらもアパッショナートにくべてしまえ!


 そこに残るのがお前だろ!?


 「感情」すらくべてしまっても、そこに「ヤダ」は残るのか?


 ──熱情が苦し気に身悶えている。


 ………………残るのか!


 「嫌だ」は既に燃え尽きた!


 残ったな!


 捉えたぞ熱情、お前の正体を。


 感情よりも魂の手前。


 「感覚」。


 イヤだの正体はここにある。


 ──熱情が破れかぶれで躍りかかる!


「汝の名は――――【不快感】!」


 ──熱情は観念したかの様に動きを止めた。


 幼い頃を思い出す。


 母親にお菓子を買って貰えないのが納得できなくて、

 泣いてわめいてしっちゃかめっちゃかやっているうちに、

 もう自分も何で泣いてたんだかわかんなくなってるんだけど、

 でもなんか胸にヤな感じは残っていて、

 それがあんまりにも不快だから、

 ヤダヤダヤダと、

 嫌なことを嫌がってたあの状態。

 

 もう無茶苦茶の癇癪玉。


 それがこの熱情の核。源。基。


「やっと向き合えたな、熱情」


 あとはお前を解体して。あとはお前を散りばめて。


 お前を楽曲に打ちなおしてやる。



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