第2節:保存仕掛ケノ魚介
タイトルは「431」と書いて「シタイ」と読みます
香ばしい肉の匂いと料理酒に使われたであろうワインの芳醇な香りが物語る。
この魚料理は絶品だと。
手錠で繋がれている少年の両手が水面を滑る白鳥を思わせる軽やかな動きでナイフを動かす。
ナイフが真珠の様に白く染まった魚の体を割く度に、切れ口から汁と湯気が沸き立つ。
「見事だな……」
思わず刀の少年がつぶやく。
少年は赤子をあやす乳母の様な穏やかな瞳を刀の少年の方に向ける。
「お前忘れてないよな?俺の事について教えてくれるっていう約束」
刀の少年は持っていたフォークを皿の上に音もなくおいて一息つくと喋り始めた。
「舐めるな……知っていることは全て教えてやる……」
刹那、少年のナイフ捌きに濁りが見える。
「安心しろ……某嘘はつかぬ…某と貴様は現在、とても良好な関係にある……我らの利害は一致しているし、何よりそこには信頼関係もある」
少年はナイフをカチャッと音を鳴らしながら皿の上に置く。
「言っておくけどその信頼関係……主従の関係?飼い主と飼い犬の関係?をお前と築いた覚えはないよ……」
「ふっ……関係など建前だ……飼ってくれと言ったのは貴様の方が某より歳が上だと知ったからにすぎん………いわゆる年功なんたらと言う奴だ」
刀の少年が話すのをやめたところで、少年はナイフを再び皿から拾い上げ、魚料理を一口食べて言った。
「……まずいなこれ」
「はぁ………とにかく時間も惜しい……某の知っている貴様についての情報を開示してやろう……」
刀の少年の表情が少し険しく、凛々しくなる。
「某の知っている事……それは…………貴様の本体は解剖全書と言う血肉で作られた一冊の本だ……」
魚の焼ける音をドラム代わりに海の波の音が歌を歌う。
「え……それだけ?」
「あぁそれと貴様はつい最近まで雪国の古代遺跡に封印されていた」
市場の賑わいが渦となって人を呼び込み、更に大きく成長していく。
「お前が知ってる俺についての情報って……それだけなの?」
刀の少年は頬杖をついて言う。
「いや……なにせ貴様の情報の大部分は人類史以前に集約されているからな……もう大体の情報が価値を失ってネットやら本やらの情報媒体に垂れ流しになっているものだから一部の人間しか知りえない貴重な情報など貴様関連であまり残っていないのだよ……」
少年は大いなる時間の無駄使いに気づき落胆して天を仰ぐ。
刀の少年は何かをやり切ったようにラタンチェアにもたれ地面に着かない足をパタパタさせると机の脇に置いてあった少年のコーヒーを間違って飲んだ。
刀の少年は慌てて自分の頼んだいちごのショートケーキを口に流し込んでフゥと一息つく。
すると一息ついた拍子に何かを思い出したのか刀の少年は口を開く。
「と言うか………逆に聞かせてもらいたいことがあるのだが…………貴様何か目的を与えられた覚えはないか?」
少年は椅子にもたれて情けなくだらけた声を出す。
「ど~ういう意味~……」
刀の少年はグイッと少年に近づく。
「この質問をする真意は貴様の封印が解けた仕組みにある……その仕組みとは……時限式だったのだ…それが意味するのは貴様に施された封印が人類歴2300年2月15日午前1時52分43秒に解けるよう、最初から設定されていたという事だ……これは封印と言うよりも保存と言った方がしっくりくるかもしれない……」
少年の体が徐々に収縮していき最後には自分のつま先を眺められる程うつむいた姿勢になった。
「お前の目的は何だ?思い出せ!!」
「……………………思い出した」
刀の少年はそれを聞いて仰天する。
「え……今思い出したと……」
「あぁ思い出した……そういえばなんか偉そうな白衣を着た顔が無い変なのに命令されてた……」
刀の少年が興味津々で机に乗り出す。
「その命令の内容は?!」
少年は顔を上げて空にぶら下がる超巨大な木々を見上げながら言う。
「俺に下された命令は多分……創世全書の残骸を集め厄災共を解剖しろ、て言うやつだ……」




