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431の解剖全書  作者: 八十神 今切
第一章:死体と腐敗の天
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第13節:暗黒ヨリ光ヲアナタ二

 腰まで伸びる青髪の尾をなびかせ、忍がノースと対面している。


「よぉ?久方ぶりだなノース……交流会振りか」


 忍は腰に携えた刀に肘を置きながら、ノースを見下して話しかける。


 ノースはいよいよ疲れを隠しきれずになって大きくため息をついてから言う。

「はぁ……今日は懐かしい者とよく会うな……といってもどちらも願うならば二度と会いたくなかった者だが……」


「おいおいそんな悲しいこと言うなよ?軽く世間話に花咲かせようぜ?ほらなんか近況の変化と書ねぇのかよ?」


 ノースは険しい眼を一切濁らせずに、ただ忍の次の動きを予想して見極める事に専念する。


 その為ノースが口を開き愉快に世間話に興じる余裕などある筈のない事だった。


「たくノリわりぃぜ……ま、そんじゃ俺から話しちゃおっか……なぁ!」


 突然忍は足音も風を切る音も鳴らさずに、刀を引き抜いてノースの首に突きつけるとニヤリと嘲る様に笑って言う。

「あれぇ……俺の知ってるノース君ならこれで一本とれたんだけどなぁ……技を磨いたか?」


 ノースの刀は既に鞘に居らず、いつの間にやら忍の腹をあと数センチで切り裂く位置にお出かけしていた。


「あれから某の頭にあるのは深い怨念のみ……必ずや憎きあの男の首を跳ねると決めた日から修行を欠かした日は一度もない」


「………ブッ!ハハハ!アッハハ!!!」


 忍びは面白い冗談でも聞いたように笑うと涙を払って言う。

「いやぁ……笑わせてくれるぜ…まさか本当に男の首一つ跳ねる為にあれから数十年準備をしてたのか!最近お気に入りのレッド君もその一環か!アッハハハハ!」


 忍は苦しそうに腹を抱えながら深呼吸をしている。

 

 ノースは孤島に吹くヒヤリとした風の様に冷酷な事を、何の気兼ねもなく簡単に言う。

「お気に入りだと?笑わせるな……奴はただの道具で正常に動くかという事以外に塵程の興味も湧かぬ……奴の名の由来も適当だしな」


 忍は一年分の爆笑をここですべて使い切ってから、興味深い話をし始めた。

「ひでぇなぁ……レッド君はお前を慕ってんのによぉ……ただまぁ…すげぇ笑わせてもらって気分が良くなった!だから一つ良いこと教えてやるよ………」


 ノースは特に期待もせずに何となく反応する。

「言ってみるが良い……」


 忍は背後の男に針の様な物を刺す。


 すると針を刺された男は石のように固まる。


 忍はびくともしない男に寄りかかって言う。

「お前の左目の仇は既に受験権を手に入れてこの街の首都階層で待機してる……」


 ノースは驚く様子を見せず代わりに冷静な様子で忍に聞く。

「その根拠は?」


「俺が嘘をついたことあるか?」


 ヒュゥッ

 

 向き合う二人の間を人が高速で通り過ぎていく。

 

「お~い!ノースー!どこにいるんだ~!」

 レッドの声が騒がしい孤島の上で特に目立って聞こえてくる。


 忍はニヤッと笑うと言う。

「どうやらタイムリミットのようだな……」


 ノースが警戒を解いて3時間ぶりの瞬きをしたとき、そこに忍の姿はなかった。


「ノース!やっと見つけた!ほらそろそろ試験の解説始まるんじゃない?」


 レッドが目線を試験官の方に向けるとそこには先程まではなかった死体が五つ転がっていて、枝で羽休めをしていた沢山の鳥が全て空の彼方に飛んで行くほど騒がしかったシーカー達も穏やかに吹き抜ける風の音より静かになっていた。


 試験官は頬に付いた血を綺麗にふき取ると話始める。

「皆さん落ち着けたようで……それでは第一試験の内容をお伝えいたします」


 黒幕と静寂に包まれた孤島では試験官の響きのある声だけがうるさく鳴り響く。

 

「皆さんにはこの先天塔危険層にて危険生物(ファントム)退治をしてもらいます。皆さんにはこのゲートをくぐった先で強制的にランダムに3人ずつのグループに分かれてもらい、グループで怪物を300ポイント分殺してもらいます……、ポイントのカウントは1グループに一台配備される機構蝶(キコウチョウ)に蝶って行われるので皆さんは怪物退治にのみ専念してください。ポイントの振り分けは試験開始と同時に資料が機構蝶に転送されますのでそちらをご確認ください」


 試験官は手も触れずに遺跡の門を開き始める。


 門の奥には暗黒の他に何もない。


「それでは皆さん順番に譲り合いながらゲートに入ってください……試験開始はグループ分けが完了したのを確認した後にドローンによって通達されます」


 レッドとノースは絶え間なく動き続ける列の後ろの方で話をする。


 レッドは先程出会った不思議な少女についてある程度ノースに話すと、何の前触れもなく突然込み入った話を切り出す。

「なぁ……ノース……冷静に聞いてくれるか?」


 ノースはグオングオンと動く長い列の先を見ながら言う。

「どうした?」


「お前…………」


 レッドは淀んだ声で……輝きのある瞳で言う。

「ノースは俺をどういう風に利用したいんだ?」

 

 何か騒ぎが起きたのか、列の動きが急に止まった。


「……なにを言っているんだ」


 動揺と殺気を隠しきれないノースに対してレッドは物怖じせず淡々と話す。

「俺は今不安だ…だけど安心もしてる…もしノースがこれからの未来の為に俺を使うんだったら安心だ…でももしお前が過去の為に俺を使うとしたら……滅茶苦茶不安なんだ……だから知りたい。ノースは俺をどういう風に利用したいんだ…」


「……」


 今までに見た事のない圧発するレッドにノースは何も言わず何も言えず……レッドの問いに対して言葉の代わりに刀をそっと引き抜き答えを出す。


 シャキン!


WHITEOUT(ホワイトアウト)】 


 ノースが【WHITEOUT(ホワイトアウト)】でレッドの隣から消える。


 レッドは手錠で繋がった自分の両手を見てそこに息を吐く。


「冷た……」


 レッドは曇った瞳を磨くように湖を滑る光を見つめる。

 

「ノース…俺はもう決めてる……俺は未来の為にこの力を使う………俺はそのために記憶を取り戻す……」


 コトッ


 手錠の部品が一つ地面に落ちて、乾いた音を鳴らす。


 それが合図になったように列が脈を取り戻して活動を再開する。


「……よかったんですよね…」


 レッドの隣で先程レッドに探偵所の所長になってくれと言ってきた茶髪の少女フェーナがそう言う。


 彼女はレッドの顔を見上げて先ほどまでの気弱な言い方ではなく力強い言い方で言う。


「掘り返しで取り戻したレッド所長の記憶……私の考えではあれはとても危険な記憶です……記憶通りの事をするつもりならノースさんを殺す覚悟を持ってください」


 レッドは答える。

「うん……分かってる……()()をくれ」


 フェーナはレッドに鍵を渡す瞬間、彼の手を強く握って言う。

「汝にシラウスティ様の加護があらんことを…………そ、それじゃぁ……行って…らっしゃい?」


 フェーナから何かを受け取ったレッドはついに列の最前列に立つ。


「次……そこの少年門を通ってください」


 レッドが暗黒に体を完全に沈みきった所で、ようやく彼の戦いの幕が上がる。


 それすぐ後ろで眺めていたもう一つの暗黒が不敵に笑みを浮かべて言う。

「ホワイトはお前に任せるぜ……解剖」


 男はそう言って試験官も気づかぬうちに門を通る。

 

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