第10節:メスノオ陰デプラマイプラス
都市は大きな壁に囲まれ人工的な平和を謳歌している。
「ここがヴィサンツか~大きい都市だな~」
レッドが壁を見上げてそう言う。
ノースはレッドの手を引きながらテクテク歩いて行きそのまま門前に立った。
すると門番が手を突き出してノーストレッドを止めると面倒くさそうに言う。
「おいそこのガキ!てめぇみてえのは帰ってくれ!色んなとこからシーカーが集まりまくるもんだからここは今治安がわるくてな…………わりぃことは言わねぇから別の街で試験が終わるのを待ってくれ」
ノースは呆れ果てたように溜息を吐くと懐から白い紙を取り出す。
「全く……某はこういう者だ……入れてくれるな?」
門番はノースが突き出した紙を見て仰天すると焦って敬礼をして言う。
「こ、これは失礼しました!ノース・ホワイト殿!」
ノースは紙を懐にしまってレッドに言う。
「こっちだ……ちゃんとついてくるんだぞ」
テクテク………
2人は試験でお祭り騒ぎになっている街を歩きながら話す。
「ノースここってなんでこんなに道が広いんだ?」
ノースは答える。
「今歩いてる第一凱教区には裕福な奴らが大量に住んでいる………だから他の通りよりも建物から街灯まで、すべての格が他の地区と違うんだ…そうしないと富豪たちの機嫌を損ねるからな…要は媚売りの結果ここの道は広くなっている…この街の全ての道がこんなに広いと言うわけでは無いそれだけはおぼいておいた方が良いぞ……ここだ」
ノースが止まったのを見てレッドも同じように止まると、目の前には白と金を基調とした教会を思わせる建物があった。
よく見るとその奥には巨大な山が佇んでおり、レッドはここで初めてこの都市が山の周りにあったと知る。
ホワイトは時計を確認すると言う。
「よし…入るぞ」
建物に入ろうと金属で出来たドアノブに手をかけたノースをここで何かを思い出したレッドが止める。
「あれ?そういえばたこは?」
ノースは特に何も考えていなかったようで間抜けに言う。
「あっ」
「………」×2
何かを察してか、二人は何も言わなくなって、建物の中に入って行った。
ガチャ……
二人が背に合わない扉を全身で開けるとそこにはオークを基調とした造りの酒場と受付があった。
そこには甲冑を着た男、紳士のような男、蛮族の様な格好の男など……様々な国、地域の服がそこで混じりあっていて、建物の外装と内装を見比べるとまるで別世界の様に感じられてしまう。
レッドはなんだか心が躍り始めて自分がこれから何に巻き込まれるのかという事に対してとてつもない興味が湧いてきた。
ノースは特に何も言わずただ真っ直ぐ前だけを見つめている。
そんな彼らは人々の冷ややかな視線や陰口を通って受付にたどり着いた。
「ようこそ!今回は何用でしょうか?」
ノースは慣れたように横から椅子を持ってきて、そこに乗ると話始める。
「王選権獲得試験を受けたい、エントリーは某とこやつの二人で頼む」
ノースがそう言うと受け付けが申し訳なさそうに言う。
「失礼ですがご年齢は……」
ノースとレッドが同時に言う。
「12だ」「分かりません!」×2
受け付けはパソコンをカタカタ打つと二人の方を向いて言う。
「すみません……15歳以下の方は実力検証テストに合格しないといけないんです……年齢不詳の方も同様です……」
二人が受付と話をしていると広場の血気盛んな男どもが堪えていた笑いを大きく爆発させた。
「ぶぁはは!!!」×沢山
笑っていた男の一人が涙を拭きながら二人に近づいて来て言う。
「いやぁ……てめぇらやめとけよ!ガキ如きが背伸びしちゃだめでちゅよぉ?お前らが試験を受けて死ぬ前にこのウラック様が病院送りにしてやるぜぇ?ガハハハハガガガガガガ?!」
男が笑っている内にレッドが男の顎を思いっきり閉じる。
「ノース……実はずっと言いたかったけど言ってない事があって……」
ノースが不思議そうに顔を傾げて言う。
「なんだ?」
「実はノースに解毒してもらってからずっと変な感覚があるんだ……なんて言うか……まるで今まで忘れていた感覚とか記憶を取り戻したみたいな……なんかあともうちょいで完全に取り戻しきれるって感じの感覚がずっと……」
ノースは腕を組みながらよく分からないという表情をする。
「えっと……つまりは忘れてたことをいくつか思い出したって事……それでその一つが……」
男が目に見える程頭に血管を浮き上がらせる。
「おいおい……ガキ共を誰か助けてやれよ……」
ザワザワ……
人ごみの中にいた一人の女が人々の暴挙を見過ごせなくなり腰に携えた忍刀に手をかける。
男は激昂してレッドに殴り掛かる。
「このクソガキがぁ!!」
レッドはその拳をノールックで避けながら自分の首を傷つける。
プシャァ!ガシ!
するとレッドは首の傷から勢いよく1.5メートル程飛び出した血液を固体の様に繋がっている両手で掴んで引き抜く。
「この……よっと!」
【解剖戦術・血式摘解刃外戒態】
「て訳よ!」
少年は自分の首から引き抜いた血を2メートルほどの長さがあるメスに仕立て上げた。
その間僅か0.2秒ほどで目で捉えられた3人以外にはまるでレッドがどこからともなくいきなりデカいメスを取り出した様に見えたであろう。
更にメスはあくまでも戦闘用なのか、我々の知るメスとは少し形状が違う……飛行機で例えると普通のメスがセスナでレッドが取り出したメスは戦闘機だ。
男はそんな荒々しい医療器具を見て怖気づいたのか、攻撃を中断して後ろに下がる。
男は冷や汗を垂らし、男以外の者は目を見開いて驚いている。
レッドはメスもとい【解剖戦術・血式摘解刃外戒態】を肩に担いで男に一歩ずつ歩み寄ってゆく。
男は見栄を張ってか威勢よく言う。
「は!そんなもんデカすぎてここじゃ振り回せねぇだろうが!ガキ唯一のアドバンテージを自分から消すなんてぇよっぽど腕に自信があんだなぁ?」
レッドは顔色一つ変えず何気ない顔をしながら言う。
「俺は……神力って言うのを使って戦う……でもそれが何なのかなんて正直微塵も理解してない……でも理解1つで色んなものが結構良くなるって気づいたんだ……」
男は焦りと苛立ちに駆られて走り出し叫ぶ。
「ごちゃごちゃ何言ってんのかさっぱりわかんねぇんだよ糞がぁ!」
レッドはすれ違うようにメスで男の静脈を撫でてから、メスを持った両手でピースすると言う。
「え~と要は……俺は人体について人間よりも理解していることをさっき思い出した…だから基本的にどういう状況でどこを攻撃すれば相手を一撃で殺せるか……苦しめることが出来るか楽に殺すことが出来るか治療するのをめんどくさくできるか……そういう色んな事が瞬時に理解できるようになったんだ!…だからアドバンテージは1つ減って2つ増えてる……プラマイプラスって訳!ってことを言いたかったんだけど……」
ビシャビシャ!バタバタバタ!……ガク…
男は地面である程度もがいた後、ポックリと死んでしまった。
レッドは【解剖戦術・血式摘解刃外戒態】を自分の体に戻して言う。
「一応聞く時間はあげたけど………聞けてたかな?まぁ良っか!じゃぁ試験行こうぜ!ノース!」
その場にいる数人を除いた全員の体が死体のように固まって動かなくなる……なぜなら自分たちが絶対に試験に合格できないと今まさに目の前で知らしめられたからである。




