8俺と婚約するか?ですって!
学園に着くと私は食堂に向かった。
すでに朝からランチの準備をしてるらしく従業者はみんな忙しく働いている。
「あの、すみません」
「はい、何でしょう?」
声をかけるとすぐに近くにいた女性が応対してくれた。
「持ち込みをしたいのでこれを保冷庫に入れて欲しいんですが」
「申し訳ありませんが個人的なものはこちらでは預かれないんですが‥」
「そうですか。困ったわ。冷やしておかないと昼まで持つかしら‥」
「どうした?」
そこに現れたのはエディオ殿下だった。
「エディオ殿下。どうしてここに?」
「それはこっちのセリフだ。アマリエッタこそどうしたんだこんな所で」
今日も朝から彼の後ろには護衛も兼ねている同級生のジヒト・ボートンがいた。
いつものように黙って殿下の後ろで控えている。ご苦労様と言いたい。
「これを保冷庫で預かってほしかったんですが‥」
殿下に籠を見せる。
「なんだ?」
「お昼にみんなで食べようと思って」
「それなら俺専用の保冷庫があるから。君。王族専用のスペースにこれを」
エディオ殿下はそう言って私からさっと籠を取り上げるとさっきの従業者に渡した。
「はい、お預かりします」
彼女は素直に籠を受け取りキッチンに持って行ってくれた。
「お忙しい所ありがとうございます」私は慌ててお礼を言う。
「アマリエッタ。そんないいものがあるなら俺もランチ一緒に食べるからな」
「えっ?でも、殿下はゾラ様と一緒に食べるんじゃ?」
脳内で持って来たプリンが6個だったと思いこれってまずいんじゃぁと。
「ゾラは今日はいない。昨日言っただろう。今日は学園も休んでる。だから問題ないから。そうだ、久しぶりに丸いテーブルで食べよう。あいつらには声かけておくから」
殿下は嬉しそうに笑った。
「で、でも。殿下は婚約したんですよ。ゾラ様がいないからって私達と食事なんて‥」
「婚約はした。でもそれとこれは別だろう?それに婚約したのだって仕方がないからで。俺は‥いや、何でもない。みんなと食事するくらいいいだろう?ましてふたりきりでもないんだ」
エディオ殿下の眉が不機嫌に上がる。
ああ、これってこれ以上はまずいって合図だ。3年も殿下と付き合っていればそれくらい知っている。
「まあ、そうですけど」
「じゃ、昼に。アマリエッタの差し入れなんて初めてじゃないか?俺すごく楽しみなんだけど」
「そんなに期待しないで下さいよ。それに私達が幼なじみだからって気安く話しかけるのやめて下さいよ。私達はもう婚約したんですから」
「そんなの関係ないだろう?アマリエッタとは幼いころ一緒に過ごした仲じゃないか。俺だって婚約したんだ。それくらいの自覚は持って行動しているつもりだけど。それにそんな事に目くじらを立てるような婚約者なら俺は婚約を解消したっていいんだ。俺は何も悪いことはしていないんだからな。これからだって友達と話をするくらい遠慮する気はないからな」
「それはそうですけど‥周りに誤解されたくないんです」
「誤解する方がおかしいんだ。それともアマリエッタはヴィントの事が気になるのか?」
唇を尖らせて私を見る。
イラッとした時のエディオ殿下の癖だ。
「そんな訳!あんなつっけんどんな人。私だって戸惑ってるんですから。あんな人とどうやって付き合って行けばいいのか」
「クッ!」
殿下が握った手のひらで口を押え肩を震わす。
「もう、おかしくなんか。ローザンヌやリスティみたいに相思相愛じゃないんですよ。どうしていいか真剣に悩んでるんですから」
「無理なら俺と婚約するか?」
いつの間にか私よりかなり背が高くなった殿下が顔をかがめて私を覗き込んだ。
私と殿下がこんな親し気なのはエディオ殿下が6歳の頃ロータネク領の我が家にいたからだ。
エディオ殿下は幼いころは喘息がひどく何度も発作を起こし命の危機もあった。
王妃は公務もありエディオ殿下は乳母と一緒に空気のきれいな場所で育てられたらしい。
そして3歳になるころやっと落ち着いて王都に戻って来たと聞いた。
それからも風邪をひくと咳が治まらなかったりして今度はわが領地で静養をする事になった。
初めてエディオ殿下と会った時はすごく引っ込み思案で大人しい子だったけど、体調が良くなり私と同じ年という事もあって私たちは仲良くなった。
兄は年が離れていたせいで私も友達が出来てうれしかった。
それに母の心配ばかりで幼い私には息が詰まっていたのだろう。
私はすぐに一緒に遊ぶことに夢中になった。
一緒にピクニックに行ったりお母様の薬草を一緒に摘みに行ったり馬に乗せてもらったり遊具で遊んだりと。
そして半年が過ぎるころすっかり元気になったエディオ殿下は王都に帰る事になった。
エディオ殿下は「大きくなったらアマリエッタをお嫁さんにする。いいか。約束だ」
確かそんな事を言った。
私は確かこくんと頷いたと思う。
でも、それは無邪気な子供の戯れに過ぎないことくらいわかっている。
まあ、それでも私は別れがつらくてわんわん泣いたことをよく覚えている。
でも、それは幼いころの話であってすっかり大きくなった今とでは話が違う。
「はっ?殿下いくら何でもふざけすぎです!そんな事を言うならもう話もしませんよ」
私はマジギレた。
「はっ?冗談に決まってるだろ!ったく。俺は婚約してるんだぞ」
「だったらそんな事言うべきではありませんよ」
「だから、冗談だ。まったく。アマリエッタは真面目過ぎるんだ。もっとこうにっこり笑って‥」
殿下の指が私の頬をグイっと上げた。
「なっ、お前笑ってる方が可愛いぞ」
「か、可愛くなんか!で、殿下。こんなの失礼ですよ!」
「俺にそんな事言えるの国王と兄貴だけだから‥じゃな」
殿下はそう言うと行ってしまった。
「仲がいいんだな」
「えっ?」
振り返るとそこにはヴィントがいた。