3もう、何なのよ!
「なにか?」
ヴィントが眉を寄せて私を見た。
「いえ、何でもありません」
「さっきから何だ?言いたいことがあるなら言えよ」
「別に‥」
私はそれだけ言うと白身魚のソテーにフォークをいれた。さっと口に運ぶ。
ああ、美味しい。ここの料理っていつも美味しいわ。
ちらりと顔を上げるとタロイもいつの間にか座って楽しそうにリスティとおしゃべりをしていた。
そっととヴィントを盗み見る。彼の白身魚のソテーを口にほおばっている。
何よ私と同じ。まあ、普通メイン料理から食べるわよね。
そうそう、ポテトサラダも好きなの。
私は今度はポテトサラダを頬張る。
うん、おいしぃ~。
ヴィントも今度はポテトサラダを頬張った。
彼と目が合うが無理した。
私は次々に料理を平らげて行く。途中でパンもはさんで残りはプリンだけになった。
「なぁ」
いきなりヴィントから声を掛けられる。
「なにか?」
「これ」
彼がさっと私のトレイにプリンを置く。
「はっ?自分でトレイに入れたんでしょ。だったら食べればいいじゃない。私に押し付けないでよ!」
「そうか。嬉しそうにしたから好きなのかと思っただけだ」
さっと置かれたプリンを奪い取って席を立った。
「ちょっと、どうするつもり?そのプリン」
沸き上がった疑問のまま声が出た。
「いらないから捨てる」
まあ、一度トレイに入れたものをまた元に戻すのは出来ないだろう。だからって捨てなくてもいいじゃない。
すぐに帰るならロニオに持って帰ってやりたいけど‥
「捨てるなんて‥いらないなら私が食べるわよ」
一瞬ヴィントが笑った気がした。
でも、彼の顔はすぐに真顔になって「余計なことをして悪かったな」と言ってプリンを置いた。
「ええ、もうこんな事しないで」
「ああ、それと今度の週末は用が出来たからお茶会はまた今度にしてほしい」
そうだった。婚約が決まって両家で顔合わせがをした。
サルバート公爵は忙しくて時間が取れなくて彼だけが出席した。ちなみに彼のお母様は2年前に亡くなっている。
ほんと、みくびられてるわ。父も無理して領地から出て来たと言うのに。
まあ、最初からこの婚約が気に入らなかったってわかってたけど。
それでもこれから婚約者として最低限の付き合いは必要だと言うことで週末にふたりでお茶でもという話になっていた。
もちろん王都のタウンハウスでだ。
「ええ、色々お忙しいんでしょう?私の事は気にしていただかなくて結構よ。婚約者と言っても王家に勝手に決められた婚約。あなたも私なんか好きでもないんだろうし迷惑でしかないでしょう?だから最低限の付き合いで構わないわ」
悪かったわね。迷惑だったんでしょ。それなら最初から断ればいいのに!!
彼の顔が強張りものすごく機嫌が悪そうになった。
まあ、こんなことをはっきり言われるには誰でもいい気はしないだろう。
私としては言いにくいことをはっきり言ってあげて喜んでもらいたいくらいだけど。
「ああ、お互い勝手に決められた婚約だしな。アマリエッタの気持ちは分かった。これからは必要な時以外は誘わない。じゃ」
「ええ、もっと早く話をしておけばよかったわね。でも、あまり無理はしないでサルバート公爵令息様」
彼を敢えて家名で呼んだ。まあ、いつもヴィントと呼んでもいなかったが。
すっと顔を反らされてそのままヴィントは食堂から出て行った。
「アマリエッタ。いくら何でも言い過ぎよ」リスティが心配そうに言う。
「きっとあいつ落ち込んだぞ」タロイも。
「でも、本当の事よ。私達はあなた達みたいに相思相愛じゃないんだから」
「いや、でもあいつ喜んでたけどなぁ」
「それは‥ふりよ!うれしいふり。だってみんなが嬉しそうにしてるのに自分だけ嫌な顔できないじゃない。本当は私なんかと」
私はみんなが勘違いしていると言うが。
「もう、アマリエッタってば。いつまでも意地を張ってたらほんとにヴィント勘違いするわよ。ほら、追いかけて誤って来なさいよ。仲なおりしなきゃ。トレイは私が片付けておくから、さあ、行って」
ローザンヌが言う。
誰もがそうじゃないって。
もう、追いかけてどうすればいいのよ。
取りあえず席を立った。
「アマリエッタ。これ持って行って」
振り返るとリスティがプリンをふたつ私に手渡した。
「これを?」
「そうよ、一緒に食べなさいよ」
「でも‥」
「あなた達だけ仲たがいなんて許さないからね。さあ、早く仲直りしなさい」
ローザンヌったらお母さんみたい。
「どうしても?」
「そう、どうしてもよ。さあ」
私はもうどうにでもなれとヴィントの後を追いかけた。