34ずっと好きだった
すっかり気落ちした私が応接室の床に座り込んでいると「アマリエッタ!大丈夫か?」大きな声がしてヴィントが走り込んで来た。
私はビクリと身体を揺らす。
こんな姿を見られるなんて…いやいや、ヴィントは自身が狼になるんだもの。驚くこともないはず。
だけど‥やっぱりまだ好きな人にこんな姿を見られるなんて。
「ガウゥゥゥ(来ないでよ)」
「アマリエッタ‥いつ変身を?」
ヴィントがそばに寄って来る。
ロニオはその小さな体で私を抱きかかえるようにして「王女がぼくをころそうとしたんだ。お姉様はぼくをまもろうとしたんだ。お姉様につかづくな!」
「くぅぅぅ~ん~(ロニオかわいすぎ)」
「ロニオ心配ない。俺もアマリエッタと同じなんだ」
ヴィントはいきなりぐぐぐっと肩を怒らせるように力を込める。
ぼんっ!
ヴィントの身体が一瞬で狼に変身した。
「お、おおかみになった‥」
ロニオがつぶやく。
「ガル。くぅん(なっ、こわくないぞ)」
「ヴィント兄様もおなじなの?じゃ、お姉様をたすけれる?もとのお姉様にもどせる?」
「くんぅん(任せろ)」
ヴィント(狼)はくるりと踵を返すとどこかに行ってすぐに戻って来た。
口にはペパーミントの葉をくわえている。
すぐに私の顔にそれを近づける。でも、彼の顔はしかめたような顔だ。
私を心配してるんじゃないんだ。ロニオが頼んだから仕方なくなのね。
もやもやした感情が‥‥
でも、そんな気持ちが沸き上がる間もなく。
「グフッ。くしゅん!」
鼻がひくひくしてくしゃみが出た。
その途端!
身体が一回転したような感覚がした。
「おねえさま!」
「ロニオ‥あれ?私‥うそ、戻ったの?」
ヴィントが驚いた顔で。彼も人間の姿に戻っていて彼の腕の中に抱かれている。
「アマリエッタ。お、お前‥狼になれたのか?」
「なれたって?どういう意味?」
ヴィントを見上げる格好で尋ねる。
彼はもじもじしてどうしようかと悩んでいるみたいで。
「何か知ってるなら話してよ!」
ヴィントは一度大きく息を吸い込むと話を始めた。
「アマリエッタは幼いころ狼に変身したはずなんだ。なのにあれから一度も変化がなかった。だから、もう諦めていた。俺のことなんか覚えてないって‥」
「幼いころ‥」
「ああ、そうだ。俺はずっと、ずっとお前が忘れられなかった。あの時感じたんだ。お前は俺の半身だって‥だから婚約した時もどんなに嬉しかったか‥なのに俺はうまく気持ちを伝えられなくて‥体中がお前を欲していると言うのに‥お前はエディオ殿下と仲が良かったし‥だからお前は俺が嫌いなんだって‥それに俺はこんなだからもう諦めるしかないって‥」
私は彼の膝の上でぐっと体を起こす。
「あの時の子狼ってやっぱりヴィントなの?」
ヴィントの金色の瞳が揺らぐ。
「アマリエッタ。お前思い出したのか?あの森での出来事を?」
彼が光が差し込んだかのように満面の笑みを浮かべ私と顔を見合わせる。
もちろん腕の中に取り込まれたまま。
「ええ、ずっと夢だと思っていたのよ。でも、確かにあの時‥あれはあなただったの?」
「そうだ。うっかり森で変身してしまってうろついていたら俺と同じような匂いがして、そしたら赤毛のきれいな子狼が倒れていた。俺と同じ仲間がいるってすぐにわかった」
「だったらどうして教えてくれなかったのよ!あなたが教えてくれてたら‥「恐かったんだ。アマリエッタは覚えてなさそうだったし俺が狼になるって知ったら嫌われるんじゃないかって‥そんなことならこのまま黙って結婚する方がいいと思っていた」
ヴィントは照れ臭そうに頬を染める。
私はそんな彼の頬を両手で挟み込んで聞く。
「今も結婚したいって思ってる?」
「当たり前だろ!俺にはお前しかいない。もし、結婚出来ないなら一生独身でいようと思っていた。俺は諜報機関で働いているし危険な仕事だから公爵家を継ぐのはリビアンにするつもりだった」
「それって私が好きって事?」
「当然だ!好きに決まってる。ずっとずっとあの日会った時からアマリエッタに心を奪われたんだ。もう離さないからな。覚悟しろよ!」
ヴィントの両腕に抱き止められ私の両手は滑り落ちる。
そしてもう我慢できないと彼の唇が私の唇に重なった。
「父様。ヴィント兄様っておねえさまを愛してるんだね」
「ああ、ロニオ。お姉様も同じ気持ちなんだ」
「じゃ、幸せになれるね」
「ああ、こんな似合いのカップルはいないだろうからな」
「ぼくとリビアンも兄弟になるんだよね」
「ああ、そうだな。リビアンも家族になるぞ」
「良かった。ぼく、リビアンの事大好きになったんだ」
「ああ、良かったなロニオ」
「うん、父様」




