33私が狼になった?
脳内で過去の記憶を洗い出して行く。
あっ!
そう言えばあれはロニオくらいの年だった。
お母様の具合が悪く領地で静養していて屋敷のそばには森があった。
私はお母様の病気には、だみな草という薬草がいいと聞いていた。
それが森に生えていると使用人が話しているのを聞いてひとりで森に出かけたことがあった。
もちろんこっそり。
あの日は良く晴れていたと思う。でも、森で薬草を摘んで帰ろうとして帰り道が分からなくなった。
みんなには黙って出て来たし声を上げても誰にも届かないだろう。
心細くて恐くて‥
そしたらいきなり大きな雷鳴がして空に稲光が走った。
『きゃぁ~恐いよ。お母様助けて~』そんな事を何度も叫んだと思う。
身体中が震えて恐怖で痙攣が起きて‥それでひくひくなって気を失ったような。
気が付いたら真っ黒い子供の狼がいた。
「くぅぅぅん、くぅぅぅぅん」
「きゃふっ!(やめて)」
「きゃうぅぅぅん」
その狼は私の顔をぺちゃぺちゃ舐めて来て。
私を助けようとしてるの?
そっと上半身を起こしてその子狼を見つめる。
耳は垂れ下がり金色の瞳は心配そうに私を覗き込んでいる。
「くぅぅぅ~ん(心配してるの)」
「きゅぅぅん」
子狼はこくんと頷き尻尾をぶんぶんと振る。
「くぅん。くくぅぅん(森から出る道分かる?)」
「きゃう!」
まるで任せろって言ってるみたいに子狼は顔を上げた。
そして少し離れた所に散らばった、だみな草を加えるとそれを私の顔に近づけた。
プンと鼻を突く嫌な臭い。
「グフッ!げほっ‥‥もう、何するのよ!」
私は子狼を押した。
あれ私…さっきまで手に毛が生えてた気がしたけど‥まさか、気のせいだったんだわ。
よく見るといつもの自分の手があった。
子狼はすっと私の服をくわえた。
まるで付いてこいと言わんばかりにくいっと顔を振り上げる。
「くっぉぅん~」
「森から出してくれるの?」
子狼は先に走って行き私についてこいという仕草をした。
「あなたについて行けばいいのね?ありがとう狼さん」
私は急いで立ち上がり子狼について行く。
そして木々の隙間から森の出口が見えた。
私はうれしくてまっしぐらに光の差し込む方向に急いだ。
「すごいわ。森の出口が見えたよ狼さん。あなたのおかげよ」
振り返るとそこには誰もいなかった。
「あれ?狼さんどこ?もう、せっかくお礼しようと思ったのに‥」
「お嬢様~良かった。ご無事で‥」
倒れ込むように侍女のライラに抱きしめられた。
「ライラ。森で迷ったの。でも、狼さんがね。ここまで道案内してくれたのよ」
「まあ、お嬢様夢でも見られたのですね。もう、どんなに心配したか‥良かった。奥様が心配されています。さあ‥」
私の話は誰にも信じてもらえなかった。
そのうち私もあれは夢だったと思い込んで行ったと思う。
それでもあれから私はだみな草だけは苦手で絶対近づかないようになった。
私、あの時狼に変身したのかもしれない。
だってあの時私が話してたのは言葉じゃなくて獣の鳴き声だった。
あの時子狼が‥
そうだわ!だみな草の匂いで人間に戻ったんだわ。
だからあれからあんなにだみな草が嫌いになったんだわ。
じゃあ、私は古の血を引いているって事?
でも、この姿どうすれば元に戻るの?
ロニオが駆け寄って来て私の背中をそっと撫ぜてくれる。
「くぅん。くくぅぅん」(ロニオどうすればいいんだろう?)
「お姉様ぼくがたすけるから!」
「あ、アマリエッタが‥」見れば父は腰を抜かしていた。




