31ロニオに危機が?
そもそも古の獣人を祖にもっているローラレッタ国では、少なからず特別な力を持った人間が現れる事があった。
国はその力を持つものを重宝していた。
そのために何代にもわたり王族との婚姻を繰り返してきたわけだが、あまりの血縁関係の濃さが逆効果になっているのがここ最近の状況だった。
つまり、あまり期待してもそんなにうまく力を持つものが現れることはないと言う事だ。
それでも、この国では10歳になると子供が試験を受ける事になっていた。
だが、私はちょうどその時ハルオンにかかり試験に出向く事が出来なかった。
国としては曲がりなりにも手を尽くしていると言う程度のこの試験だったので受けれなければそのままでも構わないと言うのが一般的な考えだった。
そのため私は、力を持っているかどうかの判別試験を受けていなかった。
まあ、この年まで何の力もあるようにないそんな特別な力があると思ってもいないのだが。
だからはっきり言ってヴィントが古の獣人の血を引いている事を知って驚いた。
応接室から出ると父が心配そうな顔で私を見た。
マリー様からひどいことを言われ腹を立てて国王陛下においとまを申し出たがそれも仕方のない事だろう。
「アマリエッタ。気分はどうだ?」
「‥ええ、大丈夫よお父様。ほんと。平気だから‥」
「まあ、彼があんなになったところを見ればなぁ‥まあ、そう言うわけだからサルバート公爵令息との婚約はなかった事で。いいんだね?」
父も驚いた顔をして、それでもマリー様が言った事は受け入れるしかないだろうと思っているらしい。
「ええ、もちろんよ」
「アマリエッタならすぐに次の縁談が来るさ」
「そんなの分からないわよ。もしかしたらもう結婚しないかも」
「ばかな事を言うんじゃない!」
「だって、私が結婚すればロニオはどうするの?まだ5歳なのよ。学園を卒業するまで13年もあるのよ。私はロニオがいてくれればそれだけで充分なんだから」
「そんな事‥ロニオだってお前が自分の犠牲になったと分かればどう感じる?大好きな姉には幸せになってほしかったと思うんじゃないのか?」
「そうかもしれないけど‥まあ、そのうち考えるわ。お父様今はまだ早いわ」
「ああ、わかっている。だが、お前も18歳。いつまでもというわけには行かないんだからな」
「わかってるわ」
私と父はそんな話をしながら馬車に乗った。
「ひさしぶりの王都だ。アマリエッタ。気分転換にお茶でも飲まないか」
「ええ、そうねお父様。そうだ。人気のスイーツの店があるの。ロニオが好きなシュークリームが美味しいのよ。帰りに買って帰りましょうよ」
「ああ、そうだな。ついでにロニオが欲しいと言っていた模造剣も買ってやるか」
「ええ、ロニオすごく喜ぶわ」
私達はお茶をしてシュークリームを買い、おもちゃも買ってタウンハウスに帰って来た。
もう夕方近くになっていた。
「お父様すっかり遅くなったわ。きっとロニオが遅いよって怒ってるわね。うふっ。でも、このお土産を見たら大喜びするはずよ」
「ああ、アマリエッタお前は大丈夫か?」
「もちろんよ。ロニオ帰ったわよ~」
私は上機嫌で馬車を下りるとロニオを呼んだ。
そこに執事のダートが声を張り上げて走って来る。
「旦那様。お嬢様。ロニオ坊ちゃまが~」
血相を変えて走って来るダートに驚く。
「ダート落ち着きなさい。ロニオがどうしたんだ?」
父がダートに走り寄る。
「は、はい、お客様が見えたんです。バーラ国の王女と名乗る方で‥ゾラ様とおっしゃいまして。お嬢様とは御友人だとかで‥お留守と伝えたのですが待たせて欲しいとおっしゃって、それで客間にお通ししました。何しろその時は隣国の王女とお聞きしてわたくしも無礼があってはと思ったのです。ロニオお坊ちゃまにお土産があるからと呼ばれて‥」
ダートは相当動揺しているらしくあたふたと説明する。
「それで?」
「ロニオ坊ちゃまを人質にしてお嬢様をつれて来いと‥」
「ロニオを人質ですって?どういう事!ダート。ロニオは無事なの?」
私はダートのシャツを掴んで身体を揺する。
「あの女は坊ちゃまの首にナイフを突きつけて‥」
「ナイフですって?あの女、私のロニオに何をするつもり!?」
私の身体中の血が沸き立ち怒りで脳内が真っ赤になる。
瞳はかっと見開き沸々と怒りで血管がプチプチと音を立てて引き裂かれるような感覚になって行く。
「許さない!」
その瞬間!
私は走り出していた。




