2誤解だってば
ローザンヌ。リスティと一緒に食堂に向かう。
3年生になるとテラス席や個室も使えるようになるらしい。
まあ、私達は王子の婚約者候補だったから、1年生の時からある意味優遇されたたけど。
ほとんど7人で丸いテーブルを囲んでの昼食が多かった。
学園が終われば3人とも王子妃教育のカリキュラムがあってさらに勉強があった。
今思えばほんとよく頑張ったよね。
「ねえ、リスティ。あなたタロイと一緒に座るでしょ?」
ローザンヌがリスティに聞いた。
「もちろんよ。だってやっと正式に婚約者になったのよ。今までずっと好きだったのにずっとこの気持ちを押し込んで来たんだから、もう我慢なんかしないわよ」
リスティは嬉しそうにそう話す。
「よね。私もアントールと一緒に座るわ。アマリエッタもそうしなさいよ」
「ちょっと、どうして?今までずっとみんなで丸いテーブルに座ってたじゃない!」
私は焦った。あの男とふたりで‥食事がまずくなりそう。
「はっ?何言ってんのよアマリエッタ。確かに殿下はあなたに言い寄ってたけど、婚約がはっきり決まったのよ。エディオ殿下はゾラ様と一緒に決まってるじゃない。今頃きっと個室でふたり仲良く‥」
「別に殿下のことなんか気にしてないわよ。私はヴィントとふたりで食事が無理だけ」
「またぁ、アマリエッタってヴィントの事好きなんでしょ?いいの。わかってるから。そんなに照れなくても」
はッ?どうして。いつ私がそんなそぶりをした?
「なっ、訳ないじゃない!いつ私が彼を好きだと?全然好みじゃないし、むしろ嫌ってるんだけど」
「そんなぁ。いつも彼の前ではつんけんしてたじゃない。それって照れ臭いからでしょ?あなたと何年付き合ってると思ってるのよ。アマリエッタが嫌そうにするのはほんとは嫌じゃないってことじゃない!」
ローザンヌは私の腕をポンと叩いた。
「違う。ほんとに苦手だからだって!まじ、あんな奴の事なんか好きじゃないから!」
「もう、照れちゃって。そんなとこ可愛いけど。あんまり言い過ぎると彼誤解するかもよ。やっと婚約出来たんだからもう素直になった方がいいわよ。あ~お腹空いたわ」
「そんなぁ。誤解だってば!」
「まだ言うの?いいから急ぎましょう。アントールが待ってるかも」
ローザンヌとリスティが先に行く。
もう、ふたりともとんだ誤解してるわ。
まあ、ふたりは好きな相手と婚約出来て今はまさにばら色なんでしょうけど‥
食堂に着くと早速トレイを持って並んでいる食材をお皿に入れて行く。
ここの食堂はメイン料理とサラダ、そしてデザートをそれぞれが自由に取っていいのでみんなすぐにトレイを取って料理を取って行く。
そして席に着くのがいつものパターンだった。
私はローザンヌとリスティの後に並んで料理をトレイに入れて行く。
今日のメイン料理は白身魚のバターソテーとチキンの香草焼き。
サラダはポテトサラダとフルーツと野菜ミックス。
デザートはプリンとチーズケーキ。
私はプリンをトレイに入れながらロニオの好物だと思いくすりと笑った。
「なにがおかしい」
私は驚いて振り返るとそこにはヴィント・サルバートがいた。
いつものように漆黒の髪はきちんと整えられ金色の瞳からは何も読み取れない。
面白いと思ったのか軽蔑したのか顔色一つ変わらない。
びっくりしたしそんなところを見られて恥ずかしい気持ちもあった私はついじろりと彼を睨むようにして言った。
「いつからそこに?」
「はっ?ここはみんなの食堂だ。君の後ろに並んでいけないなどと言われたくないが」
「そんなつもりでは‥」
こんな人に何を言っても無駄だ。でも、素直に謝りたくもない。
それだけ言うと私はローザンヌ達の後を追った。
「ローザンヌこっち」
不意に声がしてそっちを見るとアントールがすでに席を取っていた。
ふたりはアントールが座っているテラスの6人掛けのテーブル席に。
もう、アントールって結構まめなのよね。
学園では例え婚約者といえあまり近付く事は良いと思われていない。
なので教室の移動や食堂に向かうときも婚約者と一緒に何てことはほとんどの生徒がしない。
だから私たちはいつも3人で一緒に行動するんだけど。
でも、昼食はふたりきりになる事もないのでそれなりに婚約者と一緒にいれる。
ってわけでいつもこうやってアントールが先に席を確保してるってわけ。
まったく、ローザンヌと一緒に食事をしたいがためにここまでする彼が羨ましい
ううん、私も婚約者がヴィントじゃなかったら‥
そんな事を考えてもしょうがないじゃない。
決まったものはどうしようも出来ないんだから。
でも、良かったじゃない。ふたりだけじゃないんだもの。
私はほっと息を吐いた。
でも、6人掛けと言うことは‥
「ローザンヌは俺の前。隣はタロイが来るからリスティだ。その隣はヴィントとアマリエッタだ」
どうして勝手に決めるのよ。私はあいつとなんか‥
そう思っているうちにアントールがヴィントを呼び寄せた。
「ヴィントこっちだ」
「ああ、悪い。席取ってくれてたのか」
ヴィントは礼を言うとそこに座った。
「アマリエッタも座れよ。ったく。なぁ。エディオ殿下だけ特別だなんてするいよな。俺達と一緒に座ればいいのになぁ」
「アントールったら、ゾラ様はふたりきりになりたいのよ。邪魔しちゃ悪いじゃない」
「それを言うなら俺達だって。だろ?」
「もう、アントールったら。週末にはデートじゃない」
ローザンヌは真っ赤になって言う。
「だったな。それにこうやって一緒にランチも出来るんだしな」
仲のおよろしい事でと、ふたりの会話と聞きながら私は席に座る。
すでに目の前には苦虫をかみつぶしたような顔のヴィントがいる。
トレイには私と同じ白身魚のソテーとポテトサラダ。それにプリンが乗っている。
こいつもプリン好きなの?
私はまたヴィントを睨んでいた。