25こんな事になるなんて
私は殿下に手を貸してもらって立ち上がった。
「おい、血が出てるじゃないか!まったくあいつ‥」
殿下はその場にしゃがみ込んで私の顔を覗き込む。
頬がヒリヒリして私はそこに指先を当てた。
「ばか!触るんじゃない。黴菌が入ったらどうする?」
「殿下‥大丈夫ですわ。こんな傷心配いりません」
私は彼を安心させようと立ち上がる。
そして一度ドレスの皺を撫ぜつけるとすっと背筋を伸ばした。
もう、大丈夫だから離れて欲しいと合図したつもり。
だって距離が近いからゾラ様が嫉妬するんだもの。
正直もう、放っておいて欲しい。
「いや、ゾラが突き飛ばしたんだ。そう言うわけにいくもんか。保健室で手当てしてもらおう」
そう言うが早いか私は殿下に抱き上げられた。
「ちょ、殿下。歩けますから」
「もしものことがあってからでは遅い。いいからアマリエッタ腕を首に回して。その傷も後が残ったらどうする?わかったな」
強引だが仕方がないような‥
「‥はっ、い‥」
周りの生徒が廊下の端によけて行く。さすが王族。
私は顔をうつ伏せたままエディオ殿下のなすがままにされる。
やっと保健室に入ってそのままベッドに寝かされた。
殿下が保健室の先生に事のいきさつを説明して先生が私の声をかけた。
そりゃ殿下が直々に連れて来たんだもの。
もう、こんな事になるなんて!
「頬以外に頭とか打ってないですか?」
「はい、尻もちをついただけです」
「どこか痛いところはありますか?」
「まあ、頬とお尻が少し‥」
「腰や脚はどうです?」
「今のところは大丈夫そうです」
どうやら先生は他に打ち身とかがないかを確かめているらしい。先生は女性で優しく丁寧に聞いて来る。
殿下はそれをじっと見ながら言葉の一語一句に耳を澄ましている。
はぁぁ~こんな大ごとになるなんて!すごく恥ずかしいんだけど。
もう、いいから教室に帰らせて欲しい。
とにかく頬の傷を消毒されて傷薬を塗られガーゼを当てられた。
もう、こんな大げさにしなくてもいいのに‥
「先生。頬の傷は後が残る心配はないんですか?」
「はい、きっと傷は残らないと思います。だた、打ち身の方は今は大丈夫でも後で痛みが出て来るかも知れませんから、今日はここで休んで様子を見ましょう」
「わかりました。アマリエッタ聞いただろう?今日はここで大人しくしてるんだぞ」
これくらい何でもないのに。ロニオを相手にしてたらこんな事日常茶飯事よ。もう、こんな大げさに‥殿下のせいよ!
と言いたかったが「わかりました」とだけ言った。
殿下は戸惑うことなく私の手を取った。
「俺のせいですまない。アマリエッタにこんな事をするとは思いもしなかった」
心配そうな彼の紺碧の瞳に見つめられて思わず胸が温かくなる。
やっぱり心配してくれる人がそばにいるっていいなって思う。
「もう、殿下ったら大げさですから。私いつもロニオを相手にしてるからこんなの平気ですよ」
「そういう問題じゃないだろう?俺の婚約者が暴力をふるったんだ。頬まで傷つけた‥本当にすまない。‥‥俺はアマリエッタを特別に思っている。ゾラとは政略で婚約することになった。でも、本当は‥」
殿下はすっと腰を落とし床に跪く。
もどかし気に私を見つめる瞳には熱がこもって行く。
も、もしかしてエディオ殿下は私が好きなの?
冗談よね?ううん、私、困るから、だってゾラ様との婚姻は政略で覆されないわけで‥って言うことはもし彼が私を求めれば私は彼の妾って事になるのでは?
彼は王太子ではないので側妃は娶れない。妻とは別の女性となると妾としてという事になる。
脳内は錯乱状態になる。
「で、殿下!私少し気分が‥今日はここで休ませて頂きます。私もう休みたいので」
殿下がハッとした顔で私を見つめる。
「そ、そうだな。アマリエッタゆっくり休んでくれ。昼に様子を見に来る。では、先生よろしくお願いします」
それから私は帰るまで保健室で過ごした。
ローザンヌやリスティが様子を見に来たり、殿下は昼にランチを持って来てくれた。
その時は他にもアントール達がいてふたりきりにはならなかった。
まあ、私はかいがいしくお世話をされてたまにはこんな時間もいいかもと思ったけど。
殿下はその後告白する気配もなくて私はほっとした。
まあ、よく考えれば私は婚約しているんだし‥あっ、その婚約も危うかったんだ。
はぁ、困ったなぁ。




