15お互い様
翌週、気持ちを切り替えて学園に行った。
ヴィントはみんなを気遣って席を立ったんだから、きちんとプリンの事ありがとうと言うつもりだった。
あれで何となく雰囲気が悪くなったことは確かだから。
それに気持ちだけどクッキーを作って来た。
ロニオと一緒に作ったクッキーは動物の形をしていたのでヴィントの弟にも食べてもらえればとも思っていた。
教室に入る。
「おはようアマリエッタ」すぐにローザンヌが声をかけて来た。
「おはようローザンヌ。週末はどうだった?アントールとデートだったんでしょう?」
ローザンヌの機嫌は頗る良さそうだ。
「ええ、とっても楽しかったわ。アントールと一緒に劇場に行ってその後‥ほらこれ見て」
ローザンヌがネックレスを見せて来る。
彼女の瞳の色と同じターコイズブルーのきれいなネックレスだ。アントールとも同じ色だし。
「素敵ね」
いいわよね。きれいな碧色の瞳なんだもの。私なんか銀色だから‥ヴィントは金色で。宝石には一生縁がない気がする。
「おはようローザンヌ。アマリエッタ」
そこにリスティが来た。
「「おはようリスティ「」」
「リスティは週末どうだった?」ローザンヌが聞く。
「ええ、タロイが剣術大会の試合で‥」
「それで?」私。
「もちろん優勝したわよ。これで騎士隊合格はバッチリよ」
「そうよね。タロイもお父様が騎士隊長だから結構プレッシャーあったでしょうけど、やっぱりすごいはね」ローザンヌ。
「「それでアマリエッタはどうだったの?」」
「どうって‥エディオ殿下にロニオと弟のピューリ殿下を遊ばせようって言われて王宮に行ったの」私は仕方なく本当の事を話す。
「まさか‥行ったの王宮に?」ローザンヌが顔をしかめる。
「だって断れるわけがないじゃない。相手は殿下なんだし」
「それでヴィントとは?昼食の時気まずかったじゃない?」リスティまで?
「わかってるわよ。あの後話をしようと思ったらシルフィ様が彼に纏わりついてて」
「もう!またなの?あの人ちょっと叔母が王妃だからって偉そうなのよ!」ローザンヌが怒りをあらわにする。
「そうよ。ネクス伯爵家は今回婚約者候補にはなれないから悔しいのよ。だからってヴィントを狙ってるわけ?もう、アマリエッタと婚約してるのよ!」リスティも腹立たしいとばかりに声を荒げた。
「ふたりともありがとう。でも、ヴィントとはちゃんと話はしてるのよ。お互いを知り合おうって」
「それで?ヴィントから何か言って来た?」ローザンヌが聞く。
「ううん。まあ、先週なんだかんだとあったじゃない。だから今日こそはと思ってクッキーを焼いて来たの。彼の弟もロニオと同じ年で喜ぶかなって思ったし」
「アマリエッタすごいわ。ヴィントきっと泣いて喜ぶんじゃない。プリンはちょっと可哀想だったものね」
私達はひとしきり週末の出来事を話し終わったところにヴィントが入って来た。
「「「おはようヴィント!」」」
「ああ、おはよう」
「じゃあ、私たち席に着くから」ふたりはそわそわと離れて行く。
私は思い切ってヴィントに話しかけようとしたら彼が先に話しかけて来た。
「週末は殿下の所に?」
「ええ、仕方なくね。そうだ。弟さんは元気になった?あの、これ‥「まあちょうど良かったよ。週末はシルフィが尋ねて来て弟を遊んでくれたから」
「えっ?‥シルフィが貴方の家に来たの?」
私は素っ頓狂は声を出した。驚いたわよ。
一瞬彼が躊躇したかに見えたがすぐに平生を装った。気がした。
まあ、サルバート公爵家の祖母は元王女だからシルフィとは縁せきになるんだろうけど。だけどよ!
先週あんな場面を見せられて心は穏やかでいられるはずがなかった。
「誤解しないでくれ。彼女とは家族ぐるみの付き合いなんだ」
今にもカバンから袋を取り出して渡そうとしていたクッキーをぐしゃぐしゃに踏みつぶしたくなった。
「そ、そうなの。良かったじゃない。私もピューリ殿下とロニオがすっかり仲良くなってすごく楽しかったわ」
「そうか。じゃあ、お互い様って事だな。あの、それで‥どうだろう?今度の週末、家に来ないか?リビアンも君の弟に会いたいって言ってるんだ。お互い母親がいないから俺達が結婚すればふたりとも可愛い弟になるんだし‥」
「ええ、そうね。家族になるんですもの。ねぇ」
顔は引き攣っていたかもしれない。
私はヴィントにほんとにそんな気があるのかと不安になっていた。
もしかしてシルフィを愛していて私は名ばかりの妻になるとかじゃないわよね?
もしそうなったとしてもリビアンは私の弟になる訳で‥
また胸の奥がもやもやした。
その週の昼食もいつものように6人で一緒に取ったがヴィントとの距離はほとんど縮まらなかった。
昼食後。ローザンヌ達は婚約者と先に席を立った。
きっと私とヴィントをふたりきりにしようとしているのだろう。
でも、彼は食事を終えると何か言いたそうにしているが、私からは話をしないからかすごすごと何も言わずに席を立って行った。
きっといつもの中庭に行くのだろう。
私もヴィントに近づくのもためらわれた。
だって避けられてるみたいなんだもの。
やっぱり、この婚約無理なのかも‥




