13王宮に遊びに行く2
「エディオお兄様!」
王族の色とされている金色の髪に紺碧の瞳。エディオ殿下によく似た男の子が入って来た。
言い忘れていたがエディオ殿下も鍛えているのか背も高いししっかり筋肉も付いたガタイのいい男性だ。
その手には聞いていた子犬が抱かれている。
「クゥ~ン」真っ白い子犬が可愛い声で鳴いた。
ロニオがその犬に釘付けになる。
「おお、ピューリ。ちょうど良いところに来たな」
「はい、今日はお友達と遊べると聞いて楽しみにしておりました」
ピューリ殿下は礼儀正しくぺこりとお辞儀をする。
「ああ、紹介しよう。こちらはアマリエッタ・ロータネク伯爵嬢。俺の学園の同級生。そして隣にいるのがアマリエッタ嬢の弟のロニオ・ロータネク伯爵令息だ」
私とロニオは立ちあがって挨拶をする。
「ピューリ殿下。お会いできて光栄です。アマリエッタ・ロータネクと申します。これは弟のロニオ・ロータネクです。今日はお招きありがとうございます」
「王国の若き太陽。ピューリ殿下にご挨拶申し上げます。ロニオ・ロータネクです」
「ピューリ・ローラレッタと言います。今日は楽しみにしていました。どうぞよろしく」
「ピューリ殿下?その子犬」
ロニオは我慢できなかったらしく子犬をじっと見ている。
「ああ、可愛いでしょ?抱っこしたい?」
ピューリ殿下が子犬を差し出す。が。
「うん!」
「いけません。ロニオ、殿下に失礼よ」
「構わないぞ。ピューリ、ロニオに抱かせてあげて。ロニオそこに座ったままで」
ロニオは立ちあがっていたがまた座る。
ピューリ殿下がそっと子犬をロニオに手渡す。小さいと言っても相手は子犬じっとはしていなくて「きゃん!」と鳴いた。
ロニオが差し出していた手を引っ込めるがピューリ殿下が構わず子犬をロニオに抱っこさせてくれた。
膝の上に乗せられた子犬を嬉しそうに見るロニオ。
連れてきてよかったぁ。
「柔らかいね。お姉様。ほら、すごく温かいよ」
「ほんとだ。柔らかいね。ふわふわした毛が可愛いわ。ピューリ殿下。この子の名前は?」
「ルクだよ」
「ルク?ですか‥」
「うん、ミルクが好きだから、それで」
「そうなんだ。ルクか。この子男の子?」ロニオははしゃいで聞く。
「そうだよ。男の子。よくわかったね」
「だってルクってかっこいいもん」
「ロニオもそう思う?だよね。それなのにみんなおかしい言うんだ。良かった僕と同じ考えで。ロニオ。今日は何して遊ぶ?」
子犬のおかげかふたりはすっかり打ち解けていた。
殿下もそんな様子を楽しそうに見ている。
「ルクは後で散歩でもさせような。それよりピューリこれを見ろ」
殿下が私の持って来た騎士服をピューリ殿下に見せる。
「なんですか?これは騎士の服では?」
ピューリ殿下の瞳が輝く。
「ああ、これを着れば本物の騎士みたいになれるぞ」
「うわぁすごい。兄様?」
「着てみたいか?まずアマリエッタに礼を言わなくちゃな。これを作って来てくれたんだぞ」
「すごい。アマリエッタありがとう。僕が騎士大好きな事知ってたの?」
ピューリ殿下は破顔した。
嬉しそうに早速ベストを着てソードベルトも腰に巻くとマントを羽織った。
「ロニオ。一緒に僕の部屋に行こう。ルクも来い!」
ロニオも遅れながらベストを着てソードベルトを腰に巻きマントを羽織る。
「はい、殿下!」
「僕たちもう友達だろう?ピューリって呼んでよ」
「殿下それは‥」
私は慌てて止めるがエディオ殿下が構わないと言ってロニオを安心させた。
「だって、気分でないだろう?なぁピューリ?」
「そうだよ。ロニオ。これから部屋にある木馬に乗って騎士ごっこをしよう」
「うん、ピューリ行こう」
ふたりははしゃぎながら部屋を出て行く。
私とエディオ殿下や護衛達も後を追ってピューリ殿下の部屋に向かう。
ピューリ殿下の部屋には木馬や模造剣があり使用人にしまってあった木馬をもう一つ持って来させるとふたりは木馬に乗って剣を振り回す。
ルクの事などすっかり忘れてしまってふたりは夢中になって遊ぶ。
「ロニオ。僕は右から敵を倒す!」
「わかったピューリ。僕は後ろから敵の背後をつく!」
すでにふたりの頭には闘いのシナリオが描かれているらしい。
エディオ殿下が背後から敵になってふたりに襲い掛かる。
護衛達も一緒に駆り出され木馬から下りたふたりは所狭しと剣を振り回し、そうやって闘いごっこを楽しんだ。
「よぉし!そろそろ喉が渇かないか?」
さすがエディオ殿下。いや、息が上がってない?子供と遊ぶのって結構体力いるからね。
今日の私はいつの間にか捕らえられたお姫様役になっていてふたりの騎士に助け出されるって設定だったのでほとんど動いていなかった。
使用人に飲み物を頼む。
ピューリ殿下とロニオはすっかり仲良しになって今度はピューリ殿下が虫のコレクションを見せている。
私はそんな二人のそばで一緒に虫の標本を見ていると「そう言えばアマリエッタと子供の頃トンボを追いかけたな」殿下が懐かしそうに言う。
「ええ、あの時は滅多にいない大きなトンボに出くわして走って追いかけて‥でも、結局逃げられましたよね。あれはほんとに惜しかった」
「トンボ?」
「そうだ。すごく大きかった。翠色で目なんかこんなに大きくてな身体は黒い縞模様でソードみたいなんだ」
ピューリ殿下が走って本棚から図鑑を持って来る。
「どれどれ?教えて」
エディオ殿下と私は仲良く並んでしゃがみ込み図鑑を見る。
「これかしら?」
「ああ、これだ。名前は?ジャイアントトンボ?」
「これ?すごいね」ピューリ殿下が絵を見て驚く。
「ああ、これなら僕も見た事ある。この前領地に帰った時いたよ」ロニオは何でもないようにそう話した。
「えっ?ロニオは見た事あるの?いいな。僕も行きたい。エディオ兄様今度一緒に行こうよ。だってアマリエッタと友達なんでしょ?」
「ああ、いいな。ピューリ今度トンボを探しに行こうか?その代わりいつになるかは約束できないぞ」
「わかってるよ。王子は勝手なふるまいは出来ないんでしょ」
ピューリ殿下が口をとがらせてそう言う仕草はエディオ殿下にそっくりだ。
そこに飲み物が運ばれてみんなで一緒にお茶や果実水を飲んだ。
その後で庭に出てルクと一緒に遊んだ。
楽しい時間が過ぎて行った。




