11こんなつもりではなかったのに
殿下の顔がむすっとなる。
「ジヒト。お前固い事言うな。これはアマリエッタが作ったんだぞ。いいに決まってるだろ!」
「いえ、殿下。そんなのは理由になりません。学園の食事だって調理や盛り付けにきちんと見張りが立って万が一がないように気を配られているんですよ。それなのに毒が入っていたなんて事があったらどうするんです?」
「そうか。ジヒトがそんなに言うなら‥アマリエッタ。お前がこれを食べてればいい」
殿下は自分が取ろうとしていた皿を私の方に押し出した。
ジヒト様が言うことはもっともだった。私も王子妃教育を受けたので王族の食の安全管理については散々言われて来た。
だから最初から殿下は入る予定に入れていなかったんだし、今朝殿下と鉢合わせたからこんな話になっただけなんだけで。
私が拒否すると余計な疑いを招く事はわかっている。だけど、これを私が食べるとプリンが一つ足りなくなるわけで‥ああ、もうどうすればいいの?
その時ヴィントが口を開いた。
「アマリエッタ。俺はもう食事を済ませたから先に行く。プリンはみんなで食べてくれ。じゃ」
「あっ、でも。ヴィント様‥」
「いいから気にするな」
私は慌てたが殿下は自分のために家臣が何かを譲ることを当たり前のように受け止めたらしく。
「アマリエッタ気にするな。あいつは昨日アマリエッタにプリン貰ってたじゃないか。さあ、これで数はあう。アマリエッタもう遠慮しなくていいぞ」
殿下には目の前のプリンを食べる事しか頭にないのか?
そう言うところやっぱり王子なのよね。
態度でかっ!まあ、いいんだけど。それが王族って言うものだし。
私は脳内で色々なもやもやを咀嚼してかみ砕いた。
「わかりました。ジヒト様のおっしゃる通りですね。殿下の口に入るものですから‥では、私が先にいただきます」
目の前の皿を取るとプリンをひとさじ梳くって口に入れる。
とろ~と蕩ける感触が口いっぱいに広がる。
うっ!うっ!幸せ。やっぱり美味しい。やっと、やっとものすごく美味しく出来たわ。
私はひとり悶絶しながらプリンを名残惜しく呑み込んだ。
「ジヒト様。これで満足です?殿下。毒なんか入ってませんからご安心ください」
「そんな事最初から分かってる。でも、アマリエッタが困る事になったらと思っただけだ。さあ、みんな頂こう」
殿下は別の皿のプリンを取るとその黄金色の塊をひとさじ口に入れた。
「う、うまい!なんだ?これは王宮のコックでもここまでの味は出せないんじゃないか?アマリエッタ。お前すごいな」
殿下は幸せそうな頬笑みを浮かべるとまたひとさじプリンを口に運ぶ。
ローザンヌやリスティたちもこれ以上何か言うべきではないと分かっているので殿下が最初の一口を食べると続いてプリンを口に入れた。
「なにこれ?凄い美味しい」ローザンヌが。
「やだぁ、これ、とっろとっろじゃない」リスティが。
「まじ、やべぇじゃないか」アントールが。
「ああ、これはほんとにうまい」タロイが。
「アマリエッタ、今度王宮に来たらプリンを作ってくれ。こんなうまいプリン、ピューリにも食べさせてやりたいからな」
殿下は嬉しそうにそう言ったがジヒト様は肝を冷やしたような顔をしている。
「殿下。それは無理です。王宮で私が調理をするなんて出来るはずがありませんよ」
殿下もちらりとジヒト様の顔を伺いどうやら自分が無謀なことを言ったと理解したらしい。
「そうか‥そうだな。無理を言ったすまん」
「いえ、わかって頂ければ、その代わりまたプリン作って来ます。今度はゾラ様の分も一緒に」
「ゾラの分か‥はぁ‥おまえらと食べるからうまいんだが‥」
殿下はぼそりとそう言った。すぐ隣の席のタロイに聞こえたらしい。
「殿下。それはゾラ様に失礼じゃないですか!」
「ったく。婚約者って言うのはめんどくさいもんだな。これなら婚約者が決まる前の方が良かった」
「「「「「「殿下!!」」」」」」
エディオ殿下はみんなから睨まれた。
そしてみんなは食堂を後にした。
それにしてもヴィントに悪い事したわ。
こんなつもりじゃなかったのに‥なぜか私はヴィントの事が気になっていた。




