表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫の護衛は楽じゃない  作者: しけもく
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/110

第43話

 白凪学園のダンジョン実習は、毎年学年ごとに行われる。

 だが希望者のみというスタンスもあってか、その参加者は多くない。


 そもそも生徒の大半が、今まで蝶よ花よと育てられてきた温室育ちのお嬢様ばかりなのだ。現場を自身の目で見ておくという事の重要性が、今ひとつピンとこない。将来の為になると分かっていても、まだまだ自分には関係がないと考えてしまう。要するに、有り体に言って世間知らずなのだ。逆を言えば、今この実習に参加しているお嬢様方は、しっかりと先のことを見据えていると言えるだろう。つまりここには一部を除き、将来有望な経営者の卵――何名かは既に経営者として活躍している者もいたが――ばかりが集まっているということになる。


 そんな少数精鋭のお嬢様方達は、現在ダンジョン入口へと集まっていた。

 眼の前に聳える大きく重厚な扉は、大男が数十人で体当りしてもビクともしないであろう。扉に施された細やかな装飾が、しかし何故だか異質なものに見える。眼の前にあるのはただの扉であるというのに、まるで今にも口を開き、そのまま全てを吸い込んでしまいそうな――――そんな感覚だった。

 

 平和な日常の中に切り取られた、今までの常識が通用しない世界。ダンジョンとはある意味、異世界のようなものだ。

 参加者達の感じた異質な気配は、彼女らの抱える不安や緊張といったものが、形を変えて表れたものなのかもしれない。


 「全員揃っていますね。それでは早速行きましょうか。探索者の皆さん、本日はよろしくお願いいたします」

 

 八神教諭はそう言うと、本日の()()()を務める探索者パーティへと一礼する。

 今回護衛として同行するのは、腕のたつ中級パーティとして知られている『花車騎士(ガーベラ・ナイツ)』の五人である。


 『花車騎士(ガーベラ・ナイツ)』はギルド『黄金郷(エルドラド)』に所属する、女性のみで構成されたパーティだ。中級とはいうものの、それは競争の激しい九奈白市内での話に過ぎない。メンバーの殆どが五桁、ないし六桁であり、二名だけだが四桁もいる。少し地方に行けばたちまちトップの仲間入りをするであろう、非常に有力なパーティであった。そして何より、()()の身内でもある。


「彼女たちの腕は私が保証致します。どうぞ皆さん、大船に乗ったつもりでのんびりと見学してくださいまし」


 何故か得意げな顔をして、妙に腹立たしい声色でシエラが言う。

 そう、『黄金郷(エルドラド)』は国宝院家が経営するギルドだ。つまりは完全な身内贔屓によるゴリ押し推薦である。


 とはいえ、今回の護衛にうってつけであることは間違いない。

 白凪学園は女学園である為、出来れば護衛につくパーティは同性の探索者であったほうがいい。事実、この場にはルーカス以外に男性が居なかった。

 当初の意気込みはどこへやら。彼が先程から微妙に居心地悪そうにしているのは、そのあたりが原因なのかもしれない。

 

 今回の実習は希望者が少なかった為、グループを分けずに全員で移動を行う予定となっている。

 故に、護衛のパーティは『花車騎士(ガーベラ・ナイツ)』の一組だけだ。しかし実習はごく低層、具体的には一層から二層までの範囲で行われる。だというのに現役パーティの『花車騎士(ガーベラ・ナイツ)』に加え、学生ながらも既に活躍中の国宝院シエラもいる。恐らくはこの中で最も順位が高いであろうルーカスと、それに駆け出しながら戦闘経験のある莉子と火恋もいる。情報面では元協会職員の八神教諭が居る。これでも戦力は過剰な程であった。

 

「ある程度は想定していたけれど……あのバカ(シエラ)、ただの実習にあんな面子を連れてきて。そんなに自慢したかったのかしら?」


「フル装備の軍人に守られながら公園で遊ぶ、みたいなものですかね」


「言い得て妙だわ。これじゃ逆に落ち着かないわよ……見なさい、周囲から向けられるこの奇特の目を」


「とても微笑ましい目で見られてますね。でもまぁ、いいんじゃないでしょうか。参加者が参加者ですし、何かあったら困りますから」


 そんな凪の言葉通り、白凪学園一行は酷く()()()いた。

 ただでさえ小綺麗な制服姿で目立っているというのに、高名な『花車騎士(ガーベラ・ナイツ)』まで引き連れて。これでは殆どサファリパークではないかと、凪は頭を抱えていた。しかし戦いたくない織羽(おりは)からすれば、これは非常にラッキーな展開であった。仮に何かの間違いで強力な魔物が出たとしても、これならば十分に対処が可能だろう。


「わ、本物の『花車騎士(ガーベラ・ナイツ)』だ……すごいね、火恋ちゃん!」


「そうだね。私みたいな駆け出しでも、すごく強いのが見ただけで分かるよ。なんだろう……強者のオーラみたいな感じかな?」


「戦ってるところ、見てみたいなぁ!」


 凪がシエラに呆れる一方、一般人代表の莉子と火恋は目を輝かせていた。

 上位の探索者パーティというのは、そう簡単にお目にかかれるものではない。普段はギルドに詰めている事が多いし、いざ探協にやってきたかと思えば、すぐにダンジョンへ潜ってしまうパーティが殆どだからだ。例えるなら、芸能人を街中で見かけた時のような感覚だろうか。駆け出しの二人が喜ぶのも頷けるというものである。見れば他の実習参加者も、二人と似たような反応を見せていた。流石は将来を見据えた精鋭お嬢様、といったところか。恐らくは以前より、『花車騎士(ガーベラ・ナイツ)』のことは知っていたのだろう。

 

 そして、そんな者たちとは別にもう一組。

 そこにはやたらと対抗心を燃やす、海外勢の姿があった。

 

「どうやら有名な方々のようですねっ! どうですかルーカス、あなたとどちらが強いんですかっ!?」


「何故張り合う……まぁなんだ、見たところ戦闘能力は俺のほうが高い。おそらくは、だが」


「ですよねっ! 流石ですルーカス! 今日は彼女たちに負けないよう、ぜひ頑張ってくださいねっ!」


「俺はただの後備(うしろぞなえ)であって、戦う予定は今のところないんだが……?」


「いけませんよ、そんな消極的ではっ! 今日はあなたの運動不足解消も兼ねているんですから、獲物を奪うくらいの気持ちでいきましょうっ!」


「つまみ出されるだろ……」


 従者(ルーカス)を自慢しようと考えていたリーナである。

 毒気がない分まだマシではあるが、考えていること自体はシエラと同レベルであった。


 「それではこれより、白凪学園第一学年のダンジョン実習を始めます。皆さん、先ほど説明差し上げた注意点をくれぐれ忘れぬように。はい出発ー」


 まさに引率といった風なセリフを吐きながら、八神教諭が手に握った旗を降る。

 その姿はバスツアーのガイドも斯くや、といった様子であった。


「はぁ……雰囲気が台無しだわ……ただの実習とはいえ、まるで緊張感がないのも困るのだけど」


「まぁまぁ。ダンジョンといっても、低層なんてこんなものですよ」


 そう言葉にはしつつ、しかし当の凪本人にも緊張感は殆ど見られない。

 そうしてダンジョンへと入ってゆく一団の、その最後尾を織羽(おりは)と凪が並んで歩いていった。

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
見える!見えるぞ〜! つまみ出される、ルーカスの姿がw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ