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姫の護衛は楽じゃない  作者: しけもく
第二章

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39/110

第39話

前話(第38話)を飛ばしてしまうというミスが発覚しました

なので是非、一つ前からご覧下さい……!

「ルールはどうする?」


「うぅん……私はじめてなんですよね、こういう事するの……」


「……わざとそういう言い方をしているだろう」


「おや、バレましたか」


 渋い顔でルーカスがそう言えば、織羽(おりは)(おど)けたようにぺろりと舌を見せる。

 確かに顔立ちは綺麗だが、しかし所詮は色恋に疎い織羽(おりは)のやることだ。表情は色気もへったくれもない真顔であるため、ルーカスにはあっさりと見抜かれてしまう。これも織羽(おりは)なりの冗談なのだろうが――――こういったネタを繰り出すようになったあたり、織羽(おりは)もすっかり染まりつつあるということか。


「そうだな……流石に本気の殴り合いというわけにはいかんだろう。先に相手の手を掴んだ方の勝ち、というルールでどうだ?」


「私はそれで構いませんよ。ちなみにソレ、探索者の間では一般的な試合方法だったりするんです?」 


「この国ではどうか分からないが……俺の故郷では割と普及していたな。どちらかといえばお遊びに近いが、これで意外と奥が深い」


「へぇ……」


 織羽(おりは)からすれば、組手の方法などはっきり言って何でもよかった。

 素手でもいいし武器使用でもいい。訓練形式でもいいし、実戦形式でもいい。たとえどんな場所、どんなルールだったとしてもそれなりの形にはするつもりでいた。だがルーカスから提案された方法は思いの外平和的というか、少し拍子抜けするような内容であった。


 だが成程。

 少し考えてみれれば確かに、これはこれで悪くはない。


 言うまでもなく、戦闘中に相手の手首を掴むというのは非常に難しい。

 恐らくは最も激しく動く箇所であろうし、かつ最も早く動く箇所だ。有効部位としては小さいが、素手で攻める際には狙われやすく、守ろうとすれば攻撃が出来ない。仕掛けるタイミングをはかったり、或いは逆にカウンターを狙ったり。そういった駆け引き要素も生まれることだろう。その上で危険性はほとんどなく、事故に繋がりにくい。なかなかどうして、ちょっと面白そうではないか。織羽(おりは)はそんな風に考えていた。


 ちなみにこれは日本に於いても、探索者同士が試合をする際のルールとして広く知られている。

 ダンジョンに潜っていた頃は独りだった。そしてそれ以降、上司のゴリラとはガチめの殴り合いばかりをしていた。そんな織羽(おりは)がこのルールを知らないのは、ある意味仕方がないことなのかも知れない。


 だがこのルールを知らないという時点で、現役の探索者達からは奇妙に思われるだろう。

 一方、ルーカスはこの国の探索者事情に明るくなく、変に怪しまれるようなこともない。故に今ここでこの話を聞けたことは、織羽(おりは)にとっては幸運以外の何物でもなかった。


「それじゃ、開始の合図は私が出すからねー!」


 少し離れたところから、大きな声で亜音(あのん)が叫ぶ。

 それを受け、織羽(おりは)とルーカスは距離を取って向かい合う。どうやら本当に訓練相手を欲していたのだろう。ルーカスの表情はとても模擬試合とは思えない、ひどく真面目なものであった。或いは、主人であるリーナにいいところを見せようとしているのかもしれないが。

 

「見合って見合ってー……はじめっ!」


 そんな怪しい掛け声と共に、亜音(あのん)が腕を振り下ろす。

 

(……相撲(すもう)かな?)

 

 既に試合は始まっているというのに、織羽(おりは)は呑気な事を考えていた。

 しかし対するルーカスは違う。待ちに待った運動不足解消の機会なのだ。自分で模擬戦を提案したということもあってか、一切の()()()もなく距離を詰めてくる。亜音(あのん)が合図を出してから僅か数秒、彼は既に織羽(おりは)の手首へと狙いを定めていた。


「余所見は感心しないぞ」


 流石は四桁探索者というべきだろうか。ルーカスは既に攻撃を繰り出しており、その右手は真っ直ぐ、最短距離で織羽(おりは)へと迫っていた。とはいえ、攻撃自体はそれほど速くなかった。ある程度の実力があれば回避出来るかどうか、といったくらいのものだ。先の宣言通り、ちゃんと手加減はしてくれているらしい。


 迫るルーカスの右手を、織羽(おりは)は上体を反らすことでどうにか回避する。

 初撃で終わらなかったことを喜ぶように、ルーカスがにやりと笑う。


「躱したか! やるじゃない――――」


 そうして織羽(おりは)を褒めようとして、しかしその言葉は最後まで続かなかった。

 繰り出した右腕が、織羽(おりは)の胸(偽乳)をがっつりと鷲掴みにしていたからだ。ルーカスは腕を掴みに行こうとしたのだから、あながちあり得なくもない状況ではある。


「おや……スケベ」


 表情ひとつ変えぬまま、織羽(おりは)がぼそりと呟く。


「っ! す、すまないっ!! そんなつもりじゃなくて――――」


 真顔でスケベ呼ばわりされ、慌てて弁明するルーカス。大げさに両手を広げるその様は、まるで審判にノーファウルを主張するスポーツ選手のようであった。

 だがそんな明らかな隙を、織羽(おりは)が見逃すはずもなく。


「スキありです」

 

「本当に悪かっ――――ん? あっ……」

  

 あっさりと。

 ルーカスの左手首が、いつの間にやら織羽(おりは)に掴まれていた。その直後、遠方の亜音(あのん)から試合終了の合図が齎される。


 「勝負ありー!! 勝者、おーりーはー!」


 (……相撲かな?)

 

 亜音(あのん)の怪しい勝ち名乗りを受ける織羽(おりは)。一方、口をぱくぱくさせながら呆然と立ち尽くすルーカス。

 わざわざ凪へと伺いを立て、放課後の貴重な時間を貰い受け、自身の運動不足解消のために従者を借り。いざ始まったかと思えば乳(偽)を揉んで慌ててしまい、そのまま敗北したのだ。なんというべきか、あまりにもあまりな幕切れであった。当然、このままではリーナに顔向けが出来ない。織羽(おりは)が予想外に強く、接戦の末負けてしまった――というのであればまだ納得も出来る。だがこんな負け方はあまりにも酷い。


「ま、待ってくれ! もう一試合だけ頼めないだろうか!? 今のはその、ちょっとした事故というか……いやっ、本当に申し訳ないとは思っているんだが……」


 しどろもどろになりながら、ルーカスは必死に食い下がる。

 そんな彼を見つめながら、織羽(おりは)は僅かに逡巡を見せた。そして、やはり表情ひとつ変えずにこう告げた。


「別に構いませんよ」

 

「ほ、本当か!?」

 

 思いがけない返事に喜ぶルーカス。

 最初はあんなにも嫌がっていた織羽(おりは)だというのに、一体どういうつもりなのだろうか。


 そもそも織羽(おりは)は、模擬試合そのものが嫌な訳では無い。

 隆臣とは頻繁に殴り合いをしていたし、こうした探索者同士で行われる戯れには小さな憧れもあった。織羽(おりは)が嫌っていたのは、周囲の目がある場で実力を見せることだ。特に今は、何かと自分を怪しんでいる凪の目がある。そんな彼女の前で試合をするなど、ただのリスクでしかない。しかし黙って試合に負けるのも、それはそれで気に入らない。故に、最初は今回の話に乗り気ではなかったのだ。


 だが今の一戦で、織羽(おりは)には分かったことがひとつあった。

 それは実力をほとんど出さずに勝つ方法だ。ふと思いついてぶっつけで試してみたが、これが存外上手くいってしまったのだ。

 その方法とは、つまり――――


(もちろん構わないよ。そうさ、何度だってかかってくるがいい。でもね、キミはその度にボクの偽乳を揉むことになる。(ひそか)さんが用意したこの特性スライムパッドをね!! ククク……いつまでこの羞恥に耐えられるかな!?)


 なんのことはない。

 ルーカスが意図せずセクハラをしてしまったのは、織羽(おりは)が意図的に偽乳を差し出した所為、というだけの話であった。

 

 

虚無を揉め

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― 新着の感想 ―
先生、チチ脳に汚染されて、38話を飛ばしましたねwww
本物と寸分違わぬ偽物ならば、それは本物と同じこと。 何度でも揉むがよい。
私はじめてなんですよね、こういう事するの… コイツは、もうダメだ。戻れないよ…… 織羽くんじゃあないッ…! 織羽ちゃんだ!……
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