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灰の刻印  作者: dae
第1章 学園編
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第2話ーこの世界について

おれはグレン先生に導かれ、重々しい扉の前に立っていた。教室の中からは、かすかなざわめきが漏れてくる。グレン先生が扉を開けると、その瞬間、ざわついていた教室が静まり返り、全員の視線が一斉におれに向けられた。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。


教室は中央に教壇があり、円形に広がるように配置された机が並んでいる。生徒たちはその机に座り、興味深そうに、あるいは冷たく、彼を見ていた。天井は高く、壁には古代の魔法式が刻まれた装飾が施され、どこか厳かな雰囲気が漂っている。


「皆、紹介するよ。今日からこのクラスに復帰することになった、アレイン君だ」


グレンの声が教室に響き渡る。アレインは無言のまま、教壇に立ち、視線を正面に向けた。


「彼は少しの間、学園を離れていたが、特別に戻ってきた。皆、よろしく頼むよ」

少し…7年を少しと言っていいものなのか。


その一言で、クラス全体の視線がさらに強くおれに注がれた。ざわめきが再び起こり、あちらこちらでひそひそとした声が聞こえる。おれはそれらを無視し、心の中で深く息をついた。自分がどのように見られているかは、すぐに分かった。冷たい視線、侮蔑的な目つき、そして興味のない態度。


「何か一言、自己紹介を頼むよ」


グレン先生に促され、おれは短く息を吸って口を開いた。


「アレインです。長い間、学園を離れていましたが、またここで学ぶことになりました。よろしくお願いします。」


それだけを言い終えると、教室は再び静かになった。生徒たちはちらちらと彼を見て、またそれぞれのことに戻った。興味を持つ者もいれば、完全に無関心な者もいる。おれは、そんな無数の感情が入り混じる視線を受け流し、グレン先生の指示通り、示された席に向かった。


おれの席は窓際にあり、そこから外の広大な校庭が見える。だが、その景色に目を向ける余裕はなかった。隣の席には、すでに一人の少年が座っていた。淡い茶色の髪を持ち、優しい緑色の瞳をした少年だった。少年はおれに気づくと、柔らかな笑顔を浮かべた。


「…君がアレインだね」


その声には、冷たさや敵意は感じられなかった。むしろ、どこか親しみやすさがある。


「僕はルーカス・フィンデール。ノーザリアから来たんだ。君の隣の席に座ることになってる」


おお、優しそうな人だ。初めての友達になれるかも。


「アレインだ。よろしく頼むよ」


俺たちは簡単な自己紹介を交わし、そのまま授業が始まった。今日の授業は「刻印と魔術の違い」についてだった。教壇に立つ講師は、白髪混じりの壮年の男性で、厳かな表情でクラスを見渡していた。


「さて、今日は復学した学生もいるので、刻印と魔術の違いについて復習する。質問があれば遠慮なく聞いてくれ」


刻印と魔術の違いか…7年学園を離れてた俺を気遣ってるんだろうけど、そこらへんはさすがに勉強済みだ。


「刻印は、生まれつき体に刻まれるもので、個々の力を引き出すものだ。稀に後天的に発現する場合もあるが…これはほとんど例外なので、気にしなくていい。例えば、強力な戦闘用の刻印や、補助的なものまで様々だ。一方、刻印を持たないものが、刻印持ちのように魔法を使えるように開発したのが魔術だ。魔術は誰でも習得可能であり、刻印なしの者でも扱える。今誰でも習得可能と言ったが、訓練さえ積めば誰でも全ての魔術を使えるというわけではない。剣が得意なものがいれば槍が得意なものがいるように、魔術にも向き不向きがあり、自分が習得できる魔術にも限りがある。

つまり、この2つは力の根源は異なる。刻印は生まれながらに備わる『刻まれた力』だが、魔術は習得と訓練によって発展させるものだ。

強力な魔導士は、刻印と魔術を組み合わせて戦うことができる。ただし、それには並々ならぬ才能と訓練が必要だ。」


講師が続けると、先生がある生徒に質問を投げかけた。


「では、そこの君、刻印の弱点とは何かな?」


指名された生徒は即座に答えた。


「はい。刻まれた刻印が傷つけられると、刻印の力を失うことです。」


「その通りだ。刻印の力は強大なものだが、決して無敵ではない。特に重要なのは、刻印が傷つけられるとその力の一部を失うという点だ。刻印が刻まれている身体の部分に外部から傷を受けた場合、刻印そのものがダメージを受けることになる。これは刻印持ちにとって非常に致命的な弱点となる。

極端な例では、刻印が刻まれた肌が肉ごとえぐられれば、刻印の力は完全に消失してしまうだろう。これは、刻印の力が身体と深く結びついているからこその弱点だ。

だからこそ、刻紋士たちは自らの刻印を守るために、より強固な防具や魔法の保護を重視するんだ。この点を理解しておくことが、今後の実戦でも大きな意味を持つだろう。」


質疑応答が続く中、おれは静かにそのやり取りを聞いていたが、師匠に教えてもらったことが多かった。

おれには刻印がない…けど、あながち無関係な話でもないんだよな。


授業中、刻印と魔術の違いについての話が一段落したところで、講師が次の話題に移る。


「さて、今日のもう一つの重要なテーマは、この大陸についてだ。皆が生活しているこの地、ヴァルディア大陸について詳しく知っておくことも、これからの学びに欠かせない」


講師が黒板に地図を描き始めると、生徒たちの視線が一斉にそちらに向けられた。ヴァルディア大陸の広大な地形が、黒板に徐々に現れていく。


「まず、ヴァルディア大陸は灰の盟約によって中心から統治されているが、周囲にはそれぞれ独自の文化や歴史を持つ五つの国が存在する。これらの国々は時に協力し、時に対立しながら、現在の秩序を保っている。では、代表的な国をいくつか挙げてみよう」


生徒たちが静かに耳を傾ける中、講師は続けた。


「リオンドール王国。この国は騎士道を重んじ、古くから剣士を数多く輩出してきた。国王家の力が強く、王家に伝わる光の刻印が国家の象徴となっている。現在、彼らの領土にはかつてのファナスティア王国の跡地も含まれている」


ファナスティア王国…おれの出身地だな。


「次に、カーロヴェア帝国だ。ここは魔術と機械技術を融合させた軍事大国で、強大な軍隊を持っている。彼らの目標は支配的な帝国主義を掲げ、隣国との緊張が常に絶えない。…ここだけの話だが、特に灰の盟約との関係は微妙だ」


黒板の地図を指しながら、講師は各国の特徴を簡潔に説明していく。


「そして、オルドバ共和国。かつて刻印を持たない者たちが革命を起こし、王政を倒した国だ。無刻印革命と呼ばれるその出来事は、大陸全体に大きな衝撃を与え、今でも共和国は平等主義を掲げている。だが、国内では刻印持ちとの対立も少なからず残っている」


生徒たちの中から、小さな囁き声が聞こえたが、講師はそれを無視して話を続けた。


「他にも、極寒の地が大半を占めるノーザリア公国や、交易を重視したアグレナス諸国連合など、各国は独自の文化と政治体制を持っている。それぞれの国が互いに影響を与え合いながら、灰の盟約の存在によって今の均衡が保たれているのだ」


おれは、自分がかつていたファナスティア王国が今は過去のものとなり、リオンドール王国の支配下にあることを再び実感しながら、大陸全体の複雑な歴史と政治が織りなす現在の秩序を思い浮かべていた



授業が終わり、おれはグレンに呼び出され、寮まで案内されることになった。広い廊下を歩きながら、ルーカスが隣に並んで話しかけてくる。


「君、一年生の時も学園にいたんだよね?でも、覚えてないや。ごめんね」


「気にしなくていい。通ってたのは半年だけだしな」


その言葉に、ルーカスは軽く頷きながら、「そうだったんだ」と納得した様子だった。


寮は学園の近くにあり、厳かな石造りの建物がいくつか並んでいた。おれが案内された部屋は二人一部屋の構造で、広い窓がついており、外の景色が一望できる。部屋の中央には二つのベッドがあり、それぞれの脇には机と本棚が置かれていた。窓際には小さなテーブルと椅子があり、夕暮れ時にはそこで読書を楽しむことができそうだ。


「ここが君の部屋だ。ルーカス君と同じ部屋になる。君の荷物はすでに運び込んでいる。何かあれば彼と相談するといい」


グレンがそう言うと、おれは部屋を見回しながら静かに頷いた。ベッドの横にはいくつかのルーカスの私物が並んでいた。

住み心地は悪くなさそうだ。


「どうだい?部屋は気に入った?」


ルーカスがベッドに腰掛けながら、にこやかに尋ねる。


「ああ、前住んでたところに比べたら随分マシだ。」


おれは答えながら、ベッドに荷物を下ろした。久々の学園生活が始まるという現実が、少しずつ実感として広がっていた。


「前住んでたとこってどんなところなの?7年も学園を離れてたって言ってたけど…」


「うーん、森の中の小屋に住んで、師匠と修行してたんだ。人里に降りたことは何回かしかなかったな」


「なかなか野生的な生活を送ってたんだね…」


ルーカスは苦笑いしながら答えた。


「そういえば、君は刻印なしなんだよね?」


ルーカスが不意に尋ねた。その言葉に、一瞬黙ったが、すぐにうなずいた。


「そうだ。おれには刻印がない。それに…まあ、昔からいろいろあってな」


おれの言葉に、ルーカスは特に驚いた様子も見せず、ただ穏やかに頷いた。


「そっか。僕は一応、刻印持ちだけど、戦闘には向いてないよ。僕の刻印は『解析の刻印』といって、見たものの材質とか大まかな効果が分かるだけ。まあ、便利なこともあるけど、戦いでは役に立たないんだ」


ルーカスは笑いながら、自分の刻印について話した。


「どうして戦闘向きじゃないとわかってたのに、このコースに来たんだ?」


この学園には魔導士コースと研究者コースがあり、魔導士コースは主に戦闘力を磨くコースになっている。


ルーカスは優しく笑いながら答えた。


「僕はね、昔から人々を救う騎士に憧れてたんだ。強くて、優しくて、誰かのために戦う存在になりたかった。でも、物心ついた時、僕の刻印が戦闘に全く役立たないものだってわかった。でも諦めたくなかったんだ。だから、ここでできる限り学んで、自分なりの方法で人を助ける力を身につけたいと思ってる。

それに、刻印なしの君も、そういう思いでここにきたんじゃないのかい?」


おれは彼の強い意志を感じ取り、静かにうなずいた。


「はは、そうかもな。」


おれはそう言いながら、ベッドに寝転んだ。久々の学園生活は不安と緊張に包まれていたが、少しずつ馴染んでいけるかもしれない。少なくとも、隣にルーカスがいる限りは。


「今日一日、どうだった?」


ルーカスが静かに問いかける。おれは考え込みながら、少しだけ微笑んで答えた。


「まだ慣れないことが多い。でも、まあ…悪くはないな。」


そう言いながら、少しだけ笑顔を見せた。そして、そのまま外の景色を眺めながら、今日一日を静かに振り返っていた。

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