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灰の刻印  作者: dae
第1章 学園編
2/15

第1話ー新しい旅路

アッシュ歴214年


青く澄み切った空に浮かぶ大理石の塔が、おれの視界に広がった。この学園は、まるで世界から切り取られた一片の神秘。高い城壁に囲まれた広大な敷地には、無数の魔法の研究施設や訓練場が点在しており、それぞれがエネルギーに満ちている。壮大な石造りの門をくぐると、広大な中庭が現れ、綺麗に咲き誇る花々や、空に漂う太陽に光が生徒たちを出迎えていた。


「やっぱり、ここは変わらないな…」


長身で黒く長い髪を後ろで低く束ね、前髪には赤い髪が混じっており、深紅の瞳、首元に火傷の跡が炎のように残る男、アレインは思わず呟く。7年ぶりに見る学園は、かつての記憶と変わらず、威圧感とともに彼の心に入り込む。かつてこの場所で自分は何者にもなれなかった。「無能者」と蔑まれ、誰の期待にも応えられずにいた。しかし、今の自分は違う──少なくとも、そうでありたいという思いが胸を打つ。


それでも、心の奥底にくすぶる不安が、ふとおれの足を鈍らせた。再び学園に戻ることが本当に正しいのか、再び「無能者」と見られるのではないか。周囲を行き交う生徒たちの視線に、わずかな緊張を感じながらも、一歩一歩前へ進む。


大きな職員棟が視界に入った。白銀の装飾が施された石造りの建物で、学園の全ての事務が行われている中心地だ。高くそびえる柱が学園の荘厳さを象徴している。


「さて…行くか」


自分自身に言い聞かせるように呟き、おれは職員棟の扉を押し開けた。広い廊下に足を踏み入れると、静寂の中に魔力の流れが感じられる。職員室に向かって歩みを進めるたびに、彼の胸の奥で高揚感と不安がせめぎ合う。


職員室の扉をノックすると、中から「入ってくれ」という落ち着いた声が聞こえた。一瞬の躊躇の後、扉をゆっくりと開け、中に入った。部屋の奥には、上品で静かな雰囲気を漂わせた男性教師が待っていた。彼は白髪交じりの髪を後ろで束ね、整った顔立ちに柔らかな眼差しを持つ。


「アレイン君だね。どうぞ、座ってくれ」


彼は穏やかな口調でおれを促し、俺も礼儀正しく席に着いた。


「君がこの学園を離れて、7年。よく戻ってきたね。」


「はい、ずいぶん長い間、外の世界で過ごしていました」


「そうか、外での経験は大きかっただろうね。…ああ、そうだ、自己紹介がまだだったね。私はオルフェウス・グレイストーン。灰の盟約に仕える魔導士の一人で、教師として8年生の学年の統括をしている。」


彼は微笑みながら、丁寧に自己紹介を済ませた。どこか安心感を与える口調に、緊張が少しだけ和らいだ。


「そうだ、“あの人”の訓練はどうだった? なかなか厳しいだろう?」


オルフェウス先生の質問に、おれは一瞬ためらった。しかし冷静さを保ち、静かに答えた。


「はい、厳しいものでしたが、学ぶことは多かったです。」


「そうか。それは良かった。君が外で得た経験が、ここでどう活かされるか、私たちも楽しみにしている。」


少しだけ気が楽になったが、次にオルフェウス先生が発した言葉は、おれの胸に再び緊張を呼び戻した。


「ただ、忘れてはいけないことがある。本来なら、君のように7年も学校を離れて復学することは、ありえない話だ。君がここに戻れたのは、最低限の学力を維持し、特別試験で実戦の成績を証明したからだ。そして何より、“あの人”の弟子であるということが大きい」


オルフェウスの声は少し鋭く、釘を刺すように響いた。


「決して、そのことを忘れてはいけないよ」


アレインは言葉の重みを噛みしめ、緊張しながらも静かに頷いた。


「…ありがとうございます」


彼の心には、不安と共に責任の重さがのしかかっていた。


「さて、君の担任の先生を紹介しておくよ。彼がこれから君のクラスを見てくれる」


オルフェウス先生がそう言うと、別の男性教師が近づいてきた。やや若く、気さくな笑顔を浮かべた彼が歩み寄る。


「はじめまして。君のクラスを担当することになった者だ。どうぞよろしく、アレイン君」


アレインは軽く頭を下げ、担任に挨拶を返した。


「では、彼に案内してもらって、教室に向かってくれ。ここでの生活は、また新たなスタートだ。君ならきっと、大丈夫だよ」


オルフェウスは最後に優しく声をかけ、アレインを送り出す。その言葉が、彼にとって少しでも勇気となることを願っていた。


「ああ、それと」


オルフェウスは何かを思い出したように


「君の出自については君の希望通り、教師たちしか知らない。君が隠したいと望むなら、気を付けることだ。」


と、小さな声で耳打ちし


「では、健闘を祈るよ」


そう笑顔で締めくくった。



アレインが職員室を出て行った後、静かな空気が戻った。別の教師が、オルフェウスに近づき、小声で尋ねる。


「オルフェウス先生、あの子が例の…?」


オルフェウスは穏やかに頷き、目を細めて微笑んだ。


「はい、炎魔の子で…英雄の弟子ですよ」


教師の顔に、驚きと興味が交錯する。彼はそれ以上何も言わず、ただオルフェウスの言葉に耳を傾けた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




静かな廊下を歩きながら、アレインは担任のグレンと共に教室へ向かっていた。久々の学園での時間は、どこか懐かしさを感じさせながらも、新しい緊張感が付きまとっている。


「改めて、自己紹介をしておくよ。私はグレン。君の担任を務めることになった。気楽に接してくれて構わないよ、アレイン君」


グレン先生は気さくな笑顔を浮かべ、軽く手を差し出した。おれは少し戸惑いつつも、その手を握り返す。


「よろしくお願いします、グレン先生」


グレン先生は頷きながら、廊下を歩き続ける。


「ところで、オルフェウス先生とはどうだった?…いや、聞き方を変えようか、あの人についてどう思った?」


どうだった…か。


「…強いという印象が強かったです。威厳もあって、ただの教師という感じではないですね」


グレン先生はその言葉に満足げに頷きながら、少し考えるように視線を前に向けた。


「そうだろうね。彼はただの教師ではなく、『アッシュ』の一人なんだ。アッシュが何かはもちろん、君も知っているよね?」


アレインはその言葉に驚き、目を見開いた。


「え、アッシュの一人なんですか? どおりで…」


グレンは頷いて続けた。


「そうだ。アッシュは特別な存在で、灰の盟約の中でもその力と責任が群を抜いている存在だ。学園に在籍して教えているとはいえ、彼の本来の役割はそれ以上に大きいんだよ」


アレインは、オルフェウスがただの教師ではないことを理解し、その存在の大きさに納得した。


グレンは歩きながら、ふと建物の外の景色を見つめた。


「ところで、灰の盟約についても、君は大まかなことは知っていると思うが…」


「はい、200年前の魔導大戦で都市が一度壊滅し、その後に再建された時に『灰の盟約』が成立したという話ですよね?」


アレインの言葉に、グレンは頷いた。


「そう、それがこの『灰の都市ノクシルス』、そして灰の盟約の始まりだ。当時、都市は完全に灰と化したんだが、そこから再生し、その再生を象徴する存在として『灰の盟約』が設立された。その時の盟約が今の世界全体にまで影響を与えている。もちろん、灰の盟約には様々な役割があるけど、最も重要なのは世界の均衡を守ることだ」


「そして、この『ノクシルス学園』も、その一環として設立されたわけだ。ここでは、各国から集まった次世代の魔導士や刻紋士が訓練を受け、10歳から8年間学園に通い、灰の盟約の使命を受け継ぐ者たちが育てられている。君もその一員として、また戻ってきたわけだね」


そのへんの話は知っている。たしか大陸中の国から貴族や平民がこの学園に学びに来てるんだよな。


「ところで、灰の盟約には4つの階級があることは知っているよね?」


おれは頷き、聞き入る姿勢を見せた。


「最初の階級は『ルーン(Rune)』。これは新人の魔導士、あるいは学園生の多くが属する階級だ。魔法や戦闘の基礎を学び、実力をつけていく段階の者たちだ。ルーンという名前は、古代の文字や魔法の象徴としての意味がある。君が今所属するのはここだ。」


当然だな、7年も学園を離れてたし。


「次に、『セイント(Saint)』。ここに属する者たちは、中堅の魔導士だ。独立して任務をこなすことができ、灰の盟約の一員として活動できる。セイントは『神聖な力』を意味し、ある程度の実力と責任を持つ者たちだ。」


そんな意味があったのか、知らなかったな。


「そして、その上が『カオス(Chaos)』だ。カオスに属する者たちは熟練した戦闘能力を持ち、大規模の問題や緊急任務にも柔軟に対応できる。カオスという名前は、混沌の中で秩序を見出すという意味を持っている。カオスの者たちは非常に強力で、常に最前線で戦っている。

そして、最上位の階級が『アッシュ(Ash)』だ。このアッシュには、たった4人しか属していない。彼らは灰の盟約の象徴とも言える存在で、世界の均衡を守る最後の防衛線なんだ。『アッシュ』という名前には、破壊された都市が灰から再生したという歴史的な意味が込められているんだよ」


さっきのオルフェウス先生はこの階級だな…四人しかいないなんて、改めて考えるとすごいな。


「まあ、アッシュのレベルに到達するのは、一握りの天才だけだ。それに、彼らは世界規模の危機に対応する者たちだから、僕たちのような普通の人間とは次元が違う。でも、君がこれから歩む道をしっかりと見据えていれば、いつかその足跡を追うことだって可能かもしれない」


グレンはアレインを見つめながら、そう締めくくった。


「ところで、この学園にはランクシステムがある。君も知っているかもしれないけど、ランカーというのは学園で最も実力のある者たちが名を連ねている。5位までのランカーに挑んで勝てば、その順位がそのまま勝者に渡る仕組みだ。だからこそ、皆がランカーを目指している。ランカーになることは名誉だけじゃなく、灰の盟約に目をつけられるチャンスでもあるからね。」


これは聞いたことがある。一年生のころは興味のかけらもなかったが…


「君のクラスには学園ランク2位の生徒がいる。彼の名はレオン・アルシード。彼は非常に実力のある貴族の刻紋士だ。君もすぐに彼に会うことになるだろうが、最初はちょっと厄介かもしれない。でも、彼の実力は疑いようがない」


レオン・アルシード…覚えておくか。


「まあ、焦る必要はない。君は君のペースで、この学園に慣れていけばいい」


二人が教室の前に立ち止まった。扉の向こうには、彼の新しい日常が待っている。


「ここだ、アレイン君。君の新しい教室だよ。準備はいいか?」


グレンは微笑みながら、扉に手をかけた。

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