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灰の刻印  作者: dae
第1章 学園編
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第12話ー決闘の余韻

決闘の翌日、学園中は昨日の戦いの話題で持ちきりだった。廊下を歩けば、誰もが「レオンとアレインの決闘」について話しているのが聞こえてくる。どうやら俺の戦いが学園内でかなりの話題になっているようだ。

その影響で、朝からというもの、教室でも外でも、俺に決闘の詳細を聞きたがる生徒たちが次々とやってきた。それはもう大変だった。


「君が使っている武術は何と言うんだい?」「7年間なにしたらそんなに強くなったの?」「よかったらいろいろ教えてくれないか!」


こんなのばっかだ。そのたびに同じ話を繰り返すことに、正直、うんざりしていた。


その反面、レオンは朝から大人しかった。俺やレイナとは目も合わせることなく、何事も言わず一日を過ごしていた。


「やっと静かになったか…」

昼休み中、まともに食事もとれないので、リリアと一緒に中庭のベンチに座って、少しの休息を取っていた。青空の下で心地よい風が吹き、少しだけ頭が冷えるような気がした。

ちなみに、ルーカスは俺といると人に囲まれそうだからと逃げた。


「大変ですね。アレインさん。」

隣に座ったリリアが顔を覗き込んでくる。


「まったくだ。早く収まってほしいな。」


「学園の2位に、ましてや刻印を持ってない人が勝つなんてすごいことなんですから、しばらくは続くと思いますよ。」

まじかよ…。

俺はため息をついて肩を落とした。


「アレイン、ここにいたのか。」


その声に振り返ると、レイナが歩いてきた。

おお、俺を挟んでリリアとレイナ、両手に花とはこのことか。

彼女の顔にはいつものような冷静さがあったが、どこか少しだけ柔らかい表情をしている。


「レイナか。どうしたんだ?」


「改めてお礼を言いたくて。昨日は…本当にありがとう。」


レイナは俺の前で軽く頭を下げた。普段は誇り高く振る舞う彼女が、俺に対して頭を下げる姿は少し意外だった。


「いや、俺がやりたくてやったことだ。気にするな。」


「でも、お前がいなかったら…あの場で私はどうなっていたか…。本当に感謝している。」


俺はレイナの感謝の言葉に軽く肩をすくめた。たしかに俺が助けた形にはなったが、あの場で俺が動かなかったとしても、彼女は何らかの方法で打開していたかもしれない。


「そんなことはないさ。俺は自分の判断で動いただけだよ。…それに、あんたが引き下がれないのは分かってた。」


「ああ、私にも貴族としての誇りがある。あそこで逃げるわけにはいかなかった。だが、お前が挑発するのは、少し軽率だったな。」


レイナは微かに笑いながら言ったが、その瞳には心配の色が見える。


「軽率だったかもしれないが、結果的に勝ったんだ。それでいいだろ?」


「そうかもしれないが…。でも、無茶をしてほしくない。」


レイナの言葉に、俺は少し驚いた。彼女が俺の身を案じるようなことを言うなんて、今まで想像もしなかった。


「…心配してるのか?」


「当たり前だろう?お前には感謝しているのだからな。」


俺はレイナの言葉に一瞬だけ笑みを浮かべた。彼女の意外な一面を見て、少しだけ心が軽くなった気がする。


「心配するな。俺は大丈夫だよ。それに、俺もまだまだ強くならなきゃならないんだ。これからも、何かあれば遠慮なく言ってくれ。」


「ああ、頼りにしている。逆に何かあったら頼ってくれ。協力は惜しまない。」


レイナはそう言って、もう一度俺に微笑んだ。


「それにしても、すっかり人気者だな。…これから大変になるぞ。」


大変になるって…今の人の殺到ぶりのことか?確かに大変だけどしばらくしたら落ち着きそうだが…


「まあ、ぼちぼちやるさ。」


レイナはその言葉に微笑み、その後軽く会釈をして去って行った。


「アレインさん、レイナさん、やっぱりすごい人ですね。」


リリアが隣で感心したように言った。


「まあ、あいつは貴族としての立場があるからな。俺なんかとは違うよ。」


俺はそう言いながら、遠ざかっていくレイナの背中を見送った。


「でも、アレインさんもすごいですよ。あのレオンさんに勝ったんですから。」


リリアが微笑みながら言ったその言葉に、俺は少しだけ照れ臭さを感じた。


「まあ、今回は運が良かっただけだ。」


俺はそう言って、再び静かな中庭の景色を眺めた。次の試練が待っていることを考えつつ、今は少しだけこの穏やかな時間を楽しむことにした。


しばらく俺とリリアが中庭で話していると、再び足音が近づいてきた。振り返ると、見慣れない二人の姿が目に入った。


一人目の青年は、短髪で整った貴族らしい顔立ちをしており、爽やかな笑みを浮かべていた。彼の表情は柔らかいが、その目はどこか冷静に状況を見定めるような鋭さを持っている。レオンとは違って制服ときちっと来ており、全体的に上品で、貴族の出身らしい気品が漂っていた。

隣に立つ二人目の男は彼は赤い髪を持ち、長身で筋肉質な体を誇示するかのような堂々とした立ち姿だ。その大きさと体格からして、ただ者ではないことが一目で分かった。だが、彼の表情は隣にいる貴族らしい男とは違って気の抜けた笑顔を見せている。


「君がアレインだね?」


声をかけてきた彼は、一歩前に出て軽く会釈した。


「僕はフェリクス・ヴァリエール。学園の第3位…いや、今は4位か。」

今は4位…?誰かに負けたのか?


「ヴァリエール家って、アグレナス諸国連合の…?」リリアが聞くと、フェリクスは微笑みながら頷いた。


「ああ、そうだ。アグレナス諸国連合の貴族だよ。あの決闘、僕たちも見ていたんだ。正直君が勝つとは思わなかったよ。でも、君が勝った…。そこで、レオンを倒した君と話してみたくてね。」


こいつ…イケメンだな…。

その物腰と容姿は、話し方も含めて男の俺もイケメンだと感じるほどだった。


フェリクスは手を差し出してきた。その手には力強さと、柔らかさが同時に感じられる。俺は少し警戒しながらも、その手を握り返した。フェリクスの握手は、貴族らしく丁寧だったが、隠された力を感じさせるものだった。


「君とは、仲良くやっていきたいと思っているんだ。気軽にフェリクスと呼んでほしい。」


彼の言葉には、ただの親しみ以上のものを感じた。


「ああ、こちらこそよろしく頼む。」

俺は軽く頷いた。


「それでこっちが…」

フェリクスがそう言うと、隣にいた大柄な男が前に出てきた。


「どうも、俺はルーク・バルデン。学園の第5位だ。よろしくな、アレイン。ルークと呼んでくれ。」


ルークは気さくな笑みを浮かべ、俺に向かって親しげに話しかけてきた。その明るさに少し気を緩める。


「それにしても、君も可愛いね。名前は?」

ルークはそう言いながら、リリアの方に目を向けた。彼はそのまま軽い調子で話しかける。


「リリアです…。」

リリアは突然のことに驚きながらも、少し警戒した様子で答えた。


ルークは大きく頷き、「いい名前だ!リリアちゃん、もし困ったことがあったら、いつでも俺に言ってくれよな!」と軽い口調で言った。


リリアは戸惑いを隠しながらも、少し笑って答えた。「ありがとうございます…。」


こいつ…チャラいな。


そのやり取りを見て、フェリクスが言う。

「ルーク、今日はアレインに会いに来たんだよ。」


そう言われたルークは、おーそうだったそうだったと言いながら、俺を見る。

「レオンを倒したなんて、大したもんだな!おれも見たぜ、あの決闘。すごい体術だった」


ルークはそう笑顔で言ってきた。


「正直おれは会いにくる気なんてなかったんだが…フェリクスが会ったほうがいいっていうから仕方なくな。それにしてもレイナちゃんの代理で出場できるなんて羨ましいぜ。」


なるほど…これがチャラ男ってやつだな。


「ルークは僕と同じアグナレス出身の貴族でね。こんな性格だけど、頼れる男だよ。」


フェリクスは微笑みながら言った。


俺は少し笑って応えた。「まあ必要があれば頼るさ。」


フェリクスは微笑みながら、「では、またどこかで会おう。君と共に戦う日が来ることを楽しみにしているよ。」と言い残し、リリアちゃんじゃあねと手を振るルークと共にその場を去っていった。


「優しそうな人たちでしたね。学園のランカーってもっと怖い人たちだと思ってました。」

リリアが二人の背中を見つめながら言う。


「ああ、そうだな。」

だが、立ち姿でわかる。二人ともかなりの実力者だ。順位ではレオンより下でも、そう大差ないんじゃないか。


フェリクスとルークが去った後、俺はリリアに向かって、何気なく疑問を投げかけた。


「そういえば、あいつら三位から四位になったとか言ってたけど、誰かに負けたのか?」


リリアは驚いたように目を見開いて、少し笑いながら答えた。


「え?アレインさんが二位になったからですよ?」


「……は?俺が?」


予想外の言葉に、思わず間の抜けた声を出してしまった。そんなはずはない。俺はレイナの代理として決闘を受けただけだ。代理戦での結果が、そんなことになるとは考えていなかった。


「待て待て、それはおかしいだろ。あれはレイナの代理だったんだ。普通、代理戦は無効じゃないのか?」


リリアは首を軽く振りながら、冷静に説明してくれた。


「いいえ、そういうわけじゃないんです。学園の順位は、誰かの代理であっても、その戦いで勝利すれば順位は変わります。要するに、相手より強いことを証明できればいいんです。」


「そんな…じゃあ、俺が二位ってことか。」


俺は驚きを隠せず、頭を抱える。まさか代理戦で順位が変わるなんて考えてもみなかった。けれど、それが事実なら、俺は今や学園の第2位ということになる。


リリアはクスッと笑いながら言った。


「おめでとうございます、アレインさん。学園の二位ですよ。」


「いや、まいったな…まさかこんな形で順位が上がるなんて。」


俺は心の中で苦笑しつつ、思わぬ結果に戸惑いを隠せなかった。


「じゃあ、これから決闘を挑まれるかもしれないってことか?」


「そうですね。一応決闘は一人による多くの決闘を避けるため、もし挑戦者が負けた場合、その挑戦者は半年間誰にも挑戦できなくなります。なので特定の一人がずっと来ることはないですが、多くの人が挑戦してくるかもしれませんね。」

まじかよ…レオンもそんな感じだったのか?…いや、あんな高圧的な奴に決闘を挑むやつなんていないか。



昼休みが終わり、授業が進み、いつの間にか放課後になっていた。教室は生徒たちが次々と席を立ち、談笑しながら帰り支度をしている。俺もノートを閉じ、何気なく荷物をまとめていた。


すると、静かな教室の中で一つの視線が動くのを感じた。レオンが席を立ち、まっすぐレイナの方へと歩いていった。彼の顔には、普段の高圧的な態度はなく、どこか落ち着いた表情をしている。


俺は、その光景を見つめながら立ち止まった。


「レイナ。」


レオンが彼女のそばに立ち、短く名前を呼んだ。その声に教室のざわめきが一瞬消え、何人かの生徒が気まずそうにその場を見守る。


レイナは目を上げ、少し戸惑った様子で彼を見つめた。レオンは、軽く頭を下げると、深く息を吸い込んでから言葉を放った。


「…今までのこと、謝る。お前やその周りにに無礼を働いたこと、そして、お前を陥れようとしたことも…悪かった。」


レオンの表情には、彼なりの葛藤がにじみ出ていた。これまで他人に頭を下げることのなかった男が、謝罪をしている。


レイナは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに冷静な表情を取り戻し、彼を真っ直ぐに見つめた。


レイナは少し息を整えてから続けた。


「レオン、お前には、私を陥れようとしていた理由があったのだろう。それでも、この結果が出た以上、謝罪を受け入れる。」


レオンは苦しげな表情を浮かべつつも、何かを言いたげに口を開いた。


「俺は…ずっと自分の力が全てだと思ってた。貴族として、刻印の持つ者として、力で全てを支配するべきだと。それが正しいと思ってた。けど、お前は違った。俺は…」


彼の言葉が途切れる。レオンは息を飲み込んで言葉を飲み込み、少しだけ目を伏せた。


「俺は…その考えが間違いだっのかもしれない。そして…貴族としての枠に当てはめて、おまえ自身を見ようとはしなかった。」


その言葉を聞き、レイナは一瞬彼を見つめた後、ゆっくりと微笑んだ。それはどこか複雑な感情が混じった笑顔だった。


「レオン、あなたが何を信じ、どう考えてきたかは私には分からない。だが、あなたがこうして謝罪してくれたこと、それが一番大事なことだと思う。」


レオンはその言葉にしばし黙り込み、ただ静かに頷いた。


「…ああ、そうだな。」


レオンがレイナに謝罪を終え、教室の出口へ向かおうとした時、ふと足を止めた。彼は背中越しに、今度はアレインに視線を向ける。しばらく無言でアレインを見つめた後、重い口を開いた。


「アレイン…お前にも一言言っておく。」


おれはその言葉に少し驚きながらも、静かにレオンの方を見返した。レオンの顔にはいつもの傲慢さがなく、どこか真剣な表情が浮かんでいた。


「…お前をずっと無能者だと見下していた。だが、おれはお前に負けた。」


レオンは一瞬、何かを噛み締めるように言葉を切った後、再び視線を真っ直ぐアレインに向けた。


「俺にできなかったことをお前がやってみせた。…それは、俺にとって悔しいことだが、決闘での結果は事実だ。」


おれはその言葉に微笑みも浮かべず、ただ真剣にその言葉を聞いていた。


「だが、俺はいつか必ずお前を超えるぞ、アレイン。」


その言葉におれは目を細めたが、何も答えなかった。レオンは短くそう言い残すとそのまま静かに教室

を去り、扉が閉まる音が響くと、教室には再び静けさが戻った。


「レオン、初めてアレインの名前を呼んだんじゃないか?」

ん?そうだったか?確かに無能者としか呼ばれてない気もするが…


レイナは息を吐き出し、椅子に座り直して静かに荷物をまとめ始めた。


「…ようやく、終わったな。」


俺はぼんやりとした口調で呟き、レイナに軽く目をやった。


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