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灰の刻印  作者: dae
第1章 学園編
12/15

第11話ーレオン・アルシード

5人のレオンが俺を取り囲む。

激しい息遣いが互いに交わり、闘技場全体に緊張感が漂っていた。観客たちのざわめきが遠のき、俺の視界にはレオンの不敵な笑みと、その分身たちが浮かび上がる。全員が実体を持ち、すべての攻撃が鋭く、そして正確だ。


「ぶっ殺してやる!」レオンが叫び、その声に合わせて5人のレオンが一斉に動き出した。


『万象連鎖!』


まず1人目が斧を振り上げ、正面から真っ直ぐ俺を狙ってくる。俺は一瞬、斧の軌道を読み取り、右に体をひねってかわしたが、すぐに左から2人目が突き出してくる。背後に目があるかのような連携だ。


俺は間一髪でその攻撃を魔力で纏った腕で受け止めたが、強烈な衝撃が全身に走る。

重い!

魔力の防御を貫かんとする強さだ。


「さっきの威勢はどうした!」レオンの嘲笑が響く中、俺は息を整え、カウンターを狙う。しかし、次の瞬間にはもう3人目のレオンが接近し、俺の横腹に強烈な蹴りが炸裂した。


「ぐあっ…!」

強烈な衝撃が体を襲い、俺は後方に吹き飛ばされる。地面に転がりながら、すぐに立ち上がろうとしたが、今度は上空から4人目のレオンが飛びかかってくる。空中で斧を振り下ろすその姿が視界に映る。


「間に合わねぇ!」


俺は咄嗟に両腕を魔力で強化し、斧の一撃を防ぐ準備をした。しかし、完全には防ぎきれず、斧の衝撃が右腕に伝わる。


「ぐっ…!」

右腕に鈍い痛みが走る。さっきの攻撃で筋肉がダメージを受けたのか、指先が痺れている。

連鎖的に分身たちが切り替わり、絶え間なく連撃が続く。それが『万象連鎖』という技だった。


「限界か?無能者!」レオンが冷笑を浮かべる。奴は余裕を見せつけるように、再び一斉に攻撃を仕掛けてくる。


今度は、4人が俺を取り囲むように動き、中央から俺に向かって斧が同時に振り下ろされる。くそっ、これは防ぎきれない!


俺は瞬時に判断し、足に魔力を集中させて爆発的な瞬発力を生み出した。「飛天」

俺は飛び上がり、地面すれすれで迫ってきた斧を避ける。


「馬鹿が!空中に逃げ場ねぇぞ!」


5人目の飛び上がり、俺を地面に叩き落とそうとする。


だが俺は、は足元に魔力を集中させ、それを瞬時に外へ解放することで空中を飛ぶように動き、レオンの背後に回った。


「こいつ、空中でジャンプを…!」


鬼蓮墜(きれんつい)

おれは魔力を足に纏い、かかと落としでレオンを地面に叩きつけた。

そのレオンは頭から地面に直接し、しばらくして消滅した。


「まず1人目…」

1人目のレオンを倒した後、俺は一瞬立ち止まり、呼吸を整える。砂埃が舞う闘技場で、他のレオンたちは未だに俺を睨みつけているが、ここで一つ聞いておきたいことがあった。


「お前に一つ、聞きたいことがある。」


レオンは汗をぬぐいながら、不敵な笑みを浮かべた。


「はっ、今さら話すことなんてないだろ。お前を潰すだけだ。」


「いや、それでも聞きたい。なぜそこまでレイナにこだわる?彼女はお前にとって何なんだ?」


おれの問いに、レオンは一瞬戸惑った。だが、すぐにその表情は怒りに変わる。


「こだわるだと…?お前には分からねえだろうな…!」


レオンは低い声で言い、斧を地面に叩きつけた。その瞬間、彼の目が暗い感情で燃え上がる。


「レイナ・フェルクレア…あいつはいつも俺の前に立ちはだかった。貴族の名門。その存在だけで全てを手に入れてきた奴だ。俺がどれだけ努力して強くなっても、結局、立場と家名が全てを決める。」


レオンの声が荒くなる。


「俺は5歳の時に刻印の力を引き出した。それからはずっと…勝ち続けた。だが、貴族としての立場が上なだけで、レイナみたいな奴らには勝てない。親父がレイナの親父に頭を下げてるのを見たとき、俺は知ったんだよ。俺がいくら実力で勝っていても、やつらには絶対に届かねえ。…それが我慢ならなかった!」


レオンの瞳が強い憎悪で満ちていた。彼の握る斧が震える。


「だから、お前はレイナを陥れようとした…か。」


アレインは冷静にレオンを見据えながら、問いかける。


「お前はただ、自分が強いと証明したかったんだろう?実力を認めさせたい、それだけのために…」


「黙れ!」


レオンは激昂し、再び斧を前に突き出した。


「力こそが全てだ!強者こそが支配し、弱者はただ踏みつけられる。それがこの世界の真理だ!レイナは俺より弱い。それなのに、あいつの血統や立場だけで俺の上にいる。それが許せねえ!俺は力で証明しなきゃなんねえ。俺が本当に上に立つ者だと!」


レオンの叫びに、アレインはしばらく沈黙していた。そして、静かに口を開いた。


「お前は…本当にそれで満足するのか?」


レオンはその言葉に顔をしかめる。


「何だと?」


「お前が言う力が全てってのは、ただの自己満足だ。本当の強さは、仲間や誇りを守るために使うものだろう。お前はただ、自分のプライドのために戦っているだけだ。」


アレインの言葉は冷静だったが、鋭く心に突き刺さるような力があった。


「強さを証明するために誰かを踏みつけることなんて、真の力とは言えない。レイナに勝ったとして、それでお前は何を得るんだ?」


「黙れ!お前には何もわからない!俺の力を…俺の苦しみを!」


レオンは再び斧を振り上げ、攻撃を仕掛けようとする。しかし、アレインは鋭い目でレオンを見つめ続けた。


「お前が本当に苦しんでいるのは、力そのものじゃない。お前が戦っているのは、他人じゃない。お前自身だ。」


レオンの攻撃が一瞬止まる。その言葉に、彼の心が揺れたのが見て取れた。彼の斧がわずかに下がり、鋭い瞳には葛藤の色が浮かんでいた。


「俺自身…?何を…言っている…?」


レオンの心には、ずっと押さえつけてきた何かが動き出していた。幼い頃から強さにこだわり続けてきた理由、その根底にある孤独と虚しさ。だが、彼はその感情を認めたくなかった。


「俺は…強くなりたかっただけだ。それが全てだ。」


だが、その言葉に説得力はなかった。レオンは激しい呼吸を繰り返しながら、頭を振る。


「お前は、自分の強さにこだわりすぎた。それが全てだと信じ込んでいるから、こんな無駄な戦いを続けてるんだ。」


おれの言葉に、レオンは歯を食いしばる。


無駄な戦いだと?違う、そんなはずはない。力こそが真実だ、俺は強者だ。だからこそ、強くなければならない。


だが、アレインの姿を見るたびに、心の奥底でずっと燻っていた感情が、今ここで炙り出された。初めてアレインを見たときから、何故だか分からないが、彼を一目で嫌っていた。


最初は、無能者だと笑い飛ばすだけの存在だと思っていた。だが、戦えば戦うほど、彼の姿勢に苛立ちが増していた。アレインは、他人の立場や力に怯えることなく、まっすぐ前を向いて戦っていた。自分が貴族であろうが、学園でどれだけの実力を持っていようが、アレインはまるでそれを気にも留めていない。


「こいつは、いつだって…臆していない…」


自分はどうだ?いくら力をつけても、立場が上の連中には強く出ることができなかった。あいつらの後ろ盾や血統を気にし、気づけばずっと自分の力を押さえつけられていた。


「そうか…そういうことだったのか…」


心の中でずっと渦巻いていた怒りと苛立ちの正体が、今、明確になった。


俺はアレインを見ていると、自分の弱さを突きつけられているようだったんだ。こいつは、俺が貴族としての立場を気にして生きている姿そのものを、否定しているように感じたんだ。俺は、そんな自分を見せたくなくて、ずっと自分の中で否定し続けていた。


「お前が…俺の邪魔なんだよ…」


レオンは自分の内なる葛藤に気づき、アレインを見るたびに感じていた嫌悪の意味を理解した。アレインは、自分が持てなかった勇気と自信を自然に持っている。だからこそ、レオンにとってアレインは許しがたい存在だった。


「俺は、お前みたいに生きることができなかったんだ!」


レオンの叫びが場に響き渡る。怒りと共に、その言葉にはどこか苦しさがにじんでいた。力だけでは満たされない空虚さ、それに気づいた瞬間、アレインの姿がより一層、レオンの心を抉った。


おれはただ静かにレオンの言葉を聞き、何も言わずに彼を見据えていた。


「お前を殺して…証明する…!おれが間違ってねえってな!」

レオンがもう一人分身を出し、再びレオンが五人になる。


「それが本当にお前の望みなら、俺を倒してみろよ。…それにな」

俺は知っている。放課後、毎日懸命に訓練するレイナの姿を。


「レイナはお前が思ってるほど、弱い奴じゃないぞ」


「黙れ!」


観客たちが息を呑む中、レオンと俺は激しくぶつかり合った。五人のレオンが一斉に押しかかってくる。俺はその猛攻をかろうじて防いでいるが、体にはすでに何度か斧がかすった傷ができ、痛みが走る。


(分身を出すだけでもかなりの魔力を消費する…。さすがにこれ以上分身は増やせねえ。)

レオンは内心、これ以上分身を出せないことに焦っていた。


「また五人か…」俺は息を整え、集中力を高める。分身を増やしたところで、すでに連携のパターンは見切っている。


前方の一人のレオンが斧を振りかぶり、同時に左右から他の分身が挟み込むように攻撃を仕掛けてくる。その一瞬、俺は体を低く構え、右に回り込む。振り下ろされる斧の軌道を読み切って、魔力を纏いカウンターの拳を放った。


「1人目…」


(こいつ…!さっきより早い!本気じゃなかったのか!?)


拳が一人目のレオンの腹部に直撃し、打撃音が会場に日々渡った後、まるで煙のように消え去った。観客席から驚きの声が上がるが、俺はまだ集中を切らさない。残り四人、油断はできない。


次の瞬間、左側から二人目のレオンが魔術を詠唱し始めた。俺はすかさず飛び込んで距離を詰め、掌に魔力を纏わせた鋭い打撃を浴びせる。中級魔術の詠唱が途切れると同時に、分身がまた消え去る。


「2人目…」


「なっ…!」レオンが驚愕の声を上げた。立て続けに二人も分身がやられて驚愕しているようだった。


(早くなったんじゃねえ、すでに俺の連携を見切ってんのか!しかもこいつ…さっきから一撃で…! 分身は中級魔術を食らっても消えないくらいの耐久力があるんだぞ! こいつの攻撃には中級魔術以上の威力があるって言うのか…!)


だが、俺は応じない。分身の連携を見切り、的確に動いているだけだ。今は、無駄な動きや迷いを削ぎ落とすことが重要だ。


三人目のレオンが突進してくるが、そのタイミングさえも見切った。斧を振り下ろそうとする前に、魔力を込めた掌底を顎に叩き込む。分身がまたしても崩れ去る。


「3人目…」


レオンの顔が蒼白になっているのが分かる。連携が崩れ始めた。残り二人の分身も、もはや無意味な攻撃を繰り返しているように見える。すでに俺の動きを捉えられていないのだろう。


「これで…終わりだ!」


四人目のレオンも、一瞬の隙をついて拳を叩き込み、消え去る。残りは一人、本体だ。


「4人目…」


俺は最後のレオン――本体と向き合った。


レオンは動揺を隠しきれない。汗が額を伝い、彼の息は荒くなっていた。分身の消滅が彼の集中力を削ぎ、本体の動きも明らかに鈍くなっていた。


「さぁ、どうするレオン?まだ続けるのか?」


レオンは鋭い目で俺を睨んだが、その目には焦りと苛立ちが混ざっていた。レオンがかすかに笑った気がした。


「ふざけんな…どこが無能者だ…」


レオンが残った力を振り絞り、斧を振りかぶる。しかし、その攻撃はすでに読めていた。俺は冷静にその一撃をかわし、魔力纏った渾身の掌底を両手でレオンの腹に叩き込んだ。


双狐掌(そうこしょう)!!』


破裂音、打撃音が会場に響き渡り、レオンが膝をつき、静かに崩れ落ちた。その瞬間、闘技場は歓声に包まれた。


観客席からは「アレイン!」「すげぇ!」といった歓声が次々と上がり、場内は熱狂に満ちていた。俺は息を整えながら、倒れたレオンを見下ろした。


「これが俺の答えだ、レオン。」


レオンはそのまま動かず、決着はついた。俺は自分の勝利を実感しながら、静かに拳を下ろした。

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