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灰の刻印  作者: dae
第1章 学園編
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第9話ー鏡像と無能者

決闘の日、場所は普段の訓練場ではなく、特別に闘技場が用意された。なぜなら、今回は学園第2位である「鏡像レオン・アルシード」と、「無能者アレイン」の戦いだったため、見たいと希望する学生が多く、普段の訓練場だと入らなくなったためだ。まさに注目のカードと言えた。生徒たちの間でオッズがかけられ、俺の勝利に賭ける者はほとんどいない。

少し寂しい。


おれが着ている学園の訓練服は、ダークグレーを基調としたシンプルかつ洗練されたデザインだ。ジャケットは長袖で、体にフィットするタイトなシルエット。肩の部分には銀色のラインが走り、動きやすさを重視した構造になっている。胸元の左側には、灰の盟約のシンボルが刺繍されている。シンボルは、灰の中から蘇る不死鳥を象徴する翼を広げた鳥が描かれ、銀色に輝いている。動きやすいし、正直めちゃくちゃかっこいい。




闘技場に向かうと、闘技場は既に熱気に包まれていた。観客席には学園の生徒たちが所狭しと詰めかけ、次々と飛び交う声援や賭け事の話題が闘技場全体を賑わせていた。


「やっぱりレオンが勝つに決まってる!あいつは第2位だぞ!」

一人の生徒が興奮気味に叫ぶと、近くにいた生徒たちが頷き、口々に賛同の声を上げた。


「アレインは無能者だろ?レオン相手じゃ勝てないさ!」

別の生徒が笑いながら言い、周りもその言葉に同意している。


オッズ表が掲示され、観客たちは熱心にそれを見つめていた。レオンの勝利は圧倒的な支持を集め、賭け金もどんどんと積み上がっていく。


「おれはレオンに賭ける!アレインが勝つ確率なんて皆無だろ?」

賭けを呼びかける声が響き、どこかから笑い声が起こる。オッズ表では、レオンの勝利がほぼ確実視されており、アレインに賭ける者はほとんどいなかった。


「やっぱりレオンはすげえよな。おれもレオンに全部賭けたぜ!」

「おいおい、アレインに賭けたやついるか?いたらすごい度胸だよな!」

観客たちの間で、冗談交じりにアレインを貶す声が飛び交う。


しかし、その一方で、アレインにかけている者も少数だが存在していた。


「アレインが勝つかもしれないぞ…おれ同じクラスなんだけど、あいつは強い気がする。」

「いや、それはないだろ。レオン相手じゃさすがに厳しいって。」

そんな会話も耳に入るが、大多数の声はレオンの圧勝を予測している。


観客たちは、賭けや声援に夢中になりながらも、闘技場の中心で繰り広げられる戦いに期待を高めていた。俺は自分自身の意志と誇りを胸に、これからの決闘に臨む準備を整えた。



闘技場内のとある部屋でレオンと俺は向かい合っていた。立会人としてオルフェウス先生が、その鋭い目で俺たちを見守っている。おれは一応レイナの代行者という立場なので、俺の隣にはレイナが立っている。俺たちの間には、まるで世界から切り離されたような緊張感が漂っていた。


「さて、決闘にあたり、互いに何かを賭けることができる。」オルフェウス先生は静かに告げる。「レオン・アルシード、アレイン、それぞれ何を賭けるか宣言してもらう。」


レオンはすぐに言葉を発した。「俺が勝ったら、アレイン、お前にはこの学園を去ってもらう。退学だ。」


「レイナ、なにか賭けたいものはあるか?」

おれは一応代行者だからな、決めるのはレイナだ。


「…実際に戦うのはお前だ…。お前が決めてくれ。」

レイナは申し訳なさそうに言った。俺が代行者になったこと、気にしてるのか。


おれは少し考えて「俺が勝ったら、レオン、お前はレイナに謝罪するんだ。今までのすべてを、誇りを持って詫びることをかける。」


オルフェウス先生は頷き、その宣言を認めた。「条件は決まった。決闘の開始は合図により行う。それまで、各自準備に入れ。」


そう言い終わるや否や、レオンは部屋を出ていった。


おれたちも行くか…。


「まさかレオンと決闘するなんて、驚いたよ。」


部屋を出ようとすると、オルフェウス先生に声をかけられた。


「まぁ、なりゆきで…」


「これで君の実力が見れる。楽しみにしているよ。アレイン」


「おれは、ただ全力で戦うだけです。」

おれはそう言い残し、レイナと共に部屋を後にした。


俺たちは一旦その場を離れ、それぞれ控え室へと向かった。俺の控え室にはレイナ、リリア、そしてルーカスが待っていた。


「アレインさん、絶対勝てるって信じてます!」リリアが明るく励ましの声をかけてくれる。


「無理はしないでね。でも、君ならやれるって信じてる。」ルーカスは少し心配そうに言いながらも、俺を応援してくれている。


「もしかして、2人とも俺に賭けたの?」

2人が俺にかけたんなら、ぜひ勝たせてやらんとな


「え、賭け事なんてやるわけないじゃないですか」

「その通りだ」


リリアとルーカスはきっぱりそう言い切った。

なんだよ…


レイナは一瞬口を開くが、言葉を詰まらせ、そして静かに言った。「…本当にすまない。でも、ありがとう。必ず勝ってくれ。」


俺は一人ひとりに感謝の気持ちを込めて軽く頷いた。

友達と可愛い女の子2人から応援されているんだ。負けられないな。


「じゃあ、行ってくる。」


黒いガントレットを装備し、闘技場に入ると、観客が歓声をあげた。レオンが既に中心に立っていた。背中に2本のいかにも業物そうな手斧をかけ、少し俺より背の高い彼は自信満々の表情を浮かべ、俺を見下ろしていた。俺は彼に何も言わず、その場に立ち、オルフェウス先生の言葉を待つ。


「レオン!見せてやれ、圧倒的な力を!」

観客席からレオンに向けて、力強い声援が飛ぶ。レオンはその声に応じるかのように観客席を一瞥し、冷たい笑みを浮かべた。


「やっぱりレオンさんだな。どうせあの無能者はすぐに終わるさ!」

誰かが叫び、笑いが起こる。レオンの取り巻きたちはその声に得意げに頷いている。


一方、俺に向けての声も少数ながら聞こえてきた。


「アレイン、負けるな!君ならできる!」

リリアやルーカスの声援が、他の観客の声にかき消されながらも届く。俺の胸には、彼らの期待と信頼が確かに響いた。


「アレイン!やれるさ、頑張れ!」

観客席から、わずかに励ましの声が上がる。

あれはたぶん、俺を応援してると言うよりレオンのことが嫌いな層だな。


「無能者がどうやってレオンに勝つってんだ?せいぜい数分で決着だろう!」

そう言い放つ声に対し、俺は軽く息を吐いて無視した。どう言われようと、ここで俺が見せつけるのは言葉ではない。戦いの中で証明するしかないんだ。



オルフェウス先生が手を上げ、厳かな口調で述べる。「ここに、アレインとレオン・アルシードの決闘を執り行う。名誉と誇りをかけた一戦である。両者、口上を。」


レオンが一歩前に出て、淡々と口上を述べる。


「大いなる灰の都市の名に誓い、その誕生と共に我らが受け継いだ意志を、ここに示す」

彼の声には、灰の盟約の一員としての自負が滲んでいる。


俺はその言葉を受けて、一歩前に進んだ。


「古の戦火を乗り越え、灰の中から蘇った我らの誓いを、この戦いに捧げる!」

俺もまた、静かだが力強い決意を込めて続ける。


レオンがさらに言葉を紡ぐ。

「灰に沈んだ都市の礎に立つ我らが、誓いを破ることなく、ただ力のみが勝者を導く」


俺もその流れを受けて叫ぶ。

「盟約に忠誠を、誇りを守る者に栄光を!この一戦に全てを懸ける!」


そして、二人同時に高らかに声を合わせた。


「「灰の盟約の名において、決闘、ここに始める!」」


その瞬間、闘技場全体が静まり返ったかと思うと、観客たちの熱気が一気に高まった。灰の盟約の誓いと都市の歴史に敬意を払い、俺たちは全力でこの一戦に挑む覚悟を固めた。


「全力で行く。」


レオンはにやりと笑みを浮かべ、低い声で言った。「お前の終わりはここだ、無能者。」


だが俺は目を逸らさず、ただ一言返す。


「見ていろ。俺が勝つ。」


俺とレオンは距離をとって、中央で向かい合った。

その瞬間、闘技場全体が静まり返り、決闘が始まろうとしていた。重々しい音が静寂を引き裂き、全てがこの瞬間に向けて集中していく。レオンと俺はそれぞれ構える。おれは黒いガントレットを装備した腕を前に出し、レオンは2本の手斧を背中から抜いた。

両者の準備ができたのを見て、オルフェウス先生が開始の合図をならす。


「それでは、始め!」


闘技場に緊張が満ち、決闘がついに始まった。オルフェウス先生の合図と共に、俺とレオンは同時に動き出し、一気に距離を詰める。


レオンの斧が空を裂き、俺はそれを紙一重で避けながら、反撃のチャンスを狙う。強力な一撃が繰り返されるたびに、周囲の空気が切り裂かれるようだった。観客たちは息を呑み、見守る中、俺たちは何度も攻防を繰り返した。

さすがに学園2位なだけあるな。荒々しく見えるが洗練された動きだ。


最初は、誰もがレオンの圧倒的な力に目を奪われていた。しかし、次第に俺の動きにも観客の視線が集まり始める。


「えっ、あの無能者…避けたぞ?」

「なんだあの速さ!」


まだまだこんなもんじゃないぞ…!


砂埃が舞い、俺は足を踏み込んでさらに素早くレオンの斧の一撃を躱す。次々と飛び出す彼の攻撃を魔力を纏った腕で受け流し、空いている隙に拳を打ち込んでいく。それをレオンはもう片方の斧で防御する。一進一退の攻防が続いていた。


観客たちがざわつき始めたのが分かる。誰から見ても、その実力は互角だった。


「アレイン…動きが速い!あれが無能者かよ!」

「レオン!本気出せ!」


だが、レオンはまだ余裕の表情を浮かべていた。その顔に陰りが差し、次第に笑みが消えていく。


「思ったよりはやるじゃねぇか…だが、勝負はここからだ」レオンは低い声で言い、手を上げた。


『ファイア』


その瞬間、レオンの手から放たれた火魔術が、空気を裂きながら俺の方に向かってきた。

初級魔術とはいえ、無詠唱かよ!


「くっ!」俺はとっさに身を屈め、全力でその魔術を回避する。だが、その衝撃で周囲の砂が舞い上がり、視界が一気に遮られる。


砂埃が闘技場を覆い、観客たちも一瞬何が起きたか分からずに騒然とした。そして、砂がゆっくりと消えていくと、視界がクリアになり――驚くべき光景が目の前に広がった。


!…レオンが…4人…!


レオンが四人に増えていたのだ。


「なんだ、あれ…!?」

「レオンが増えた!?どういうことだ!」


観客たちは驚愕の声を上げ、俺も思わず目を見開く。4人のレオンは冷たい笑みを浮かべている。鏡像の刻印――その本領を発揮する瞬間が、ついに訪れたのだ。

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