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ドナルドソン侯爵領に向かう

「奥様、ダメですよ。ぜったいにダメです」

「大丈夫だって。いつものようにひとりで行ってきたいの」

「旦那様から、『かならず馬車に乗せて行け』ときつく言われているのです」


 雑用人のイアン・ファルコナーは、腰に手を当てわたしの行く手を阻んでいる。なんと、フィリップの物真似まで披露して。長身で精悍な顔をしているイアンは、街でもレディたちに大モテである。それどころか、屋敷のメイドたちの人気の的でもある。


 その彼が、いつものように馬で行こうとするのを邪魔をしてきた。


 フィリップが言ったように、馬車でちんたら行くより馬を走らせた方が速いにきまっている。


 イアンは、というよりかフィリップは、見抜いていたのだろうか。わたしが馬車を用いずに馬で行くということを。


 正直なところ、ここで「馬車に乗る乗らない」で言い争いをする時間がもったいない。


 フィリップは、すでに彼が言っていた「所用」とやらに出かけていて不在。このまま強行突破しよう。


 生真面目でまっすぐなイアンには、賄賂や泣き落としなど通じないだろうから。


「とにかく、そこをどいてちょうだい。わたしは、行かなければならないの。お願いよ、イアン」


 いまのわたしは、まるで魔界に魔王討伐に向かう勇者みたい。


「ですから、危険なのです。ひとりで行くだなんて危なすぎます」


 イアンは、その勇者を引き留めるパーティーのひとり。


「だったら、あなたも来てちょうだい。あなたは、わたしの護衛。それでいいでしょう?」


 仕方がない。万が一にも盗賊に襲われたとしても、わが身と彼を守るくらいならなんとかなる。


 彼の言葉尻をすかさず捉え、そう提案した。


 結局、わたしは押し通した。


 イアンと馬に乗り、一頭の背にふたり分のトランクをくくりつけ、ドナルドソン侯爵家を出発した。




「ブラック・ウルフ」は、いつものようによく走ってくれる。 イアンからきいたところによると、「ブラック・ウルフ」は馬体が小さいのと性質があまりよくない為競走馬になれなかったらしい。


 その彼を調教したのがフィリップで、本来なら彼の愛馬として軍に連れて行くところをフィリップ以外の人間には慣れないという理由で、ドナルドソン侯爵邸に置いているという。


 馬好きは、馬もわかる。わたしが無類の馬好きであることを、「ブラック・ウルフ」もわかっている。だから、最初から相性がよかった。わたしは、ここに来てからというもの遠出や気分転換の乗馬の際には彼に乗せてもらっている。

 

 わたしの持論は、馬に乗るではない。あくまでも馬に乗せてもらう、である。


 今朝も「ブラック・ウルフ」の走りは最高で、イアンの乗る「ダーク・シャドウ」も軽快に走っている。荷物を運んでくれている「レッド・ノーズ」もまた、機嫌よく走っている。


 三頭のお蔭であっという間にふたつの領地を走り抜けることが出来た。


 カニングハム王国は、広大な国土を誇っているわけではない。しかも国の半分は人間や動物をよせつけない大自然。それでも人間のいるところの土壌の質は良く、しかも鉱山も多い。だからこそ、この大陸でも一、二位を争う国力を誇っている。


 順調に進み、いよいよ難所のひとつにさしかかった。


 ホーン山、である。ただの山、と言えば山なのだけれど、とにかくいろいろな意味でヤバい山なのである。


 とくにキャラバンや貴族たちの移動は大変。


 最近の噂では、とくにヤバくなっている。


 荷や金貨だけではない。レディや子どもはもちろんのこと、男性でさえさらわれて売られてしまう。


 そこを通過しなければならない。


 山の麓の町で馬たちを休ませた。それから、いよいよ山に入った。陽が暮れるまでに通過しなければならない。当然のことだけど。


 道じたいはさほど険しくはない。ずっと昔から街道として使われているだけあり、馬車でも通れるだけの道幅がある。いくつかある橋は、いまにも落ちてしまいそうとか人ひとりしか通れないとかではない。


 だからこそ、馬を駆って走り続けられる。そして、実際いまもそうしている。


 が、悪党どもは見逃さない。


 いつも通り乗馬服の上にフード付きの外套を羽織っている。イアンも同様である。荷は上に藁をのせ、カモフラージュしている。


 パッと見は、レディということや貴族に所縁のある者とはわからない。


 しかし、すでに悪党どもは気がついている。わたしがレディだということに。


 ふもとの町には悪党どもの手先となっている者がいるし、見張り番がいる。そういう連中は、くまなく探っているのである。


 獲物になる通行人を。


 そして、わたしたちは目をつけられた。


 山に入ってすぐ気配を感じた。しかも十人や二十人の数ではない。さらには、よほど首領の統率力がすぐれているのか系統だっている。


 途端に後悔した。

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