8.ストーカーの噂
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泥木町得鉄の定点よりX-22Y-13の地点に「ストーカー」の目撃情報あり
至急調査を開始せよ
泥木町の町長「浅光拓蔵」氏の自宅で謎の女性の遺体が発見された。
調べると遺体の身元は私立探偵の「十号利華奈」だと分かった。
彼女は元女優であり、また政界の大物との噂もあった人物ということもあって、拓蔵氏かその息子と愛人関係にあったとの噂が騒がれた。
実際にどうだったかは結局判然とせず、警察も「事故死」と判断したが、おそらくこのスキャンダルのあおりであろう、拓蔵氏は議員を辞職してしまった。
「探偵にストーカーがいたの?」
時田衣名は僕に問いかけた。
「周りの人はそう言ってるみたいだよ」
僕はそう答えるよりほかなかった。
「誰にでもいるんじゃない。誰かを延々追いかけることに根気以外の何も必要ないんだし」
「もう…やめてよ」
衣名は背筋が寒くなったようだった。
僕達は十号利華奈のストーカーとされる人物を探していた。
芸能ニュースには疎い僕だったが、噂の検証には駆り出されるのがさだめだ。
僕達は少し入り組んだ聞き込みを行って、分かったことをまとめた。
彼女は周囲の人物に「誰かに見られている気がする」と不安そうに話していたそうだ。
「同業者かもしれない」とも。
しかし、彼女と浅光町長との関係性は全くないようだった。
ある喫茶店の店主が「マスクに帽子という風貌の女が彼女について聞いてきて、正直に『知らない』と答えると、すぐに出て行った」と教えてくれた。
…随分色々聞きまわったが、分かったのはこれだけだった。
やはり記者のリサーチ力にはとても敵わないと悟って、僕達は上司の神谷に報告した。
結局この件は僕たちの手から離れていったのだった。
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「そういえば、例のストーカーの件はどうなったの?」
「ああ、どうも妙なことになっているようだ。あの十号という探偵、あまりに情報が少ないらしい。家族も親戚も一人も見つからない。寝床はあったが身分証明の類は何もない。本名なのかも疑わしい」
「へえ、それで?」
「唯一の手掛かりがこれだ。『日本外来生物情報啓蒙会』とやらのパンフレット。これもまた、存在しない団体だった」
「…流石にそれじゃ手詰まりだね」
「そしてこの写真。一体何なんだろうな、これは」
一枚の写真。
そこは体育館のような場所で、十号利華奈が映っていた。
13人。
13人の「十号利華奈」が、映っていたのである。