7.花子さんの噂
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苑内市吾良の定点よりX-107Y64の地点に「花子さん」の目撃情報あり
調査を開始せよ
僕は逃げている。
時田衣名は既に気絶していて、僕は彼女を連れて独りで逃げている。
何からか?
吾良小学校の2階のトイレの一番奥から出てきた「何か」から。
僕と彼女はタクシーに飛び乗って逃げる。
運転手が「どこまで行きます?」と聞いてきて、僕は「駅まで」と返した。
「彼女さん大丈夫?病院までいってもいいよ?」
「いえ…その、実は『お化けが出た』って言って気絶しちゃっただけなんです」
「え?」
まだ「何か」が追ってきている。
僕は適当にそう返事したのだ、が。
「…小学校?」
「え?」
僕は驚いたが、そうだと答えるわけにもいかなかった。
「千坊トンネルって心霊スポットです。けど、小学校って?」
「ああそう、心霊スポットは知らないんだけどさ…吾良小学校ってのがあるんだけど。あそこ出るんだよ。私そこの出身でね」
「何か」は迫ってくる。
「2階のトイレの一番奥だったかなあ。女子トイレでさ、女の子の幽霊が出るって噂があってね。私の同級生が見に行くって言ってさ。私はトイレの外で待ってて」
衣名が目覚めたようで、小さく声を上げた。
「ん…?何?ここ…赤…?」
僕はタクシーのドアを蹴り開けて、衣名と共に飛び出した。
予想に反して、そこは硬いアスファルトではなくあぜ道だった。
どころか、何のスピードもなかった。
僕と衣名はただただ、そこに転げ出ただけだった。
僕はタクシーを見た。
そこにはボロボロに朽ちた放棄車両があった。
その運転席に、何かがいる。
「そしたら中から聞こえてくるんだよ、はーなこさーん!って。私怖くなっちゃって。あの子には申し訳ないんだけど、こっそり逃げ出しちゃったんだ」
何かは喋っている。
いや、「何か」?
その後、「何か」は追ってはこなかった。
僕と衣名は逃げ帰り、しかし僕だけは次の日に吾良小学校を再び訪れた。
「協力者」の手引きで、夜の校舎の2階のトイレの一番奥へ。
ノックを3回、呼びかけを2回。
「はーなこさーんはーなこさーん」
「はーい」
間延びした高い声がした。
僕がトイレのドアを開けると…そこには誰もいなかった。
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「まず中を確認しようとして、トイレのドアを開けたら『何か』がいたんです」
「ほう。つまり…呼び出す儀式をやると『花子さん』が、やらないと『花子さんでない何か』が現れるということか」
上司の神谷は猫をなでながら話す。
その手には引っかき傷がいくつもついていた。
「それでは…まるで守り神みたいだな、その『花子さん』とやらは」
「…そうですかね」
僕の心にはまた違う感想があったが、それを彼に話すことはなかった。