2.失せものの噂
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大久井市来部の定点よりX-19Y-34の地点に「失せもの」の噂あり
調査を開始せよ
来部駅裏の駐車場の傍の草むらには何故かよく遺失物が落ちている、という。
僕は時田衣名と共に噂の検証に向かった。
それはどうやら本当らしかった。いや、聞いていた以上だった…財布、スマホ、ストラップ、キーケース…交番の落とし物籠のようにまとまってそこに落ちていた。
二人で調査していると、突然柄の悪い三人の男がやってきて僕は囲まれた。
僕にこの場を立ち去るように要求してきたが、僕は従わなかった。
すると男の一人が何の前触れもなしに僕の左頬を殴り飛ばした。
僕は不意を突かれ…ここから記憶がない。
気づけば僕は衣名と二人で草むらに倒れていた。
彼女が乱暴された様子はなかった。
きっと驚いて気絶したのだろうと思い、僕はひとまず立ち上がってあたりを見渡した。
当然三人はもういなかった。
だが…遺失物はおそらく一つもなくなっていなかった。
顔を見られたと思って何も盗らずに逃げたのだろう。
僕達はそこに落ちていたものを拾い、明らかに訝しがっている警察官の視線を浴びつつ交番に届けて帰った。
帰り際に衣名が妙なことを言った。
あの三人は僕を殴った後、急に無表情になって彼女を無視して草むらの方を見た。
すると突然「落としまーす!」と三人同時に叫んだかと思うと、一瞬でその場から消えてしまったというのだ。
彼女は信じられない光景を見たせいで気絶してしまい、その後のことは分からないという。
僕は彼女を家まで送り、しかし何か確信めいたものがあって、再び一人で駐車場へ赴いた。
物陰からずっと見ていると…あの三人がやってきた。
三人は「落としまーす!」と叫び、それぞれ何かを草むらに3つ4つ落として、そして一瞬にして「消えた」。
近づいてみると、そこには小銭入れや硬貨、名刺入れなどが落ちていた。
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「警察内部の知り合いに確認が取れた。お前を襲った3人は窃盗の容疑者で、彼らも行方を捜してるようだ」
僕は三人に囲まれた際、さりげなく動画を回していた。
「この件、いまいち全容を掴みかねる。調査してみて感じたことを聞きたい」
言いながら神谷は腕組みを解いてコーヒーに口をつける。
僕は所謂「考察」、しかし「確信めいたもの」を開陳するか迷って、しかしその割に言語化には困って、
「『捧げ物』だと思います。あの遺失物たちは」
とだけ呟いた。