二章 殺意の持ち方 ①旧友
書いていきます。この章はある人の目線で最後まで進めたいってのもあるけど、主人公目線が良いのかな。悩み中。内容は不穏になります。
梅雨入りしてから連日雨が降り続いていた。朝というのに景色は夕暮れ時のように薄暗い。そんなどこか暗い雰囲気が漂う教室に、耳をつんざく大きな音がした。教室の引き戸を勢いよく開けて、ドカドカという擬音の付きそうな堂々とした足取りは教室の真ん中後ろの席へと向かう。
「よっ!! 元気にしてたか」
ハッキリした目鼻顔立ちに半袖ワイシャツ姿の男が現れた。
今朝は学校から届いたメールにあった通り各クラス遅刻厳禁のホームルームのはずである。それなのにこの男は自身のクラスではなく、1年C組の桜花雄一の前にいる。
「会いたかったよー。中三の受験の後以来かー。生きてたねー。お化けじゃないねー」両手を胸の前で垂らして、こちらをおちょくるような半目を向けてくる。この男は真島寿人。桜花と真島は同じ中学校出身。二人は同じ塾に通っていた仲である。真島の、人を見て悪気なく煽る癖は健在のようだった。他人から感情を引き出すために人は生きていると真島が語っていたのを桜花は思い出す。
「この前の定期試験学年1位マジか? 入院明けだろ? 天才にでもなったのか? 俺なんて44位でギリギリ壁に貼られたくらいなのになぁー」
微塵も悔しくなさそうに、桜花を探るような目で見ていた。
「それはどーも。今日さ、ホームルーム遅れるとマズイんじゃねえの?」
「大丈夫でしょ。てか俺のスマホから連絡って入ってたか? 随分と無視し過ぎじゃねーか?」
「あー、悪い、スマホが完全に壊れたんだ。データ引継ぎ不可だったから新しいのになってる」
「なるほど、死んでるからと思ってたわ。ま、新しく連絡先交換しようぜ」
スマホを取り出した目の前の男はヒラヒラと笑っている。端末の操作中にも「ちゃんとクラウド保存しとけよ」などの小言も飛んできた。両端の吊り上がった口元から、やけに真っ白な歯がチラチラと見える。目的を済ませたからかチャイムが鳴ると同時に翻して教室を出ていく。
「また会おーぜ。じゃあなー」
桜花は真島に対し、何も言わず手を目の高さまで上げて応えた。
先程までの物静かな1年C組の雰囲気は真島が壊したのか教室内では席の近い生徒同士でざわつくようになっていた。主にホームルームにどんな話がされるのか、次点で、真島についての噂のようなものが桜花の耳に入ってきた。
☆☆☆☆
ホームルームを知らせるチャイムから5分経つという頃、1年C組の担任の溝島が教室へ来た。溝島は年齢40を過ぎたスーツ姿の似合う男性教師。口数は少ないが、生徒1人1人と向き合う、今時珍しい類の教師だと委員長の長池は評する。溝島は教室に入るなり教室の席についている生徒を見回す。溝島が思うより生徒の数が少なかったのか顔が曇っているように見える。1年C組は全40人のクラスだが、空いている席は6つある。空いている席、いわゆる不登校生徒の増加は今や日本中で大きな問題となっている。
つい一ヶ月ほど前、3年後に人類が滅亡するというデマが世界一の経済大国からリークされたことにより、世界的に自殺者、凶悪犯罪者の増加をたどることとなった。デマとその出元については今は調べられないよう世界的にタブーとして隠されている。その日を境に世界が歪んだ。新聞やニュース番組などの情報媒体は陰惨な凶悪事件が報告される場となった。この時勢で日本でベストセラーとなった本のタイトルは【通り魔殺人は二桁から】。通り魔殺人は二桁は人を殺さないと全国ニュースで取り扱われないと今の世を皮肉った内容のもの。頭がおかしくなるのも仕方がないのかもしれない。生きていくのが苦痛と感じる人が増えたのかもしれない。暗いニュースが増えたことと比例して面白可笑しい内容のバラエティ番組が増えていた。要するに国は現実逃避を推奨したのだ。不登校生徒は全国平均1校50名という見出しの、少し怪しいニュースが連日流れていた時もあった。
「何かあった時、何でもいいから信頼できる人を頼るように」と溝島が言った。「友達、家族、先生誰でもいい。1人で抱え込まないように」と言葉を締め括った。このホームルームは、【グランプリ美女連続殺人】事件の共有と情報提供に関する呼びかけだった。
【グランプリ美女連続殺人】
今年2月半ばにSNSを通じて起きたもの。全国各所の高校ごとに女子生徒の美人ランキングが有志により続々発表されていったことが元々の始まり。それを通じて芸能人になる女子高生がいたり、またストーカー被害が出たりと世間から賛否の声が多く集まるものであった。事が起きたのは4月のはじめ、グランプリに選ばれた女子高生が何者かに絞殺される。それから堰を切ったように全国各高校の美人グランプリの女子高生が次々に絞殺されていったというものであり、未だ犯人は捕まっていない。被害者は公表されているもので現在18人。都内、関東、北海道、九州、私立、国公立、規則性も絞殺という手口以外見つからないという状況。警察もこの事件に対応できかねており、全国の高校および、桜花の通う桜城高校も事件について強く警戒している。
☆☆☆☆
放課後、教室にいたかった桜花は掃除当番に合わせて机を運ぶのを手伝っていた。1年C組では放課後に教室を使用したいという生徒は掃除を手伝うという暗黙のルールがあった。このルールのおかげで床の箒掛けがスムーズに終わる。以降は机がいつもの配置に戻るので、そこから桜花は自席で時間を潰すことにした。同じく当番でないながら掃除をしていた山田が桜花に近づいて聞く。
「明日ある小テストって英単語、漢字、評論語句、数学で良かったっけ?」
「明日は数学はないな。数学の小テストは明後日」
「オッケー、ありがと」
山田は桜花の顔を確認するようにじっと見る。その瞬間、桜花の髪がまるで誰かにこね回されているようにボサボサになる。山田は吹き出すように笑いながら、いつも通り言う。
「やっぱりコレ霊現象なのか?」
それに対し桜花は少し口調を強く「知らない」と返す。山田の後ろにいる女神が桜花の髪をグシャグシャにこねるのだ。山田を危険な目に合わすことでしかできなかった、あの出来事以降、山田に近づくと桜花の髪は乱される。「暇なら英単語の問題出し合おうよー」さらに長池も集まり、時間潰すのに明日の英単語テスト対策をすることにした。周りも仲良い生徒同士で話をしていたりと、放課後もしばらくの間は教室は騒がしかったりする。そんな平和な時間を損壊させる者が現れた。
「失礼しまーす」
ありがとうございました。