02 授業丸潰れ
暖かなものが体を覆う。自分自身の体温がいつもより高い気がしてくる。
少しずつ意識が覚醒していく。それと同時に何か声が聞こえた。それが耳に入り、そして目を覚ます。
目を覚ますと顔を覗き込む子がいた。それは2人。まずは、「紫苑くん」としての友人の赤星可憐と鰐淵真菜。
「あ、起きた?」
穏やかそうな声で言う可憐と、別の女の子を宥める真菜。その子は階段から落ちそうになっていた時を、助けた子だった。
「あの! 大丈夫ですか!?」
「あ、うん。平気だけど……」
窓から差し込む夕日。おかしくなったのか。窓から差し込むオレンジ色の光。
「えぇと、今何時?」
「もうすぐ5時よ」
真菜が問いに答えた。その言葉を聞くなり、混乱し始める。
と言うことは、今日一日の授業は全部ほったらかし。何時間も眠っていたことになる。
今日のほとんどの時間を意識失った状態で、居たらしい。さらっと凄いことを聞いた。
「本当に、ごめんなさい!」
必死に謝っているツインテールの子。同じ学年だろうか。目元には僅かだが、涙を浮かべていた。
このまま目を覚まさないと思ったのか。確実に不安そうな目で私を見ている。
「いや、いいよ。平気平気。そういえば、君はなんともなかった?」
「はい……おかげさまで」
制服のポッケに入れていたハンカチを取り出し、それをツインテールの子に渡す。
最初はキョトンとした顔していたが、私が「それで拭いて」と言うと、素直に受け取った。
「あ、ありがとうございます」
「うん」
椅子の上に置かれていた鞄。間違いなく私のだ。今日の授業内容、全然知らない。その為、可憐か真菜のどちらかに見せてもらおうと思ったが、そんな中。ツインテールの子が提案した。
「あの! 私でよかったら、お見せしましょうか?」
「え、でも違うクラスでしょ? えぇ、と」
「この子の名前は栗藤唯香さん。C組の子だよ」
可憐が密かに教えてくれた。それを聞いて——なるほど。と、感じる。
道理で同じクラスでは見たことなかったな、と思った。仮に同じクラスであるのならば、名前や顔すら覚えていなかったのか。と、自分自身の記憶力を危うく思ってしまう。
「でも、違うクラスならどこまでやった〜とか、同じじゃないだろ?」
「それは……そうですけど…。でも、私のせいで今日一日の授業が潰れてしまったんです! お手伝いさせてください!」
ものすごい勢いで言ってくる。その圧に負けてしまい、咄嗟に頷いてしまった。
正直勉強だとか、そういうのは苦手類だ。中学のテストでさえ、ほぼ赤点を取っていた。
この私立高校に入れたのだって、奇跡に近い事なのに。
「では、どうぞ!」
「あぁ、ありがとう」
栗藤さんからそのノートを受け取り、ページを捲るとなんという事か。字がめちゃ綺麗。
1ページ1ページ丁寧に書かれていた。それに、まだ習ったことがない場所まで。
「字、綺麗なんだね。普通にすごいや」
「えへへ、そんな事ないですよ」
「あれ、でもそうなると他の教科どうするの?」
「あー、そうか。そうなるのか」
真菜の一言で悩む。数学はOKとはいえど、他の教科がC組でもあったかどうか怪しい。
1時間目が体育。2時間目数学、3時間目国語、4時間目音楽、5時間目と6時間目は総合だったはず。
まだ少しの痛みを感じながら、私はそう思った。
音楽に関しては、どこをやったとか、正直分からない。
「それなら、私が国語を見せるわ。可憐、あれを渡しとかないと」
「あー、そうだったね。はい、今日の音楽のプリントと、数学、国語のプリント」
「わ、わーい、いっぱいあるー」
絶望しか感じないそのプリントの数。
仕方ないと思い、割り切ろう。
保健室から出て、廊下を歩く。
この空名高校は昨年まで女子校。その為か、男子が使えるのはかなり少ない。
そして何故私が男装しながら、学校に通っているのか。
(自業自得……。まぁ、こうなった場合は仕方ないけどさ……)
一年生の学年で男子が何人いるかも分からない。私としてはあまり気にする必要はない。何故なら、同性なのだから。
男子がいるとなると、その男子たち。どんな思いで過ごしているのか。それは分からない。
靴箱の場所まで行き、靴に履き替える。
そして夕日が照らす街の中に消え去り、可憐と真菜からノートを受け取り、別れた。
可憐と真菜は帰る方向は同じであり、幼馴染同士。だが、どうやら栗藤さんとは帰る方向は同じなようだ。その為、途中まで一緒に帰る。
そして翌日。学校に行くと、付き合っているんだという噂があっという間に広がった———。
と言うのは、また別の話。
読んでくださりありがとうございます!
この話を気に入っていただけた方、少しでも「面白そう!」と思った方はブックマークと広告の下にある評価をお願いします!