バレてはいけないカンニング
私がこのことに味をしめたのは小学5年生の時だった。
当時、私は算数のテストをしていた。
「え〜っと… あれ? この答え分からないぞ?」
初めて分からない問題がきたので、私は頭を抱えた。
この時まで、私はテストで間違えたことなんてなかった。簡単に考えるだけで答えが分かっていた。そのため、私はみんなから、ちやほやされていたのに。
分からない問題の対処法が分からなかった私は、とりあえず他人の解答をちらっと見ることにした。
見えた。答えが分かった。
私がその通りの答えを書くと、その問題は見事正解、テストは100点満点だった。分からない問題でも他人の解答を見ればいいのか。これまで分からなかった、分からない問題を解く方法という問題が解けたような気がして、私は爽快感でたまらなかった。
それから、この方法が気に入って、私は分からない問題が出るたびに他人の解答を見た。
この方法ができたのは小学5年生の時だけだった。小学5年生の時は、隣に賢い子が座っていたけど、6年生になると、その子とは別のクラスになり、しかも隣の席はいつも0点を取っていると有名な男子だったからだ。
それでも私は、ことあるごとにカンニングを続けた。分からない問題のためじゃない、分かる問題の確認のために。隣の男子と同じ答えだと、その問題はほとんどの確率で間違っているということだ。だから、私は確認のためにカンニングを続けた。
6年生のうちに、私は技を1つ身につけた。「スピード・カンニング」、すなわち超速でカンニングをする技だ。身につけてからは、私はこの技を使ってカンニングをした。だが、それと同時にある疑問も浮かんでいた。なぜ、みんなは私のように他人の解答を見ないのか。と。
でも、ただ1人、後ろの席の女子だけは、私の行為に気づいていたのか、私の行く方を目で追っていた。その目は、いたずらっ子のような目をしていたのだ。
私は中学生になった。もう「小学生」じゃない、「中学生」なんだ。次のテストは自分の力だけで頑張ってみよう。そう私は思った。
最初の定期テストの日、私は自分の力だけで頑張った。しかし、問題は難しく、なかなか解けなかった。一瞬、私は他人の解答を見ようかと考えたが、やめておいた。今日は自分との戦いなのだということを思い出しながら。
テストが返ってきた。その点数を見て、私は絶句した。先生から平均点の説明が入ると、私はさらに絶句した。まさかこれだけの点数とは。まさか平均点より下だとは。
その時、私は考えた。
まさか、他人の解答を見ていたから、こんな点数になったのか?
まさか、みんなが他人の解答を見ていなかったのは、そのためだったのか?
じゃあ、私はこれからどうしていけばいいのか?
そして私は、これしかないと思った。これからも他人の解答を見続けるという方法だ。それは、自分にもよくないと思ってはいたが、もう後戻りは出来ないんだ、この方法しかないんだと思いながら次の定期テストの日、私はすべての問題を他人の解答に頼ることにした。
テストが返ってきた。その点数を見て、私は歓喜した。先生から平均点の説明が入ると、私はさらに歓喜した。まさかこれだけの点数とは。まさか平均点より遥かに上の点数とは。
しかし、私は先生に呼び出された。点数が上がりすぎだ、まさかカンニングをしているのではないのか、と。私は、本当のことを言ったら怒られると思って、「やってません」と答えた。しかし、先生は疑いを持ち続け、次の定期テストは私だけ別室で受けることになった。
別室で受けることになった定期テストの日、私は非常に困った。もし隣に人がいたなら、いくら先生が前にいようと「スピード・カンニング」でカンニングできたはずだ。しかし、ここには1人だけだ。カンニングなんて出来っこない。もし仮に、教室までカンニングしに行ったとしても、先生が怪しむだろう。しかし、このままでも、この点数を見ると先生は怪しむだろう。どっちにしろ、絶体絶命だ。どうしようもない。
テストが返ってきた。その点数を見て、私は絶句した。先生から平均点の説明が入ると、私はさらに絶句した。これじゃ、絶対先生に疑われる。どうしよう…
やはり、私は先生に呼び出された。点数が下がりすぎだ、まさかカンニングをしているのではないのか、と。私は何も口に出来なかった。先生は疑いを持ち続け、次の定期テストも私だけ別室で受けることになった。
私は猛特訓した。勉強ではない。新たな技を習得するために、だ。そうして、私は「ハイスピード・カンニング」という、「スピード・カンニング」よりさらに素早い技を身につけた。
そして、定期テストの日が来た。今回は自信がある。テストが配られた時から、私は解いているふりをして、30分ぐらい経つと「ハイスピード・カンニング」で別室から飛び出し、みんながテストを受けている教室へと向かった。それから、他人の解答を見て、覚えて、自分がテストを受けていた別室へと戻った。ここまで1秒もかからなかった。おかげで先生の監視を乗り越えてカンニングができ、今度は疑われないと思った。
テストが返ってきた。その点数を見て、私は歓喜した。先生から平均点の説明が入ると、私はさらに歓喜した。まさかこれだけの点数とは。まさかこんなに疑われないとは。
しかし、私は先生に呼び出された。すると、先生は「疑ってすまなかった」と言った。
こうして、それからの中学校生活も定期テストで他人の解答を見て、高い点数を取れた。
高校受験の日、私は心臓がバクバクしていた。カンニングは高校でも通じるのか、と。テストが始まる。私は「ハイスピード・カンニング」で他人の解答を見てまわる。試験監督には見えなかったようだ。私は高校受験に合格した。
それから10年。
私はある学習塾で働いている。学習塾で働いていることで、あの日奪われた学力を取り戻しつつある。しかし、カンニングの技は今でも健在だ。生徒たちにも先生たちにもカンニングをしていたことは秘密だ。だから、読者のみなさんもこのことは誰にも話さないでほしい。そう思いながら、私は学習塾をでた。