≪第三話≫永遠の形
この社会ではアンドロイドを外で見かける事はまずない。
法律でアンドロイドは区別がつきにくいという理由で家の外で動かしてはだめな事になっている。
一つ、八木家で動いているアンドロイドと販売用のアンドロイドと違う点があった。
それは心のプログラムが八木家のアンドロイドにしか入っていない事だった。
研究者である父親が『心』というプログラムの難しさ・不安定さを、以前の『ミク』の事件で嫌というほどわかったからだ。
それでも研究者のさが、…いや、会社としての方向性だろうか、心のプログラムの開発はあきらめてなかった。
それでまた、モデルケースとして2体が八木家に来たのだった。
その2体は心のプログラムを入れられてあった。
喜怒哀楽、いろんな感情を持てるようになってた。
一定以上に感情が高まらない限り『心』がリセットされない造りになっていた。
実験は順調に進んでいるようだった。
『ルカ』が何か怒る、『レン』がそれに対して突っ込む。そんなコント仕立てを見て舞がよろこぶ。
うまい三角関係ができたなと父親は思った。
アンドロイドは家事など以外の時、充電・もしくは人間で言う睡眠(記憶の整理)の時間になっていた。
水が主体となって家庭用電源で水素と酸素に分け、それをエネルギーとして換え動いていた。
1年ぐらいが過ぎただろうか。
八木家のアンドロイドの不具合が多く見られる様になっていた。
それは感情のコントロールの不具合だ。
よく心を閉ざすようになっていた。
父親は会社を上げて捜査した。
結果が出た。
結果は…物事の変化がなく、一定の回路が多く使われ衰退してきている…との事だった。
様はたまには違う刺激を与えないと『心』が正常に作動しないという事だった。
しかし行動に移そうにも限度があった。
法律では都会の家の外でのアンドロイドの使用は禁止されているし、万が一、『心』が暴走しては何をするかわからない。
どうすればいいか父親は考えたのだった。
答えは出た。
田舎に引っ越す事にした。
田舎ならば多少のことがあっても大丈夫だと思ったからだ。
それは少し大胆な行動だった。
舞の体調は安定してた。
なので父親は行動に移す事にした。
舞は最初は戸惑った。
いつもの学校、友達と別れるのが寂しかったからだ。
父親は仕事の都合での転勤と言ってあった。
秋が始まる季節だった。
2044年9月。
八木家とアンドロイドとの田舎暮らしが始まった。
父親はクリンプトンを辞めた。
昔働いていた時のお金がかなりあったのと、とある事を考えるのに時間がほしかったからだ。
それは多分そうなるだろうなと思い描きながらの作業だった。
そんな事は知ってか知らずか舞は田舎暮らしで大はしゃぎだった。
木々の葉は色付き、秋がこんなに綺麗な事を知らなかったからだ。
見るもの感じる物全てが新鮮に見えた。
『レン』と『ルカ』は外へ出ていろいろと感じ取っていった。
それは前にいた都会では出来なかった事だ。
舞は歩いて3人でいろんなところに出かけたのだった。
そんな田舎の学校でも友達はいっぱいできた。
舞は普段から人一番明るく、学校の中でも人気者になった。
家では家族4人、楽しい日々が続くかのように思われた。
しかしそんな日は長く続かなかった。
12月近くになった。
アンドロイドは故障が続き、ついには2体とも動かなくなっていた。
舞はふさぎ込みがちになっていた。
これは父親が予想した通りだった。
『形あるものいつかは壊れる』と。
その2体のアンドロイドはクリンプトンへ修理に出した。
しかしもう修理不可能な状態までになっていた。
父親は修理を断り、自分の今している作業を続けるのだった。
そしてアンドロイドは動かなくなった…。
−それからしばらく経ったクリスマスの朝−
眠いとつぶやきながら居間に来た舞を見て父親は「舞に聴かせたいものがある」といった。
いままでクリスマスプレゼントらしき物をもらった事がない舞は驚いた。
舞:聴かせたいってなに?
父親:これだよ。
といいながらパソコンを開く父。
そして曲は流れた。
−それは今まで出会ったアンドロイド達の透き通った声によるクリスマスソングの合唱だった−
アンドロイドでは出せない、ボーカロイド専用の音声での歌だ。
舞は泣いた。
そしてその次の年の春。
父親は会社を立ち上げた。
今まで作ってきたアンドロイドの声をベースとした音声によるシンガーソフト『ボーカロイド』の会社『クリプトン』をだ。
そしてアンドロイドはそのボーカロイドとして形を変えて永遠に残っていったのでした。
「形あるものいつかは壊れる。しかし、形ないものは永遠に残る。」…のかもしれませんね。
この作品は数ヶ月前、ニコニコ動画で流行っていた『イヴの時間』に強く影響を受けて作った小説です。
他にも『クリプトン』のボーカロイドからの影響も強いです。
構想は何週間か前に決まっていたんですが、内容は書いている流れで思い浮かびました。
実際アンドロイドがいたらこうなるのかなーって思いながら書いた作品です。