≪第一話≫不安定な心
2050年日本、クリンプトンという会社があった。
そこでは人工アンドロイドが作られていた。
そこの研究者の一人に八木さんという人がいた。
10年も前の話である。
八木さんはその会社で作られた初めてのアンドロイド『リン』をモデルケースとして自分の家の家族として受け入れた。
その当時、八木さんの家には娘さんがいて、病弱だった。
そして子供が小さい頃に母親は病気で亡くなっていて、現在は家族2人で過ごしていたのだった。
娘の病弱の事や家事全般の手伝いがほしかったのもあって、八木さんは喜んでそのアンドロイドの『リン』を家族として受け入れたのだった。
受け入れた当初、戸惑いがあった。
その当時『心』がまだ開発段階途中で、入れると危険だと判断され、『リン』には『心』が入ってなかった。
『心』を持たない手伝いロボットとしか最初のうちその父親は思ってなかった。
それでも月日は流れ、娘はそのロボットに心を開くようになっていった。
会話はほとんど一方的で、言葉のイントネーションも単調。
それでも娘は楽しくて仕方がなかった。
父親は良い実験データが取れたと嬉しがっていた。
9ヶ月が過ぎた。
娘は心を閉ざした。
アンドロイド『リン』が動かなくなってしまったからだ。
製造者でもある父親はどうしようか考えた。
そこで娘にこう言った。
「新しいのに変えようか?」
娘は言った。
「この子じゃなきゃいや!」
父親はすごく悩んだ。
そうこうしているうちに1年が過ぎようとしていた。
父親はある考えを実行した。
それは、新しいアンドロイド『ミク』を家族として受け入れる事である。
これには考えがあった。
1つは娘の心の支えとなるようにと、2つ目は忙しい父親に代わって『リン』の修理できる部分は『ミク』が行う、そして3つ目はアンドロイドにとってクリンプトンが考えたとある大きな実験の場所として自分の家を選んだのだった。
『ミク』が来ての最初の一ヶ月、『リン』は父親や『ミク』の修理により何とか動くようになった。
しばらくはだましだまし2体のアンドロイドを使っていた。
でも、もうそれも限界だった。
『ミク』が『リン』を修理する時間はかなり膨大な時間をとるようになってきたからだ。
父親は2つのことを実行しようとした。
『リン』を廃棄処分すること。
アンドロイド『ミク』に初めて、アンドロイド史上初の『心』のプログラムを入れること。
この『心』は前々から考えてたが、『心』をアンドロイドにインプットするのは初めての試みだった。
まず先に父親は『心』のインプットを実行した。
それまでの『ミク』がやってきた事…『リン』の修理の記憶や娘とのほぼ一方通行である記憶…などが『心』でつながった。
それはとても不安定だった。
そこで父親はしばらく『ミク』を研究所に戻し、『心』が安定する時を待った。
それまで『リン』で何とかしようと考えたのであった。
『心』が安定するのは意外と早く3日で落ち着いた。
なので『ミク』を自分の家に戻した。
『リン』は『ミク』の手厚い修理のかいもあってだいぶ安定していた。
『ミク』が家に戻ってしばらく経った時、娘の誕生日があった。
『心』を持った『ミク』は何かしようかと自分で考えた末、『リン』と一緒にバースデーソングを歌う事にした。
ただ、アンドロイドは歌を歌う事を得意としていなかったため練習には時間がかかった。
こっそり練習するのは大変だった。
誕生日当日、『ミク』と『リン』で歌を歌った。
娘はとても喜んだのだった。
それからしばらくして、父親は娘と『ミク』に『リン』の廃棄を告げた。
娘は泣きじゃくった。
『ミク』は・・・ココロが動いた・・・。
今までしてきた事が思い浮かんでは消えた…。
涙は流せない…。悲しいのに泣けない…。
それは心を持つものにとってどんなに辛いことだろうか。
それから幾日が経ち、『心』を持った『ミク』は決心した。
『リン』のデータを壊し、その後自分のデータも消去することを…。
これで悲しみは生まれない。
悲しみの元凶・・・自分自身、アンドロイドそのものが消えるのだから・・・。
そして実行。
2体のアンドロイドはただの鉄くずとなった…。
父親は心の不安定さを見抜けない自分に絶望した。
娘は最初、自分を責めていたが、やがて父親にこう願うのだった。
「わたしにまたアンドロイドを作ってください。」
それから2年後、『心』を持った2体のアンドロイド『レン』『ルカ』を購入したのだった。
その2年の間、いろんな事があった。
『心』の不安定を解消するためにある程度落ち込んだらいったん回路を閉ざすつくりに切り替えた。
それで自己の消去をできないようにした。
初代アンドロイド『リン』をベースに父親の思考を織り交ぜて作った『レン』、2代目アンドロイド『ミク』の2次保存メモリにより消去されてなかったやさしい擬似心をモデリングした『ルカ』。
その2体は購入の一年前に製品化され販売しており大変な反響を受けていた。
そしてまた春が訪れる…。