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万聖節 A

ハッピーハロウィン~~!

ハロウィンの日、約束の里帰りです。

この1年にたくさんの事があったディケンス公爵家は、アリエスを待ちわびていました。


ディケンズ公爵家では、豪華な料理と飾りつけでサロンが飾られていた。

もうすぐ日付が変わり万聖節になる。


万聖節になった途端、金色の扉が現れ、アリエスの姿が見えた。

妖精王に手を引かれアリエスは、待っていた家族に幸せそうに微笑んだ。

1年ぶりにアリエスが公爵家に戻ってきたのだ。

「お父様、お母様、お兄様、お久しぶりです。お変わりありませんか?」

アリエスが、ただいまと言わないことで、もうこの家の娘ではないのだと思わされる。


「おかえりアリエス」

母である公爵夫人がアリエスを抱きしめる。

幸せな家族の時間、そうなるはずだった。

扉から妖精の群れが現れるまでは。



妖精界と人間界を繋ぐ万聖節。

次元の裂け目から突如現れる妖精達は、人間には感知されず遊び回り戻って行く。

ところが、妖精王のように力の強い妖精が作った扉は、そこを通る妖精に実態の姿を与えてしまう。



ディケンズ公爵家のサロンに響き渡る歓声。

「ここが人間界か」

「人間の家なんて初めてだ」

大小様々な妖精が扉から次々飛び出して来た。

口々に何か言っているが、多過ぎて判別出来ない。


「まて、お前達」

妖精王のレオが扉を閉めたが、あっという間に妖精達は四散してしまった。

その間、ディケンズ公爵を含め、人間達は何もできずに見ているだけだった。それぐらい一瞬の出来事だったのだ。


そうして王都では、公爵邸から逃げ出した妖精達を見た人間達の悲鳴があちらこちらからあがった。


「回収してくる」

妖精王レオはアリエスに言うと姿を消した。


妖精達に驚いていた公爵夫人がアリエスに手を引かれてソファに座る。

「アリエス?」

「お母様申し訳ありません。

万聖節を待ちわびていたのは、私だけではないみたい」

フフフ、とアリエスは笑って夫人の横に座る。

その向かいには、公爵、兄のギュフタフと座ってお茶会が始まった。

「私達には手に負えませんもの、レオに任せましょう」




レオは王都の上空で街の様子を見ていた。

妖精達は、人間が自分達を見て驚くのが楽しいらしく、大騒ぎになっていた。

レオが指を振るうと、妖精が次々とレオの足元の空中に引き上げられる。

「いたずら者達めが」

レオは苦笑しながら、空中に作り出した黄金の扉の中に放り込んでいく。公爵家の扉から出て来たのは、力の弱い妖精ばかりで、人間を驚かせても、建物などを壊してはいないようだった。


物陰にいる妖精を見つけて、レオは地上に降り立った。

「王様、いたずらはしませんから、今日は人間の世界にいたいです」

「ここには、お祭りもないぞ。向こうの方が楽しいぞ」

レオの言葉に小さな妖精は、首を横に振る。

「人間に見つからないように、こっそり見るだけです」

「万聖節が終わる前に、遅れないように戻るのだぞ」

仕方ない、とレオは許可を出す。

レオは妖精達が人間に見つからないように姿を消してやる。弱い妖精は人間に捕まってしまう事さえあるからだ。




公爵邸では、閉じたはずのレオの扉が開き、一人の女性が出て来た。

それはアリエスも知っている姿。

長い間、レオの妃に一番近いと言われていた女性だ。誰もが認める力と美しさを持つ妖精ベルタージュ。

レオがアリエスを連れ帰った時、表向きは反対はなかったが未だに承諾していない妖精が多いのだ。


「ベルタージュ?」

アリエスはベルタージュに問いかけはしたものの、危険人物であると認識をしている。

レオを追って扉を開けたに違いないのだ。

人間のアリエスには太刀打ちの出来ない力の差。


「人間など認めはしない。

王宮の守りから出て、王が側を離れるのを待っていた」

ブンとベルタージュが手を振れば、突風がアリエスを襲うが、ギュフタフが前に出てアリエスを庇う。

ガチャンガチャと部屋の中の家具や食器が突風で飛ばされ、アリエスに向かって来る。

「つうぅ」

ギュフタフが飛んで来たチェストを蹴り上げるが、割れたカップの破片で額が切られる。

「お兄様!」

ギュフタフの額から血が流れ落ち、アリエスが悲鳴をあげる。


公爵も夫人を庇いながら、飛んでくるテーブルを払いのける。

窓ガラスは割れ、荒れ狂う風で屋敷が軋む音をたてる。

妖精王とアリエスが来るからと、使用人達は本邸に近寄らぬように遠ざけているため、助けに来る者はいない。


「お前なんか死んでしまえ!」

ベルタージュがさらに力を込めた時、屋敷の中を吹き荒れる風が止まった。

「なに?」

ベルタージュが驚いて、手に力を込めても何も起こらない。


驚いているのはベルタージュだけではない。

公爵達もだが、アリエスはゆっくりとギュフタフの額に手をあてると、ギュフタフの血が止まった。

「やはり」

アリエスは思うところがあるのか、ベルタージュに笑顔を向けた。

「レオが、私を一人にしたと思ったの?

私には誰よりも強い防護の魔法が、かけられているのよ」

何故ベルタージュの攻撃が止まったかは分からないが、レオが施しておいた魔法でアリエスがケガをすることはない。

もしかしたら治癒も使えるのかもしれない。


ギュフタフはベルタージュの力が使えないと知ると、ベルタージュに飛びつき拘束をした。

「無礼者!人間のくせに!」

ギュフタフに押さえつけられても、ベルタージュは暴れて逃れようとする。

「お前なんか、王の保護がなければ踏み潰してやるのに!

ずっと私こそが横に立つのだと!」


「ほぉ」

アリエスの横にレオの姿が浮かび上がり、実体化した。


「レオ様!」

ベルタージュはピンクの髪を振乱(ふりみだ)し、レオに這い寄ろうとするも、ギュフタフに拘束されていて動けない。

「レオさまは(だま)されているのです!」


レオはベルタージュを無視して、部屋の様子を見渡した。

「この屋敷の惨状は申し訳ない。」

レオはアリエスには何重にも保護をかけているが、公爵家には何もしていなかった。

今回はアリエスの里帰りということで、危険があるとは思ってなかった。

「さて、ベルタージュ」

レオがベルタージュを見る目は冷たい。今までそんな目で見られたことがなかったベルタージュは身体を震わす。

長い年月、妖精王として降臨していたレオは、穏やかな王として万物に公平に接していた。

そんな時にアリエスに出会ったのだ。時間が動き出したかのような感覚、甘い感情。

それを知った今では、皆に公平に等できない。


「どうやら、扉から大勢の妖精が飛び出して来たのもお前の仕業だな。

私の気を逸らす為ということか」

レオに(にら)みつけられて、ベルタージュは力を失くしたように床にひれ伏してしまった。もう、ギュフタフが押さえつける必要もない。

「妖精の力を奪い、妖精界を追放とする」

それは死ね、と言っているのと同じだ。

力のない妖精が、守ってくれる人がいない世界で生き残れるはずもない。

だが、アリエスを殺そうとしたベルタージュを、妖精王レオが許すことはない。

いっそ、王の力で殺してくれたらいいのに、とベルタージュは願う。

それさえ価値のない妖精、と判断されたということだ。


ギュフタフは(かたわ)らのベルタージュを見たが、先ほどまで妹を殺そうとしていた人物と同じように見えない。

今にも消えてしまいそうな程(はかな)げで、(うつろ)ろで生きる気力を失くしている。

ギュフタフが飛び散った様々な破片を片寄せて、ベルタージュを壁にもたれさせても、されるがままになっている。



それにしてもとレオは思う。ベルタージュが本気出したならこの程度では済まないはずだ。アリエスは保護されていて無事だとしても、屋敷は壊れ人間には避ける術もないはずだ。

屋敷は突風で(きし)みはしたものの、他の部屋に被害は少ないようだ。

「まさか」


レオはアリエスの横に行くとそっと頬に手を添えた。

「ケガはないか?」

「はい、私にはレオの保護がかかってますから」

レオに身体をあずけ、アリエスは微笑む。

レオはアリエスの腹に手を当てると、皆に聞こえるように言った。

「よく母を守った」

「え?」

驚いたのは公爵家の人間だけでなく、アリエスもだ。

「えええ!?」


「アリエスにかけてある防護の魔法はアリエスを守るが、ベルタージュを抑え込むことはできない。

それは、子が身を守る為にしたのだろう」

アリエスはお腹に手を当ててもわからない。

「本当に赤ちゃんがいるの?」

「ああ、ありがとうアリエス。私が子供を持てるとは思ってもいなかった」

レオと同じ時を生きる身体になったからこそ、アリエスは妊娠したのかもしれないが、レオにとっては伴侶を見つけたことさえ奇跡のようなのだ。そのうえに子供だ。

まだ存在の確認さえできていないような初期でさえ、これほどの力をもつ子供。

間違いなく妖精王を継ぐ子供。


めちゃくちゃになった公爵家のサロンは、一瞬にして祝いの場になった。

公爵とギュフタフが他の部屋からカウチを運んできて、アリエスを座らすと宴が始まった。

公爵夫人はアリエスの1年の留守を埋めるように横に座り、笑顔が途切れなかった。

そして、万聖節が終わる時間になると、また来年、と誓ってレオとアリエスは扉の中に消えた。






「ありがとう」

ギュフタフはメイドからスープを受け取ると私室の扉を閉めた。


窓辺のソファに座るベルタージュの横に座る。

「ほら、力がなくなったんだ。何か食べないと死んでしまう」

口を開けて、とスプーンですくったスープを近づける。

「ベルタージュ」

名を呼べば、視線がギュフタフに合わされるが、身体は力なくソファに深く沈んだままだ。

「ほら、口を開けて」

スプーンで唇に触れれば、そっと口が開く。

「偉いね、熱くないから大丈夫だよ」

ベルタージュの口にスープを流し込む。

「本当に王が好きだったんだね、壊れてしまいたいぐらいに」

可哀想にと思うギュフタフは、ベルタージュを見ながらスープをすくう。

ベルタージュの表情のない顔に涙が流れ落ちた。




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