夏至:再会
今日は夏至!
1番夜が長い冬至から半年。
あっと言う間のようですが、いろいろありました。
コンラートとプリンシラの約束の夏至が来ました!
連絡の取りようがなかった。
コンラートは星の出ている窓の外に視線を向ける。
王位を取りに行った日に会った女。たった1日の出会いと逢瀬。
プリンシラ、何度呟いたかわからない。
約束をした。
夢だったのかも知れない。
夢の中の妖精。
明日は、約束した夏至。そう思うと仕事が手につくはずもなく、時間が過ぎるのが長い。
来ないのではないか、そういう考えにならないのが不思議なぐらいだ。
絶対に来ると信じている自分がいる。
ギュフタフ・ディケンズも、執務室で日にちが変わるのを待っていた。
「陛下」
ギュフタフが、もうすぐ明日になります、と声をかけてくる。
頷いて、この半年を思い起こす。
無血開城したものの、この国の内情はとんでもないものだった。
横領、癒着が発覚し、国民は重税で疲れていた。
ディケンズ家が娘の婚約破棄で王家に見切りをつけたのも、この実情があったからだ。
国の再建の為に穏健派のディケンズ家が抜擢された婚約だったからだ。
王家と貴族の粛清を断行したが、多くの貴族に問題はなかった。問題があったのはごく一部の貴族だけで、その貴族が利権を貪るのを王家が許すという仕組みになっていた。
他国に嫁いだ王女は、外から見て自国の腐敗を嘆き、同じようにならないように息子たちの教育に力を入れた。
だからこそ、その王女が産んだコンラートに希望を託す貴族が直ぐに集まり、新しい国を作り始めた。
とんでもなく忙しかったが、やり甲斐のある充実した半年であった。
プリンシラを安定した国で迎えたい、そういう思いがあったのは間違いない。
時計の針が動き夏至の日を告げると、目の前に大きな扉が現れた。
「ダーリン!」
白いウェディングドレスを翻して、プリンシラが飛び込んで来た。それがあまりに勢いがよかったから、コンラートは受け止めきれずにプリンシラを抱きしめて、床に座り込んだ。
「見て見て、このドレスの生地は妖精の国の朝の雫を織り込んであるの。デザインはアリエスに人間の結婚式を聞いて作ったのよ!」
「プリンシラ」
「ベールも用意したのよ」
「プリンシラ」
コンラートがプリンシラの唇に指をはわす。
「ごめんさい、会えるのがうれしくって」
「僕もだ、よく来たプリンシラ」
見つめ合う二人に咳払いが聞こえた。
「ウォッホン」
ギュフタフがいたたまれなくって存在を誇張する。
「お待ちしておりました。プリンシラ様」
二人が立ち上がるのに合わせて、ギュフタフが礼を取る。
「侍女達にも控えさせております。
午前中に式典、午後から披露宴の日程になっております。
夜が明けましたら、花嫁の化粧直しと、こちらで用意したティアラの装着をお願いします」
失礼します、と言ってギュフタフが部屋から出て行った。
「朝まで時間をくれるんだって」
コンラートが両手を挙げて、笑みを浮かべた。
「きっと、アリエスの事も聞きたいだろうに、不器用なんだよ、あいつ」
「でも、いい人だわ。アリエスの魂の色が綺麗なのは家族の影響もあるのね」
プリンシラがコンラートに手を引かれてソファに座る。
「魂の色?」
「そう、きっと王もそれに惹かれた。
魂の色が見えるのは、ほんのわずかな人だけ。自分の魂と呼び合う魂だけ。
コンラートに初めて会った時、呼ばれて来たんだ、って自然に思えたの。
アリエスの世界に興味もっただけだったのに、コンラートに会うために来たって」
「僕は理由なんてないよ、プリンシラが気になってしかたない」
二人、指を絡めて、吐息が触れる程近くに寄りそう。
「キスをしたい」
コンラートがプリンシラと絡めた指を口元に持って行って口づけする。
「そして、唇は結婚式までとっておく」
あと半日、夜が明けたら国中にお触れが出される。
国王の結婚式ならば、もっと早くから公布されるべきだが、プリンシラが来るまで確定ではなかった。
今頃ギュフタフが必死になっているだろうと、コンラートは含み笑いをする。
それどころか、王の結婚とは知らせずに、祝賀会とだけして貴族達を招集している。
妖精との結婚が教会で行われるはずもなく、王城の大広間で人前式を行う。
さぞ、大騒ぎになるだろう。
「それでプリンシラ、結婚式だけど、少し趣向を凝らしている」
コンラートが囁けば、プリンシラがニヤリと笑う。
さすが闇の妖精を総る宗主だけある、何かあると察したのだ。
「それは面白そうだ」