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冬至: 長い一日

トントントン、扉をノックして外に出ていた警護の兵が入って来た。

「朝食に皆さま、お集まりでございます」

今日の朝食は早く、朝日が昇ると集結になっていた。

「すぐに行く」

ギュフタフが応えると、兵は出て行き扉が閉まり僅かな静寂。

それを破ったのは、プリンシラだ。


「コンラート、貴方は先ほど王に成ると言った。

それは、今日ということなのね?

私なら、貴方の敵対する者も操れる。私は闇の妖精の宗主」

微笑むプリンシラは美しい、それは引きずり込まれそうな魅力。


「貴女の力はいらない、それは先ほども言った。

人の心を操ろうとするな、それは俺の嫌いなことだ。

どんな悪人にもそうなった人生がある、それを否定することは許さん。

俺が正義とかは知らん。

だが、自分に誠実でありたい。

俺を必要としてくれる人間がいて、自分の力を試される時がきたと思っている。

敵対する者がいるなら、俺自身で排除する」

これを信念と呼ぶのだろう。

ギュフタフはコンラートを選んだことが、間違ってなかったと確信する。


「うわぁ、心臓がバクバクいっている。コンラートもうステキ~」

絶対に離れまいとプリンシラがコンラートに抱きつく腕に力をこめる。

「絶対に離れない、どんなことがあっても私の魂を分け与えて、私を好きにさせてみせるから」

圧倒的な力を持つ者として永い時を一人で生きて来た。それが寂しいと思ったことなどない、そういうものだから。

不穏要因である眷属を粛清したことも少なくない。

だけど、今はこの人を無くせば元には戻れないとわかる。

魂に呼ばれたのだ。

この魂に惹かれてやまない。


コンラートが息を吐くのが感じれて、プリンシラはコンラートを見つめる。

「暗がりの中にいるプリンシラを初めて見た時、このまま殺されても仕方ないと思った。

貴女に見惚れていた」

コンラートがそっとプリンシラの頬に手を添える。


見つめ合う二人をパンパンと手を叩く音が引き裂く。

「朝食に皆が集結して待ってます。出陣の時間が迫ってます」

ギュフタフが時間がありません、と言う。

「プリンシラ嬢、どうか皆の前では妖精ということは伏せていただきたい。

その力によこしまな気持ちを抱く者もでてくるでしょうから」


「わかった、今は剣士の一人として同行しよう」

プリンシラが頷き、コンラートから離れる。

その手を引寄せたのは、コンラートだ。

「ギュフタフ、悪い。自分の役目は自覚している、それは信じてくれ」

プリンシラは冬至の扉と言った、それは今日しかないとギュフタフもコンラートも分かっていた。

プリンシラが繋がれた手を見て、コンラートを見上げる。

その頬はピンクに色づき、嬉しそうに笑顔をむける。


「俺はこの国を作り直さねばならない。それは分かって欲しい」


「はい」

一緒にいられる、ただそれだけが嬉しい。


「僕がお二人の婚約の承認となりましょう。

プリンシラ嬢にこの世界の身分が必要ならば、ディケンズ公爵家が後ろ盾となりましょう」

ギュフタフが貸し一つとでもいうように、ウィンクをする。



食堂にはたくさんの男達が集結していた。

遅れて来たコンラートとギュフタフが女性を連れているのに、声を荒らげる。

「殿下、どういうおつもりですか?」

前に出て来たのは、ディケンズ公爵その人である。


「父上、こちらは殿下の婚約者となられたプリンシラ嬢です。

冬至の今日、アリエスの情報を持って来られた」

ギュフタフの言葉で、公爵はプリンシラが人ならざると察したが、他の者には納得がいかない。


「この大事に女を同伴など、スティーブ王太子と同類ではないか」

吐き捨てるように言葉が飛んでくる。


「黙られよ、伯爵」

ディケンズ公爵が、文句を言った伯爵を叱咤する。

「すぐにこの美しい令嬢が、王妃となることに感謝するであろう」

そう言いながら公爵は、プリンシラの前で膝を折り、礼をとる。

「よくぞ、この地にいらしてくださいました」

公爵はプリンシラの地位など知らないが、高位の者であると悟ったらしい。


「顔をあげられよ、アリエスの父君。

今は剣士の一人としてここにいる。コンラートを頼むぞ」

ディケンズ公爵が生まれるずっと前から宗主をしているプリンシラには風格がある。




食事も優雅なものではなく蜂起前の準備の一部で、朝日が完全に昇る前に馬に乗り、一軍は王宮に向かった。

ギュフタフを先頭にコンラート、ディケンズ公爵と続き、賛同する貴族たちが続く。

誰もがこの日が来ないことを願いながら、腕を鍛え国の再興を願った。

アリエス公爵令嬢が王妃になったなら、王家の改変ができるはずだった。

だが、寵妃を重用するようでは王妃になろうとも、王妃に権力は無きに等しくなる。

王は贅沢の為に税をあげ、農村部では餓死者まで出ている。王太子は寵妃に湯水のように宝飾を貢いでいる。


コンラートの隣で馬を走らせながら、プリンシラは街の様子を見る。

まだ、朝早いとはいえ、活気ある街ならば商人が準備で慌ただしいはずだ。

それが、貧困層であろう人々が道端に転がっている。

腐臭さえする。


「コンラート、これは?」

プリンシラに、コンラートは首を横に振って応える。

「俺も、この国に来るまでこれほどとは思わなかった」




王宮に馬の土煙があがると、門が内側から開かれる。

プリンシラからの殺気に、ギュフタフが馬を降りる。

「大丈夫です。僕が見てきます」


「わざと殺気をだして威圧しているな?」

コンラートが馬上からプリンシラに声かけると、クスッとプリンシラが笑う。

「剣士として同行する、と言いました」


闇の妖精の宗主、つまりはそういう事なのだ、とコンラートは納得する。

自分の為に剣士を演じている、それだけの力もあるのだろう。

かわいい女の子がいい、と言えばそれに成りきるのだろう。

これほどの想いを僕は返せるだろうか。

彼女に恥ずかしくない男でありたい。

「君は優しいね」

コンラートが微笑むと、プリンシラがプイと横向く。

「今は大事な時です、私が力を使ってはいけないのなら危険を避けられませんもの。

ギュフタフが戻ってきました、門の中は問題ないようですね」

横向きながら、プリンシラはさらに(つぶや)く。


「コンラート、好き」


小さな声が聞こえてしまったコンラートは、うっと気持ちを抑えてギュフタフに声をかける。

「どうだ?」


「問題ありません。

すでに味方の兵士が押さえておりました。進みましょう」

ギュフタフが馬に飛び乗り王宮の門をくぐると、コンラートが後に続く。


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