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冬至: 夜明け

2020年12月21日、今日は冬至です。

ハロウィンの後始末を冬至でいたします。

寒い冬至の1日に楽しんでいただけましたら、嬉しいです。

1年で1番夜の長い日。


扉を開けて忍び寄る足音。

この重い扉は力の弱い妖精には開けれない。

万聖節の扉は小さな妖精も開けられるし、妖精でない者も通ることができるが、夏至と冬至の扉は力の強い妖精のみが出入りできる。


闇の妖精であるプリンシラは、妖精王が連れて来た花嫁アリエスから話を聞いて、この世界に興味津々だった。

扉が現れるのを待っていたのだ。

そして、アリエスの血をたどり、この世界に繋がる冬至の扉を開けた。



コトリ、と小さな音にコンラートは剣を身構え暗闇に目を凝らす。

迎えに来る予定のギュフタフ・ディケンズが来たのか、と一瞬思ったのだが、あまりに早朝すぎてありえない。


「なんか暗い」

聞こえてきたのは女の声。

女だからと油断できない、刺客の危険は常にあるのだから。

この国にはコンラートの存在を疎ましく思う者が大勢いるのだ。だが、王族である以上危機管理は身についていた。

コンラートは手にした剣を握る力に力を入れ、声がした方向に気配を消して向かう。


朝陽が昇る前の薄暗がりの部屋に灯りが灯っている、隣の部屋を覗いたコンラートは目を見張った。

女がいる、そこだけに灯りが灯っているのだ。

燭台の灯りではない、まるで女自身が光っているような灯りだ。


その人ならざる姿に魅入られる、長い金の髪が揺れ、振りむいたと分かる。

漆黒の瞳とコンラートの視線が交わる。

「うわぁお、人がいた。

おはよう、わかる? 言葉通じている?」

にこっと笑う女というよりは少女の肌の白さ、赤い唇に見惚れコンラートは返事が遅れる。

「あれ? わからないかな?」


「いや、わかるが、君は誰だ?」

これが刺客だとしたら、この姿に騙される俺が悪いのだろう、とコンラートは腹をくくる。

「俺はコンラート・ジゼル。ジゼル王国の第2王子だ」


あれ、こうだったかしら、小さな呟きが聞こえて少女はドレスの裾をつまみカーテシーをする。

「闇の妖精、プリンシラよ」

「妖精?」

この家の娘が妖精王と共に姿を消したと聞いているコンラートは、ギュフタフの話を思い出す。

ギュフタフ自身は、コンラートを迎えにジゼル王国に来ていたので見ていないが、シュルツバル王宮での出来事だったという。

大きな扉が現れ皆の前で忽然と消え、たくさんの目撃者がいると言われても信じられるものではなかった。

1週間前にディケンズ公爵家に来て、最初に聞かされた話だ。

ディケンズ公爵夫妻をはじめ、コンラートの派閥となる多くの貴族が口にした。

妖精は不確かな存在として話にはあったが、人ならざる力を見せつけられ信じるしかなかった。


「今日は冬至なので他の世界と繋がるの。

王が連れて来た花嫁のアリエス様に教えてもらって、ここに来たかったの。

アリエス様の血をたどって来たから、間違ってないと思うのだけど」


先ほど光っていたのは、彼女の力だったのかと思うと信じている自分に気が付く。

「間違ってはいない。俺がここの客人なのだ。

ここはアリエス・ディケンズ嬢の生家である」





11月の初日にジゼル王宮で、王家はギュフタフ・ディケンズ公爵子息の訪問を受けていた。

「第2王子コンラート殿下をシュルツバル国王太子としてお迎えしたい。

そして、早々に王座におつきいただく」

シュルツバル王の姉である王妃は顔色を変えるが、王はシュルツバル王国の情報は入っているのだろう、落ち着いた様子でギュフタフの話を聞いている。

「こちらを」

ギュフタフが王に差し出したのは、賛同する貴族たちの連判状だ。

それほど以前から、王太子の行動は国にとって危険なものだった。

男爵令嬢を寵妃としたのは、その一つに過ぎない。

それを看過する王も判断力が間違って来ていると言わざるを得ない。

シュルツバル王国では何代にもわたり、愚鈍な王が国を疲弊させていた。

他国に嫁ぎ、外から母国を見た王妃は王子達の教育に力を入れていた。


「国は存続させねばなりません」

ギュフタフが王に頭を下げるのを、コンラートは見ていた。

兄が王となった時は、補佐として側で支えるはずであった。その為の知識も身に付けていた。

だからこそ、今のシュルツバル王国が危ない状態なのも分かっていた。

王も兄の王太子も分かっていた。

そして、猶予がないことも。


「殿下、我々は王位を簒奪する者となりますでしょう。

それを承知でシュルツバル王に成っていただきたい」

膝を折ったままのギュフタフは頭を上げない。


「一つ、問いたい」

コンラートがギュフタフを見る。

「なんなりと」

ギュフタフは誠意を表そうとしている。


「貴殿は、王太子の側近であったはずだが?」


「私は簒奪者に鞍替えした裏切者となるでしょう。

たとえどう呼ばれようと、それは私の誇りであります」


「そうか、これほどの者がいるのか」

コンラートは、ギュフタフがこれまでも王太子を(いさ)めてきたと確信した。

ディケンズ公爵家の娘が王妃になる事で、王家の補助となるはずがなくなった。

そして最後の希望が自分なのか、と覚悟を決めた。

「あい分かった」


急報により、ギュフタフはシュルツバル王国に帰国した。

それは、アリエスが王宮の夜会に現れた大きな扉の中に妖精王と姿を消したという知らせであった。


再度、ギュフタフが迎えに来るまでに、コンラートは身辺整理をした。

王太子の補佐であり、軍の指揮官でもあったのだ。


(わず)かな警護兵と(ひそ)かにシュルツバル王国に入国し、ディケンズ公爵家に逗留したのは1週間前のことだ。

準備と顔合わせで日にちは過ぎた。


今日、コンラートはシュルツバル王国を手にする為に蜂起する。

供はギュフタフ・ディケンズ。

シュルツバル軍も上層部が協力者であり、賛同者だ。

急襲をかけ無血開城を目指しているが、簡単にはいくまい。




神経が高ぶっている。

これから王位を簒奪するのだ。

なのに、目の前にはニコニコ笑う少女。緊張が途切れていく。

「プリンシラ」

名を呼ぶと、少女はコンラートの顔を覗き込んだ。


「うわぁ、いい声。瞳もすごく綺麗」

間近でプリンシラとコンラートの視線が重なると、プリンシラが真っ赤になって後ろを向いた。

やばい、(つぶや)く声が聞こえてくる。


緊張して強ばっていた身体に、血が流れだした気がする。

「あははは」

コンラートが笑い出し、振り返ったプリンシラの漆黒の瞳の中心が赤くなっている。

「ありがとう、プリンシラ。

緊張しすぎていたようだ」



コンコン、不意に扉がノックされた。

「殿下、声がすると報告がありましたが、起きてらっしゃいますか?」

それはギュフタフの声。


コンラートは瞬時にして状況を察し、血の気が引いた。

やっと朝日が昇り始めたぐらいの時間だ。

決戦の当日だというのに、部屋に少女ともいえる若い女性を引きづり込んでいる、と考えられても仕方ない状況だ。

これでは、あの王太子と同じではないか。




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