序章
人々がいる 行くべき場所がある
されど 道はなし あるのはカオスな山のみ
僕は走る はしる、走り続ける
木に喰われないように
松明など持っていない
あるのは一本の杖のみ
ここで火は灯してはいけない
そう、これを守ればいいだけ
別に守っていたら無事な訳ではない
守っても喰われるときは喰われる
結局運だ
だから走る
喰われる可能性を
減らすために
月が明るい
可笑しなものだ
今はまだ昼なのに月が明るいなんて
なぜか夏なのにあそこには雪が降り
そちらでは桜の吹雪が舞う
走れば聞こえる嗤い声
存在自体が化け物のようなこの山では
木以外の化け物など珍しい
もうすぐ小屋につくそれまで一直線
朝顔の花が咲いてるかと思えば
石鹸玉がプカプカと行く
竜胆の花が咲いてると思えば
蛍火がチヤチヤと行く
月石の光が見えた
家からだ
家というにはあまりにもボロい
ただ一人そこで暮らすというなら丁度よい広さ
緑豊かなこの山では珍しい
石造りの小屋
なゐがきたら一発で崩れるだろう
だが別に崩れてもいい
必要なものなど ここにはないのだから
…いや、寝床は必要か
だから崩れる時がきたら
枕が壊れないように気をつけるとしよう
大抵、無駄に終わるが
汚れてしまった身体を洗うとする。
井戸へ行く。
家のすぐ横にある井戸で水を汲み
全裸となって身体を洗い流し
手拭いで拭く。
脱いだ服をたたみ、普段着をきた。
丁度、庭にうえてあった鬼灯があかがち色となっていたから二つ三つそれをとって玄関においた。恐らく元気に飛んで行くだろう。
ここは極東にある島国、出雲の何処か
この山は名無し、名がない
近くの村人、いや、この国を統べる天子様でさえ忌み嫌う山
この国の神聖な地であり穢れた地
過去と未来が交錯する地
生と死が見える地
混沌とした地
奇跡の有り難みが失せ
絶望さえ見失う地
人々はその山に名をつけず
あれやこれやと言って表した
もはや、あれこれと言ったら
この山を指すともいわれている
だからそこらではあれこれ山ともいわれてる
残念なことにこれは名ではない
この山は名無し
人々はあれこれと言う
されど名ではない