10(終)
『VBIP』という作品。一人称で書きます。
【プロット】
七谷未来視点①。
朝。通行人と過剰に距離をとりながら歩く。カーブミラーに映る女子高生(自分)の姿が滑稽に見える。曲がり角や交差点では特に注意深く見回して、ゆっくり進む。クラスメイトの軟派な感じの男と会ったので挨拶を交わすが、近づいてきた相手に対して逆に離れていく。そこで相手が思いだして、
「たしか、人間アレルギーだったっけ?」
それに対して頷き、三十センチ範囲に人が入ると症状がでるのだと説明する未来。「ごめんね。みんなともっと近づきたいんだけど」
「へえ」
彼はちょっと引きながら、
「なんか……七谷さんって超可愛いのに、大変だね。頑張って」
「うん」と微笑む。
仁くん視点①。
ラブホテルのバスルーム。ナイフで美少女の腹を裂いて、顔の皮を剥いている。
(この子は昨日駅裏で拾った。顔を見せたら、喜んでついてきた。)鏡に映る美形の自分を見る。
芸能一家に生まれた僕は、アイドル、モデル、歌手、女優……若く美しい四人の姉に囲まれて、『いたずら』をされながら育った。
それがどう巡り巡って『このこと』に繋がったのか、僕自身はよく理解できていない。
ただ、長い間、『美少女』は僕の体を蹂躙する存在だった。その完璧な容姿で。成すことすべてが正しく美しいと主張するように。
十九歳……大人になろうとする僕の心は、その支配から解き放たれようとしているのかもしれない。幸か不幸かもう少女の美しさを失った姉たちの代わりに、道行く美少女を使って。その完全性を暴きながら。
死体を携帯で撮影する。カメラロールには他の美少女の惨殺体の画像も多数ある。
死体を眺めながら、
できることなら部屋に飾って、ずっと眺めていたいけど、捕まって『このこと』ができなくなるのは困るから、処理するしかない。切って、削いで、砕いて、割って、トイレに流す。
携帯のアラームがなる。美少女の服や持ち物を自分の大きめのバッグに入れて部屋を出る。
フロントの監視カメラを見て、
(入るときは二人、出るときは一人……。いつかバレるかな。でも、今はバレていない)
街のカフェへ。撮影機材があり、撮影スタッフが大勢いる。
「おはようございます」と挨拶。
「主役、沢野亮役の皐月仁さんです」と紹介される。
台本に目を通していると、女優が現れる。
「ヒロイン、建部りな役の渡樹音さんです」
(渡樹音……元はティーン雑誌のモデルだったが昨年の深夜ドラマ出演を期に芝居の仕事が増え、急成長の演技派と呼ばれる女優)
彼女がこちらを見る。
(そして……美少女だ)
未来さん視点②。
昼休みの風景。
机を一メートル離して友人の沙央と会話する未来。
「近所で映画の撮影をやってるんだって。(そうなんだ、と未来の相槌)私は興味ないけど」と沙央。
他クラスの眼鏡の女子がやってくる。
「七谷未来さんよね。あなたと、友達になりたいなと思って」
しかし友好的な表情ではない。
「ええと、……山本さん? いつも学年一位の」
「前回、あなたに負けるまではね」
にっこりとしながら、
「すごいわよねえ。しかも可愛いし。私なんて勉強しか取り得がないのに。天は二物を与えたねえ」
近づいてくるが、沙央が「ストップ。それ以上近づいたらだめ」と言って止める。立ち上がって、
「この子、人間アレルギーなんだ。ちゃんと学校にも言ってある。悪いけど、一メートル離れて」
「はあ? あはは」
嘲笑。
「そうやって付き合いとか断って、机もこれだけ離して、勉強の環境整えてるの? へえ、やるじゃない」
「いや本当だって……」と呆れる沙央。
未来は目をそらしている。
その隙に、山本は近づいてきて未来の服に触れようとする。
「いやでもおかしくない? 服の上からでも駄目とかさあ」
瞬間、周囲が騒ぎになる。未来は沙央の机にあった手鏡に映る自分を見る。顔じゅうに湿疹ができている。
沙央が山本に近づいて、低い声で言う。
「これでわかったろ。特にお前みたいなやつは三十メートルは離れな」
未来は驚く山本に向かって、「大丈夫、すぐひくから」と言うが、彼女は教室を出ていってしまう。
沙央と下校する未来。「昼休みはありがとう」と言う。
「いや、いいよ」と沙央は言って、迷った素振りをみせて、「これ言うの、未来が初めてなんだけど」
未来うなずく。
「私、昔いじめしてたんだ」
未来、数秒呆気に取られてから、またうなずく。
「あの頃、家が荒れててさ。父親とか……。いや、違う、言い訳だこんなの」
「あ……、うん」
「別に罪滅ぼしじゃないんだよ。ただ今はなんか、私の荒っぽい性格を、みんなが仲良くする方向に使えたらって思ってて。……ああ、こんなのあんたにする話じゃないよね。痛いよね……」
「そんなことないよ」
未来、優しく声をかける。
「家とか環境……生まれ持った境遇は選べないから……。それに今……どうしているかが大切なんだよ」
しばらくして、
「未来、優しいなぁ」
「そうかな……」
「可愛いし。私もそうなりたい。未来みたいに可愛くないもんなぁ」
「そんなことないよ」
(確かに、かっこいい寄りだとは思うけど……)と思う。
未来より先を歩いて、曲がり角や交差点で人が来ていないかを確認する沙央。私はそのおかげで安心して歩けるのだ、と思う。
「ねえ、未来って、何になりたいの? いつも帰って勉強してるんだよね。医者目指してたりとか?」
「ううん、そういうのはまだわからないけど、なんか、なんていうか……何かを成したい……残したいって思ってて」
「すごいね。それ、すごいよ」
「そうかな……」
しばらく歩いて、挨拶を交わして、二人、笑顔で別れる。
殺人鬼視点②。
樹音の演技、視線の動き、周囲を巻き込むような呼吸を見て、(こいつは天才だ)と思う仁。自分が業界でこれまでに見てきたものと比較して、トップクラスの逸材と評価する。(間違いなく更に伸びるし、売れる)
二人でシーンを演じる。
彼女の演技にのまれそうになる。(流れが生じている。素人でも、彼女の前に立てば演技をしてしまう。視線、重心、息づかい、リズム……)
樹音がアドリブでキスをする。
その感触の描写。咄嗟に仁もアドリブで樹音を抱き寄せる。
シーン終わり、監督からオーケーが出る。それどころか絶賛される。「仁くんもよく対応したね」
樹音、小声で、「脚本にブレがあると思いました。建部りなの一本気なスタンスがこのシーンで一瞬弱まる。きっと次のシーンをむりやり入れた弊害なんですけど、キスで調整できると考えました。でも沢野亮がここで受け身だと彼の終盤の変化との関連性が崩れる。やっぱり皐月さんは凄い。全部理解して、受け止めてくれた」
(すごいのはどっちだろうな……。僕は物心ついたときから芝居をしてるんだぞ……)
「このあと少し話せないかな」と誘う。
美少女だが、さすがに同業者を狙おうとは思わない。単純に一人の演者として興味を持ったのだ、という独白。
撮影終了後、二人で路地裏へ。
すごい勢いとテンションで演技や好きな映画について語る樹音。知識は広くないが洞察が深く、仁と同等に話ができる。
そうして仁は話していたが、自分の心の動揺に気づく。
記憶の中の、姉たちの唇の感触がフラッシュバックする。
(そういえば、美少女とのキスがある仕事はこれまで全部断ってたな……)
(ハグまでなら平気なんだが)
樹音の話を止めて、
「君はとても素敵な子だ。才能も、意欲もあって、すごく、魅力的な……」
「えっ」と頬を赤らめる樹音。
「でも、そんな君でもうんこはするんだよね」
「……」
「その腹の中には僕たちと同じ、うんこが詰まってるんだろう」
沈黙。
樹音が笑い出す。目をきらきらさせて、「面白い!」と言う。
「皐月仁さん、噂どおりの人です。その発想力があのミステリアスな演技に活かされてるんですね!」
仁、懐から出したナイフで彼女の顔面を切り裂き、醜い内部を露出させる。続けて腹を切り裂いて内蔵を溢れ出させる。
「よかった……。こいつも完璧じゃない。完璧な存在なんていないんだ。あのときの、美しい姉たちも、『いたずら』も、完璧じゃなかったんだ。美少女は、神じゃない。大丈夫だ、僕は、この世界から、否定されてない……。大丈夫だ……。大丈夫……」
路地裏を出る。
服の返り血を浴びた部分を隠しながらふらふらと歩く。道の角を曲がったところで下校途中の女子高生がいる。それが美少女だとわかった瞬間、顔面と腹部を瞬時に切り裂いて殺す仁。
(だめだ、すぐに自分が揺らいで、心がバラバラになりそうになる。もっと確かめないと。美少女は汚いってことを、醜いってことを……もっと)
出会う下校中の美少女を次々殺す。
そして、交差点を注意深く進む美少女(未来)と遭遇する。
未来さん視点③。
血まみれの仁と足元の死体を見る。驚く間もなく仁が襲いかかる。
突き出されたナイフと腕は、私の腹部を透けるようにして、通過していた。
「幽……霊」
目を見ひらいた彼の言葉。
私は小さく首をふって、思い返す。
真っ白な部屋、さしっぱなしの点滴、一年おきの手術。
死。
そして、雲の上、堅苦しいスーツを着た神様の言葉。
『また生きたいかね』
私はうなずく。
『ならば資格をとりなさい』
幽霊学、現世干渉学、干渉力学……二年半の勉強で現世干渉資格者となった私は、神様に額を触れられて――、
「V、B、I、P……」
ビジブルボディ・インビジブルパワー(可視の体と不可視の力)を手に入れた。
「半幽霊です、私は」
見えない力が彼のナイフを吹き飛ばした。
体のイメージを調整して湿疹をつくったり、手で物に触れられるようにしたりする程度ならいいけれど、大きなものを動かすと、VBで可視を保つのも、IPによる重力や地面への干渉もおろそかになる。ふわりと浮いて、透過率の上がった自分の脚を見下ろして私はつぶやく。
「半人前。要、練習です」
IPの波で、二本目のナイフを出した彼を攻撃した。ナイフがひしゃげて転がり、ブロック塀にぶつかった彼の腕が変な方に曲がった。
「さっき、躊躇せず私を狙った。無差別犯……。野放しにはできない」と未来は言う。
「美少女、殺す」と仁。ぼろぼろになりながらも、まだ戦う意志を見せる。
それを徹底的に叩き伏せようとする未来だったが、突然攻撃を止める。
(今のイメージは……)と驚く。
(実体でも幽体でもない力であるIPは、攻撃に使用するとき稀に相手の思念にまで干渉する……)
虐待のイメージが更に流れ込んでくる。未来は動揺する。
執念で戦おうとする仁。
それを見て、思わずひざまずいて、透ける体で彼を抱きしめる。
「あなたはかわいそうな人です。もう苦しまなくていいんです」
仁、未来の顔を見るが、すぐに気を失って倒れる。
未来、たちあがる。
サイレンの音がきこえてくる。
その後の経過を未来が語る。
テレビでは連日、仁の話題。過去に犠牲者多数。容疑者の姉で女優の皐月心さんらはきょう会見を開く模様……など。
昼休み、ネットニュースの表示された携帯を置いて、
「なんか、もういいよね」うんざりして言う沙央。
「うん」机に目を落として言う未来。
そこに山本がやってくる。何かいいたそうにもじもじしている。
沙央がため息をついて追い払おうとするが、「沙央、いいよ」と未来。
「友達だよね、山本さん」
「……?」
「この前、友達になろうって言ってたでしょ」
未来微笑む。
「ああ……うん、そうね」
山本、教室に入ってくる。
「別に、謝りにきたんじゃないわよ。友達だから来たの。優秀な人との付き合いは大事だからね」
と微笑む。
「うん」と未来。
「はあー……しょうがないな」
と沙央は苦笑して
「ただし二メートルは離れろよ」
「はあ?」と山本。
未来が笑う。
仁視点③。
留置場で座り込む仁。
なんだったんだ、あいつは。
幽霊……。
壊せなかった。
逆に、見えない力が僕を壊した。
美しい。そして壊せない。
『完璧な存在……』
幼い頃に散らばって、必死でつなぎとめたはずの体が、またバラバラになる――、
……そんな気がしたが、僕の心は穏やかなままだった。
彼女の言葉が、頭の中によみがえった。
『もう、苦しまないでください』
抱きしめられたとき、透ける体から温度は感じなかった。
何も感じなかった。
当然だろう。彼女は、幽霊なんだから。
頬を温かいものが伝った。
僕はそれをぬぐった。
【終】
【登場人物名】
ヒロイン……七谷未来
殺人鬼……皐月仁
天才女優……渡樹音
友人……真田沙央
ガリ勉女子……山本
【ストーリー】
女子高生七谷未来は以前闘病の末に死亡したが、現世干渉資格を取得し、VBIP(可視の体と不可視の力)を手に入れた幽霊。見えてはいるが透けてしまうので人間アレルギーを装い他者から離れ、必要時には不可視の力を使って物に触れているように見せかけて暮らしている。
そんな彼女の前に美少女だけを狙う殺人鬼、皐月仁が現れ、襲いかかる。
ナイフは彼女を透過し、不可視の力によって仁は倒されるが、その際、未来は彼を歪ませた虐待の過去のイメージをみる。
未来は攻撃をやめて彼を抱擁する。その後、仁は留置場で彼女を思い返し、涙とともにその心を融かすのだった。
……ってこれ、ストーリーと登場人物名、要るかな……。
実際プロットだけで全部わかるように書いてるつもりだし、それ以外いりませんよね……。
そして必殺の、セリフまでガッツリ書いちゃうプロット。
しかもところどころ本文が完成してしまってるという……。
これをただ修正していってそれがそのまま作品になるという、自分でもなにかがおかしいと思うようなスタイルで書きます。
ていうかこれ現時点でほとんど本文、というか本編ですよね……。最初に作ったやつのほうがプロットと呼べたのかも……。
よくわからないのでもういいです。本文書いていきます。
まさかこのダラダラ日記のようなものに最後までお付き合い頂けた方がもしおられたら、ありがとうございました。お疲れ様でした。私、小説一年生ですのでこのようなことになっております。日々なんか模索中です。
いやでもこれ、楽しかったな……。もういいだろってくらい設定考えるのとか。
話は死神にまで及んだし、もう考え尽くした気がするんですけど、どうなんでしょう。まぁもともと広がりようのないはずの話でしたからね。結局平和な世界ですし。
これがバトルありの長編だったら考えること山積みなんでしょうね。
うわあ、だらだら終わっていく……。
それでは失礼します。ありがとうございました。




